121.街を立つ時
「ダイチおにーさん!」
店に戻ってシャッターを閉めていると、城の方からカレンとアテナが歩いてきた。
きっちり回復しているようで、足取りは軽やかだ。
「よう、お前ら、体はもう大丈夫なのか?」
「はい。美味しいポーションのお陰である程度は復帰できました」
「うん、騎士団長さんが、ダイチお兄さんのリンゴポーションを買いだめしておいてくれてからね。それを飲んだだけで、動き回る魔力は回復出来たよ!」
あれはポーションじゃなくてあくまでジュースなんだけれど、直ったんなら良いか。
「それで、騎士団長さんから、これを受け取って欲しいって」
そう言ってさしだしてきたのは、金の入ったいつもの袋だ。
今貰っても、使いようがないのだけれども、断るのもなんなので貰っておくとして。
「んで、アンタはこれを渡すためだけにこっちにきたのか?」
「あ、それもそうなのですが、彼らをお返ししに来たのもあります」
そう言ってカレンはその場から一歩ずれた。するとそこには、
「しゃー」「ふー」「すいー」「ぐー」
四色の精霊たちがいた。いや、正確には分霊だが、ペンダントの力が空になったというもんだから、カレンに渡していたんだ。
それが、四体とも、小さくなって俺の足もとにちょこちょこついてくる。
「お借りさせていただいて、本当にありがとうございました。おかげさまでこちらの力も貯まりました」
「もういいのか?」
「はい。十分吸わせて貰いましたから。彼らは分霊として、貴方についていくそうです」
そうなのか。でも、さっき渡したときと、ほとんど大きさが変わっていないんだけど。本当にいいんだろうか。
「彼等も彼等で霧散していた力を集めていたようで。この通り、問題なく集まりました」
言いながらカレンは首元を露出した。
そこには、透明度のある虹色をしたペンダントがあった。
……これが問題ない状態のペンダントか。
かなり綺麗だな、と俺が頷いていると、アテナが俺の近くまで来て、ゆっくりと頭を下げてきた。
「ダイチお兄さんがいなかったら、私たちは勿論、カレンも危なかった。だから今回は……本当にありがとう……!」
アテナは俺の手をガッチリ掴んで、震えながら言ってくる。
よほど、今回のことが堪えたんだろうな。
「まあ、助かったならいいじゃないか」
「うん……。でも、そのお礼をもっとしたくて、パーティーで色々用意しようと思ったんだけど、ダイチお兄さんはパーティーにでないってお姉様が言っていて。本当なの?」
「ああ、そのパーティーは参加辞退させてもらったよ」
言うと、アテナは残念そうな顔をした。
「うん、ダイチお兄さんがそう決めたなら仕方ないけど……。お城にはご馳走もあるし、これから花火とか、派手な催し物が沢山あるんだけど、それも見ないでいっちゃうの?」
「……まあ、そろそろウチの夕飯の時間だからな。そっちで食いながら見るさ」
既に腹が減ってきてはいる。
けれど、知らない人と喋りながら食べるよりも、ゆったり食べたい気分だしな。
「そう……それじゃあ、また今度、一緒に喋ろうね、ダイチお兄さん!」
「ああ、今度な」
「うん!」
そんな会話をした後、カレンとアテナは城の方へ戻っていった。
それから俺は店の戸締りを完全に確認してから、店の表で待っていたディアネイアのところへ向かった。
「ダイチ殿。準備はできたか?」
「ああ、待たせて悪かったな。もう大丈夫だ」
そして、俺はディアネイアのテレポートによって、三日間住み続けた街を離れることにした。





