-side ディアネイア- 事後の報告
執務室に戻ったディアネイアは、騎士団長からいくつもの書類を受け取っていた。
祭りの成果だけでなく、失敗した部分や改善点などが記載された紙がわんさかやってくる。
それをディアネイアは一つ一つ見ていたのだが、
「ええと、これは、……外縁の住民からの報告書か」
「はい、農業に従事している方々から、次々に豊作の知らせが上がっておりますので。書類の量が増えております」
祭り開けということもあって、普段以上に書類仕事をしなければならないのは正直うんざりではある。けれども、
「はは、嬉しい悲鳴とはこのことだな」
「ですな。過去の記録からしても今年は類を見ないほどの収穫になったようです」
「ふむふむ。今年は祭りで消費した量も大概だったが、それを埋め合わせるくらいに採れたのなら何よりだな」
いつも以上に人が訪れた今回の祭りでは、食糧を大量に放出した。
けれど、書類に書かれている言葉は大体、去年の倍とか、前年とは比べ物にならない質と成長速度だ、とか驚きと喜びが混じっているものだ。
「ありがたい話だな」
「ええ。なんというか、これが一人の力によってもたらされた恩恵と思うと、驚きを通り越して平然と考えられますな」
騎士団長は苦笑しながら言う。
一人の男によって街の環境ががらりと変わるぞ、なんて普通は信じられないだろうしな。その気持ちは分かる。
「ただまあ、ダイチ殿には礼を尽くすのは当然だが、頼り過ぎずにやっていく方法を考えなければいかんな」
「それは私たち騎士団も同感です。彼に甘える事なく、鍛錬をしなければあっという間にふぬけてしまいますから。騎士にとっては、彼はとても素晴らしい刺激になっていますよ」
そういえば、最近の騎士団はやけに訓練を頑張っていて、全員の実力が上がっているような気がする。
「うん、そうだな。私も最近は甘えてばかりだったから、もう少し鍛えこまねばならん」
でなければ、彼の後姿すら見えなくなってしまう。
「いやいや、姫様はもう大魔術師の中でもトップクラスではないですか。この前、協会の人間も姫様の力に御世辞抜きで驚いていましたし。そろそろ超級のランクに上げるべきではないかと」
「はは、おだててくれてありがとう、騎士団長。だが、ランクアップの件はまだまだ先延ばしにさせてもらうよ」
ランクを気にするよりも、まずは実力を練ることに集中したい。それが大魔術師としての力をもつディアネイアの方針だった。そして、
「修行する為にも、今はまず、この仕事を終わらせなければいかん。ちゃっちゃとやっていくぞ、騎士団長」
「ええ。それで、姫様。書類の中に、ひとつ気になった案件がありまして」
「うん?」
騎士団長は一枚の書類を手渡してきた。
「こちらですね」
「ふむ……巨大で歪な植物と、小規模の地下空洞が発生している、か」
書類には地図が添付されており、赤いバツ印がいくつかついていた。
ここに地下空洞があるとのことだが、
「空洞とは、ダンジョンでも出来たのか?」
ダンジョンまた自発的に伸びてきて、街の外縁に辿り着いたのだとしたら、それはそれで大変なことになるぞ。
「一応、先遣隊を送りましたが、大量のモンスターが飛び出してくることは無かったとのことです」
「なるほど。……では、しばらく調査を頼む。先遣隊の報告次第では私も向かおう」
「はっ、かしこまりました。早速、指令を送っておきます」
そうして騎士団長はいそいそと執務室から出ていった。
「ふう……良い報告ばかりではないな。祭りが終わっても、問題は尽きないか」
ディアネイアは、すぐに戦闘準備を整えられるようにモノを整理しながら言葉をこぼす。
いや、正確に言えば祭りの時が特別で、今は通常に戻っただけなんだろう。
……いつまでもお祭り気分の頭ではいけないな。
さっき、自分を鍛えようと決めたばかりだ。
だから気を抜かずに行こう、とディアネイアは気持ちを引き締めるのだった。
街の方では問題が尽きないようですが、森に住んでいる人は変わらずマイペースです。





