122.精霊の住処
俺が家までついたときにはもう、すっかり日が落ちていた。
「また近いうちに、お礼の品物と……お借りしている衣服を返しにこようと思う。では、ダイチ殿、またな」
ディアネイアはテレポートで俺を家の前まで送ると、そう言って去っていった。
……着替えの肌着は上げたつもりだったんだが……。
別に返しに来なくてもいいのだけれども。
それを言う前にいなくなってしまった。せっかちなことだが、色々予定が詰まっているのだろう。
次に来たときに話をすればいいか、と思いながら俺は背中のヘスティに声を変えた。
「さて、ここまで来たらもう少しだぞ、ヘスティ。とりあえず、小屋に運べばいいか?」
「ん、いや。もう、ここまできたら、我が、歩く……」
俺の背中で眠りかけていたへスティがそう言うものだから、彼女を地面に下ろすと、
「……む?」
何やら、俺の足元をささっと動く小さな影があった。
夜の暗闇で見えにくいけれども、これは、
「精霊達? ついてきていたのか?」
「しゃー」
そこにいたのは、四体の精霊達だった。
彼らは街の店と同化しているようだったから、置いてきたのだけれども。
「どうして家まで来ちまったんだ?」
首を傾げていると、眠そうな目で、ヘスティが精霊たちを見ていた。
「……精霊は、従属した主の近くで、生活したがる傾向にある、から」
「いや、近くで生活したいって言ってもな……」
精霊たちが住む場所なんてあるんだろうか。
確かに土の精霊は地下の奥深くで住んでいたことはあるけれど、大量の魔力で酔っ払った状況になっていたし。
「ん、ダンジョン表層、とか、直下くらいなら、大丈夫だと思う、よ?」
「しゃー」
ヘスティの言葉を聞いて、土の精霊は頷きながら地面をたしたし、と叩いた。
すると、体が地面と同化し始めた。
他の精霊たちも土の精霊をまねて、地面と混じり始める。
「地下の、ダンジョンの方と、同化しているみたい」
「うん? それは大丈夫なのか?」
「ん、平気。文字通り、アナタにその身をゆだねてるってこと、だから。アナタが行くな、といった場所には行かないし、呼べばすぐに出てくると思う」
「へー、なるほどなあ」
また地下の奥底まで入り込んで暴走しているとかだと嫌だなあ、と思っていたんだが。そうならないなら、別に良いか。
「むしろ、ダンジョンの中に自然の力が入って、とても過ごしやすくなるかも。空気も循環するし、水っ気もコントロールされるし、雨の日とか、ジメジメしなくなる、筈」
「おお、そりゃうれしいな」
もともとダンジョンは、地下にしては過ごしやすい空間だとは思っていた。
けれど、やはり日によっては良くない空間になる時もあった。
それが解消されるというのなら、いいことだ。
暴走さえしなきゃ、精霊はダンジョンに住んでもらうのが一番いいのかもしれないな、なんて思っていると、
「しゃ、しゃー」
土の精霊が半分ほど地面と一体化した状態で、透明な石を一つ持ってきた。
「えっと、これは……魔石か?」
それにしてはやけに透明すぎる気もするんだが。どうしたんだろうか、と思って手に取ると、さっきまで眠そうにしていたヘスティの目がぱっちり開いた。
「……それ、精霊の力の、塊」
ヘスティは驚いたような、興奮しているような口ぶりで言ってくる。
「力の塊……魔石みたいなものか?」
「魔石に似てる。ただ、精霊しか生み出さないから、魔石よりも、もっと、貴重な素材。貴重過ぎて、我も加工した例は、あんまりないかな。だから、とても、触ってみたかったりする」
だから、そんなに興奮しているのか。
まあ、俺には活用方法が思いつかないし、ヘスティに渡してしまってもいいかもしれないが、
「そもそも、なんで精霊は、そんなものを俺に渡してくるんだ」
「さあ。……家賃、かわり、かな?」
「しゃー」
土の精霊は頷くように手を振った後、その姿を完全に地面と一体化させた。
どうやら家賃で合っていたらしい。
「まあ、貰っておくか。ヘスティに渡せば有効活用できそうだしな」
「ん、……渡してくれたら、頑張って、何か作る」
「おう、楽しみにしてるよ」
ともあれ、こうして、俺の家には新たな店子が誕生したようだ。
ダンジョンの空間管理は、もしも上手くできるようならば、彼ら精霊に任せるようになるかもしれないな。





