127.新装備は実戦で確認
夕方から夜に変わろうとする頃合い。
ヘスティは俺に綺麗に磨かれた白い杖を渡してきた。
「はい、補修強化、完了」
「もう出来たのか。早いな」
「一から作るわけじゃ、ないから」
受け取った杖の重さや感触は、以前のものとは殆んど変らない。
ただし、ほんのわずかにツヤが出ているのが分かった。
「さっきの二倍くらいは、頑丈になっていると、思う。岩を殴ったら岩が割れるくらいには堅く、柔軟になっている」
「そんなにか」
「ん、でも、これくらいしないと、アナタの力に耐えきれるか不安だった。でも、もう、全力で使って、大丈夫」
どうやらかなりの自信作のようで、ヘスティは小さく胸を張った。
そんな良い物を貰ったのなら、早速使ってみたいところだが、
……何をするかね。
温泉の整備をするにはイメージ魔法の方がいいし、家の形を変更しても、そこまで力は使わない。
「やっぱり樹木を生やすのと、ゴーレムを作るのが一番、力の加減が分かりやすいかな」
なので、俺は庭の空き地に適当にリンゴの種を蒔いたうえで、杖を握った。
「《伸びて実をつけろ》」
喋った瞬間、庭に数十単位でリンゴの木が生えた。
しかも、赤々とした果実がなった状態で、だ。
「おー、久々に生やしたけど、すげえ楽に生やせるようになったな」
「……ゴーレムだけじゃなくて、樹木の育成も素早くなってる。しかも、リンゴの魔力量も上がっているし。アナタの成長性、おかしい」
「いや、そこでおかしいって言われてもな」
ヘスティはジト目で俺の顔を見た後で、杖に視線を移した。
「ん、でも、ちゃんと魔力が乗って、魔法鍵を実行できたね」
「そうだな。なんだか今まで以上に、使いやすくなった気がするよ」
「それは良かった。……でも、こんなに一杯リンゴの木を作って、収穫とかは、どうするの?」
「あー……」
それは考えてなかった。また収穫用のゴーレムを調整しないといけないし、リンゴの収穫スペースもどこかに確保しないといけないな。
……折角祭りで消費したのに、流れでやっちまったなあ。
まあ、保存食としては意外と役に立つし、精霊とかにオヤツで出すと人気だから良いんだけどさ。
どこに収穫したモノを置くかなあ、と考えていると、
「あ、竜が、来るね」
「うん?」
ヘスティが森の方を指差した。そこには、
「グオオオオオオ!!」
ドラゴンが走ってきていた。
今度は二体だ。
「なんだ? 今日は襲ってくるのが多いな?」
「なんだろう。理性が飛んでいる竜が暴れるタイミングが重なるなんて、早々ないんだけれども。……ちょっと、調査してみる、ね」
そうか。まあ、その辺りはヘスティに任せるとしようかな。
あとは、突っ込んでくる竜を追い払う罠か、新しい仕組みでも考えておこう。
地上から来るのはゴーレムでオーケーだが、空から来られると面倒だし。
……前に作った対空装備でも、叩き落とすことは出来るんだけどなあ。
庭に墜落されると、掃除が大変だ。
空中から来たのを打ち返す用のゴーレムでも作るべきかね。
「まあ、今は手動で追い払うか。ちょうど樹木もあるし、杖もあるしな。――《ゴーレム×百》」
俺が魔法鍵を発動させた瞬間、先ほどまでリンゴの樹木だったものが、全てゴーレム化した。
「後は任せた」
そう言った瞬間、百体のゴーレムの目が、一斉にドラゴンの方に向いた。
「ギ……?!」
その様子に、ドラゴンは二匹ともたじろいだ。
だけれども、ゴーレムは止まらず動き出す。
ドラゴンに向かって、ドシンドシンと走り出し、
「――」
「ぐ、グアアアアアア…………!!」
次々に走り寄るゴーレムたちの波に押しながされるように、ドラゴンは吹っ飛んでいった。
「これで、おしまいっと。杖は……壊れてないな」
二回も使って無事なら問題ないな。
「きちんと、耐久性、上がってる、ね。同じような条件で、実践証明とれて、良かった」
ヘスティは満足そうな表情をしている。
確かに杖の安心感は増した感じがするな。
「ありがとうな、ヘスティ。大事に使わせて貰うぜ」
「ん、もしも足りなければ言ってね。我、しっかり直す」
「おう」
話しているうちに良い時間になったので、俺はさっさと家に戻って食事をして寝ることにした。
とりあえず、ゴーレムが走ってちょっと荒れた庭は明日、仕掛けを作るついでに直す事にしようかね。





