128.竜王との約束
次の日、俺が庭の樹木をいじりながらゴーレムを作成していると、アンネが尋ねてきた。
「ダイチ様、おはようございますー」
「おう、アンネか。どうした」
随分といきなり訪ねてきたものだけど、何か用だろうか。
「少しお聞きしたい事がありまして。……先日、こちらの方から竜が三体ほど吹っ飛んで来たのですが、ダイチ様がやられたので?」
「あー」
なるほど。この前吹っ飛ばした奴が森を飛び越えて、平原の方までいってしまったのか。
それを考えると本当にゴーレムの一撃が強化されていたんだろうな。
今までは竜を相手にしてもそんな事、無かったんだし。
「もしかして、何か被害でも出たか?」
「いえ、すぐに泣きながら逃げていったので平気だったのですけれど、竜の方に……なにか問題でもあったのでしょうか?」
「いや、特にないぞ。いつも通り、襲って来た奴らだし」
まあ、たまたま手動で対処できる状況だから手動で対処して、吹っ飛ばしてしまったわけだが。
そう言うと、アンネはほっと大きな胸をなでおろした。
「そうですか。良かったです。何事かと思いましたよ。これまでイノシシやらスライムやら、モンスター系が吹っ飛ぶのは時たま見ていましたが、まさか、竜まで来るとは」
あ、他のモンスターも当たり所がいいとかなり飛んでたんだな。
ただ、被害がない地点に吹っ飛ばせているのであれば、問題は無いだろう。ただ、
「もしかしたら、今後は吹っ飛ばすものが増えるかもしれないな」
「え? どうしてです?」
「今、そのふっ飛ばし装置を今作っている所だからだよ」
装置と言っても大げさなものではなくて、飛来してきたモノをゴーレムが自動的に受け止めて、投げ飛ばしてくれるように設定しているだけだが。
「もしも危なさそうなら威力の方を調整するけど、大丈夫そうか?」
「ええ、ちゃんと何もない平原に着陸してますから、平気ですよ」
良かった。それならこのまま調整して作ってしまおう。
「あ、ただ、聞いておきたかったのですが、吹っ飛ばされた竜が、着陸先で牙や鱗を大量にはがしていくので、こちらの方で採取させてもらってもいいですかね?」
アンネはこくん、と頷いた上で、尋ねてきた。
でも、なんでそこで俺の許可を求めてくるんだ。勝手に持っていけばいいだろうに。
「ダイチ様が吹っ飛ばしたものですから。ダイチ様に占有権があるので、勝手に持っていくのもどうかと思いまして」
「相変わらず律儀だな。でも、俺の事は考えなくていいよ。家に突っ込まれたら面倒な奴らを追い払っているだけだしな」
というか、ぶん殴って吹っ飛ばしたら鱗が落ちるんだな竜って。初めて知ったよ。
「いえまあ、理性を失っているとはいえ竜なので、普通は魔法でじっくり時間をかけないとはがれないんですがね……。衝撃が強すぎてポロポロ落ちまくっているというか……」
「素材になるなら良いことじゃないか」
「そ、そうですね。――では、有難く頂きますね」
ぺこり、とアンネは頭を下げて、それからキョロキョロと周囲を見渡した。
またヘスティを探し回るつもりかね、と半目で見ていると、
「……うう、姉上さまに会いたいですけれど、時間がないですね……」
アンネは肩を落とすだけで、その場から動かなかった。
「今日はヘスティを探しまわったりしないんだな」
まあ、探し回った所で、ヘスティは先ほど外出してしまったからここにはいないんだけどさ。
「正直、そうしたいのは山々なのですが、竜の谷の方で用事がありますからね。そっちに行かなきゃならないのですよ」
「用事?」
「ちょっとした竜と竜王の集まりです。ダイチ様も、いらっしゃいますか?」
「いや、行かないよ」
行く理由も意味もないじゃないか。
「一応、竜の谷の支配者は、ダイチ様になっていると聞きましたが……」
「いや、支配をしているつもりはないぞ。襲ってくるなとは言ったが」
というか、竜の谷の存在も知っているし場所も分かっているけれど、実際に行ったことは一度もないし。微妙に険しい岩山だから、散歩でも行く気がおきないしさ。
「そうですか……。わかりました。それでは、夕方くらいに、竜の谷のお土産を持ってもう一度うかがわせていただきたいのですけれども、それはよろしいですか?」
「別にかまわんが、ヘスティに会えるかどうかは分からないぞ?」
「うぐっ……い、いえ。大丈夫です。私はヘスティ姉上さまの匂いを鼻から取り入れるだけで、満たされますから」
アンネは微笑しながらハアハアし始めた。鼻血も若干出ている。
改めて思うけれど、この竜王に付きまとわれているヘスティは大変だな。
「まあ、分かったよ。勝手に来てくれ」
「はい、ありがとうございます! それでは、一旦、失礼しますね」
そして、アンネは竜の谷へと向かって行った。
何の用事か分からないけれども、面倒事じゃなければ何でもいいか。
……一応、このことはヘスティにも伝えておこうかな。
なんて思いながら、俺は庭の仕掛けを強化し続けていった。





