119.四大精霊の力vs成長せし金剛
俺は《金剛・カイ》に乗ったまま、精霊たちに引っ張られるように街の外まで走ってきたのだが、
「なんだか、変なのが暴れてるな」
目の前には、ドス黒い光をまとう人型があった。
「そうですね。混じり合った綺麗ではない魔力が見えます。それと、ディアネイアさんたちの姿も」
魔力についてはちょっと分からないが、黒い人型の前に見覚えのある三人がいるのは俺もさっきから見えていた。
そして、黒い人型が放った、地面をえぐる光を防いでいたのも。
「無事か、ディアネイア、ヘスティ。それにアテナ」
「ああ、無事だよ、ダイチ殿。だが、すまない、な。こんなみっともない姿を、晒してしまって」
俺が近寄ると、ディアネイアは力のない声で苦笑して、アーマーの足元に寄りかかってきた。
あの光を受けとめたことで、立っていられないほどのダメージを負ったのだろうが、
「みっともなくは無いさ。あの光が街に行かないように防いだんだろ? なら、アンタは良くやっただろうよ」
そう言って、アーマーを丁寧に操作して彼女の体を持ち上げ、俺の背後に寝かせておく。そして、
「ヘスティ、このポーション使って、自分たちの体を直しておくといい」
「ん、分かった」
とてとて、とやってきたヘスティに、アーマーの中に保存していたポーションを渡す。
それから、俺は黒い人型を見た。これまた見覚えのある姿を。
「しばらくぶりに会ったら、随分と姿形が変わってるのな、カレン。聞こえてるか?」
黒く染まったカレンに向けて声を出すが、
「グウウ……」
彼女の反応はうめき声だけだった。
「もう、カレンの意識、無いから。あの周りにある、暴走中の、四大精霊の力を剥がないと、会話、ムリ」
ポーションを体にぶっかけながらヘスティがそう説明してくれた。
「へえ、あの黒いのが、四大精霊の力なのか」
「そう。……だから、その足元の分霊たちが、アナタを連れてきたんだと思う。主の住む場所が、自分の本体のせいで危険にさらされているって伝えるために」
言われて、足元を見れば、分霊たちはコクコクと頷いていた。
ふむふむ、精霊にはそういうことをする習性があるのか。良いことを知れた。それに、
「俺、力ってものを視認出来たの、初めてなような気がするよ」
俺は目の前にある黒い光を見やる。
魔力とかを視認できる人は、いつもこんな光を目で見れているんだろう。
良い経験だ、と思いながら、彼女をじっくりと観察していると、
「……ウウ……!」
「ん?」
彼女を中心にして、強風が渦を巻いているのが分かった。
その風は平原を薙ぐほど強いもので、恐らく街まで届いている突風の原因だろう。
「もしかして、こいつが天気を荒らしている原因か?」
「え……? ま、まあ、風が強いのは、風の精霊のせいというか、それを取りこんでいるカレンのせいだけど……」
なるほど、祭りの最終日を悪天候にしようとしているのは、これが原因だったか。俺の身内を傷つけている上に、街のムードを壊そうとしているのか。
「それは、よくないな」
と、俺が、一歩前に踏み出した瞬間、
「グオオオオオオオオ!!?」
近づくな、と言わんばかりに、カレンが灰色の光を打ち出してきた。
平原の地面をえぐりながら衝撃がすっ飛んでくる。
「あぶねえな……!」
俺はアーマーの左腕の樹木を広げて盾にした。
強化状態で作られたこの巨大アーマーには、大量の樹木が圧縮されている。
故に、広げても硬度は大して落ちず、その衝撃の全てを受けとめた。
……割と衝撃が来るけど、重量が増えてるから、安定してるな。
巨大な分、重さもあるから吹き飛ぶこともない。
でかくて、重くて、器用に動く。それがこの機体の特性だ。
「んで、まあ、カレンともかく、精霊の方に敵対の意思はあるみたいだな」
俺は左腕を下げて、更に一歩近づいた。すると、
「ウウ……!?」
カレンは、怯えるように後ずさった。
「どうやら……主様の力を本能的に恐れたようです」
「そうか。でも……敵意は止んでないようだな」
カレンそのまま、四肢を地面にへばりつけて、こちらに顔を向けていた。そして、
「ガアア……!!」
全身から黒い蒸気を噴き出し始めた。
更に、蒸気は彼女の体を覆い、回転する風となる。
その風は収まることなく拡大していき、わずか数秒で強大な竜巻が生まれた。
「き、気をつけて! 精霊が、アナタに脅威を感じて、全部の力を、解き放とうとしている!」
背後からヘスティが叫んでくる。なるほど、これが精霊の全力って奴なのか。
「オオオオオオオオオオオ!」
竜巻の中からは猛獣のような叫びが聞こえた。
そして、その敵意ある声に従うようにして、竜巻は俺の方へと向かってくる。
いや、正確には、俺の背後にある街に向かっているんだろうか。
……この竜巻が街に行ったら、俺の店が危ない。
俺の生活にとっては、とても邪魔な存在だ。だから、
「俺の生活を脅かすモノは……俺の力で吹き飛ばす……!!」
俺は更に一歩前に進み、右手を構えた。
瞬間、右腕の杵が、ドリルのように緩く回転し始める。
「サクラ、足元は任せた!」
「はい、土台は私が作ります。だから……主様は存分に戦ってください……!」
「おうよ!」
サクラのサポートで、足回りがしっかりと固定される。
これで、どれだけ腕を振るっても、竜巻が目の前に迫っても、振り回されることは無い。
「オオオオオオオオオオ!!」
叫びは止まず、竜巻は迫る。
その前で、俺はただ、杵がマウントされた右腕を引き絞った。
……魔石の威力は、質と量と、使い手の魔力に依存する……。
それは《韋駄天》を作っていた時に分かったこと。
小さく質の悪い魔石ですら、上手く使えば、ウッドアーマーのような重量物を空に飛ばす事が出来た。
……ならば、良質の魔石を圧縮して作った杵の爆発力はどうなるか。
そういうコンセプトの元、この杵は、モノを破砕し、破壊する為に練り上げた。
何もかもを砕くために、鍛錬して磨き抜いた金剛杵だ。
「……そして、この機体は元々、その爆発力を持った杵を使うために作ったものだ」
だからこそ、この杵を使う機体の名前は、決まっている。
「全てを砕け。――《金剛・壊》!!」
回転する魔石の杵を目前の竜巻にブチ込んだ。瞬間、
「――!?」
機体は、その名の通りの力を発揮した。
杵を打ち込んだ衝撃は竜巻を割り、平原の地面すらも砕き壊し、巻き上げた。
更に、その衝撃は、竜巻を破壊しても止まることなくカレンへと向かい、
「ォォオ……!?」
その身にまとわりついていた黒い異物を吹き飛ばした。
後に残るのは、大きな土煙と、平原を一直線に割り砕いた威力の証。そして、
「ぅ……ん……」
割れた地面に倒れ伏す、カレンの姿だけだった。
四大精霊との戦闘、決着です。
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