124.いつもの調子で、ゆったりと
街から帰ってきて数日、俺は、とてもよく眠っていた。
近場の街といえども、やはり知らない土地で眠るよりも、自宅の方が寝付きがいい。
街とは違ってとても静かな空間なこともあるだろう。
だから今日も俺は昼過ぎまで眠っていた。
「あ、おはようございます、主様」
目を開けると、ニコニコとしたサクラがいた。
テーブルには温かそうな食事が並んでいる。
「おう、おはようサクラ。あと、用意がいいなあ」
「ふふ、主様の体調管理はしていますから、起きる時間はなんとなく予測できます。今、パンを焼いているので持ってきますね」
サクラは微笑してキッチンの方に向かった。
起きてすぐに食事が出来るのは有難い、と俺は顔を洗った後で飯にする。
ここのところは毎日、睡眠時間を長く確保しているので、体は快調だ。
だから寝起きでも、食事はバクバクと食べられる。
「ん? このパン、いつも以上に美味いな」
普段からサクラ手製の料理は美味いと思っているが、なんだか、今日は特に美味しい感じがする。
「そうですか? 人狼の方々が持ってきた小麦粉でいつも通りに作ったんですが、高い小麦粉でも持ってきてくれたんですかね?」
そうなのか。だとしたら、人狼たちには礼を言っておかないとな。
あと、渡す金も多めにしておこう。
「祭りの時に出た売り上げも、かなり部屋を圧迫しているしな」
「そうですねえ。まさかリンゴが詰まっていた部屋が、全てお金の袋で埋まるなんて……」
店から金の袋を運んできたらそうなった。
結局、リンゴの在庫で埋まっていた場所が、金銭に変わっただけになった。
いや、確かに圧迫感は少なくなったんだけど、重さ的にはむしろ増えたような感じもする。
……人狼も竜も、騎士たちも買い過ぎなんだよ……。
作った分が全部売れたのは有難かったんだけどさ。部屋が使えないのは、結局同じだ。
だから人狼達にでも渡して減らした方がいいかなあ、と思っているのだが、
「下手に渡す額を増やすと、あいつらドン引きするからなあ……」
「あ、あはは。主様が銀貨袋を二桁単位で渡された時は、引いた上に泣いていましたからね」
そうなんだよな。実際、あいつらに大目に渡そうとすると、
『お、恐れ多くて受取れません。どうか、なにとぞご容赦を』
しか言わなくなった。前よりも親密になったから受け取ってもらえるかと思ったのに、あの態度はいつまでも変わらないらしい。
で、結局いつも通りの額しか払えなかった。
程度は考えなければならないようだ。
「まあ、金銭関係はあとで決めればいいか。今は庭の調整とかもしたいし」
精霊がダンジョンに住んでから、庭の環境が微妙によくなった。
樹木の成長は何もしなくても素早くなったし、実そのものも大きく育つようになった。
「やっぱり精霊の力なのかね」
「恐らくは。私の感じる限りでは、魔力の量的にはほとんど増加していないのですが……自然環境がより快適になった、と思います」
「へえ、なるほどなあ」
もしかして、この寝付きやすくて目覚めやすい丁度いい環境を作っているのも、精霊の力があってこそなのかな。
「それにしても、あいつら、凄く役立つな」
あれから、ダンジョンの空調管理とか、そこから染み出る温泉の温度管理とかもしてくれていたりする。
なので、地下空間はかなり過ごしやすい状態になっている。
「ダンジョン管理人として有難い存在だよな」
「そうですねえ。彼らはこの家(私)や龍脈を刺激しないように丁寧にふるまっていますし、補助としてはとても優秀ですね」
サクラとも上手くやっているようだし、彼らは上手くこの土地になじんだようだ。
俺としても彼らがいてくれると、精霊の力の塊……精霊石とかいう素材を提供してくるので、色々実験で来て面白かったりする。
……今日も朝から精霊石を出してきたしなあ。
数日に一個くらいのペースで俺の下へ持ってくるものだから、それはそれで溜まってしまったりする。
ヘスティと一緒にどう使えば良いか、あとで会議してみようかね。
「っと、ごちそうさま。美味かったよ、サクラ」
「はい。ありがとうございます。……それで、外にディアネイアさんらしき反応がありますが、どうしますか?」
「へえ、ディアネイアが来てるのか」
窓の外を見れば、確かにそれらしき人影は見える。
祭りが終わって何日も経ってないのに忙しいことだが、何の用だろうか。
「まあいいや。腹ごなしの散歩ついでに、会いに行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ、主様」
サクラに見送られながら、俺はいつものように、外へ出かけることにした。





