-side カレン&アテナ- 精霊確保の難しさ
カレンはアテナと共に、街の西部の平原にいた。
広く遠くまで見渡せるその場所で、彼女は、緑色のついた巨大な竜巻と対峙している。
竜巻はゆっくりとした速度で、街の方へと向かっていた。
「風に色が付いているけど、これが精霊?」
「はい、魔力が宿っている証です。風の精霊は薄く緑の色を持ちますし。確実に精霊がいるかと」
「カレンは何でも知っていて勉強になるなあ。それで、どうやって捕えればいいのかな?」
「普通は魔法での迎撃などで精霊に力を認めさせるのですが……」
言いながらカレンは緑色の竜巻を見やる。
自分たちの体躯の何倍もある、とても巨大な風だ。ここまで成長した風の精霊は、今まで生きてきた中で見たことが無かった。
「ここまで大きくなられると、私とアテナ王女の全力攻撃で、どうにか弱らせて、その隙にペンダントに封印するしかなさそうですね」
「そっか。……じゃあ、頑張ろうか」
その言葉と共に、アテナの目つきが変わる。
にこやかなものから真剣なものに。
「とりあえず、勢いの強い魔法をぶつければいいよね?」
「はい、私も衝撃力強めで行きますので、合わせます。お先にどうぞ」
アテナと頷き、そして懐から杖を取りだす。
「お姉さまほど強くないけど……準大魔術師だからね。最大の火力で行くよ。燃えて弾けろ炎の大砲――《ファイア・キャノン》」
唱えた瞬間、杖の先から生まれた大きな炎の球が緑の風に突き進んだ。更に、
「合わせます。《混成のブレス》!」
カレンの口腔内に溜められた、灰色の衝撃が、一直線に解き放たれた。
その灰色は炎の球に絡みつき、後押しするようにして、突き進む。
そして、速度を増した炎と灰色の衝撃は、緑色の竜巻にぶち当たった。
「――ッ!?」
緑色の竜巻は一瞬、動きを止め、そして勢いを弱めた。
だが、まだ進行を止めない。
「はあ……はあ……効いている、のかな」
アテナの顔には、疲労の色が浮かび始めた。
魔力を大量に込めた炎弾を放ったのだから当然だ。
……本当に、強くなってますね、この精霊は。
カレンが撃ったのも、かなりの力を込めたブレスだった。
一発で、脂汗が噴き出てくる。それでも、まだアテナよりは余裕があった。
「ふう……まだですよ、アテナ王女。効いてはいますが、本体が出ていません。もう一発です」
「だ、ダイチお兄さんは、これを楽々やってたんだね。でも、うん、頑張るよ。――《ファイア・キャノン》!!」
もう一発、カレンとアテナは同時に攻撃した。
疲れを無視して放った先ほどと同じ勢いと威力の攻撃は、今度こそ緑色の竜巻を貫いた。そして、
「グウウ……」
竜巻の中心にいた、半透明をした緑色の精霊が、目つきの悪い顔でこちらを見ていた。
どうやら、竜巻という防壁を取っ払う事に成功したようだ。
ただ、その代償として、
「はあ……は……カレンと一緒だったのに。く……あ、かなり……消耗しちゃった」
アテナはその場にへたりこんだ。
一気に大量の魔力を使用したからだろう。
「立てますか?」
「う、うん、ここまで、魔法を使ったの、久しぶりだから、御免ね、カレン」
「いえ、気にしないでください。普通は、精霊を捕らえるのに人間ならばかなりの軍勢が必要になりますし。竜としても、気を抜いたらやられてしまう程ですから」
「そうなんだ。……ということは、本当にダイチお兄さん、すごいんだね」
アテナの言葉でカレンはダイチを思い返す。
……確かに、彼は規格外だった。
方々から話を聞けば、他の竜王の面倒を見てくれているとのことだし、そんな事が出来る人間がいるだなんて思わなかった。
精霊集めだって、彼のお陰で、全部が集まったわけで、
……私たちが頼りにできる人がいるなんて……。
と、彼の話を聞くたびに嬉しい驚きを得たくらいだ。
ただ、これ以上頼ってしまっては、ただの甘えだ。それは良くない。
自分たちが出来る事は自分たちでしなければ、とカレンは今やるべきことを優先することにした。
「さ、これくらい弱らせれば大丈夫でしょう。無理やりですが、封印してしまいましょう」
「グウ……」
カレンは胸のペンダントを取りだし、目つきの悪い精霊に近づいていく。
未だ、その周辺には風をまとっていて強大な力を感じさせるが、ペンダントに触れた瞬間、
「さあ、封印ですよ」
その体をペンダントの中に溶け込ませていった。
「ふうー……これで、全種類揃ったね!」
「はい、四大精霊、コンプリートです」
「まさか、お祭中に集まるだなんて思ってなかったけど……本当に良かった!」
アテナは朗らかに笑う。
彼女の言うとおり、最初は何カ月かかるか分からなかった事なのに、僅か数日で済んでしまった。
「……本当に、ダイチにはお礼をしなければなりませんね」
「うん、第一王都の方で色々と準備をしないとね。……帰ってからも、まだまだ忙しくなるなあ。カレンとの特訓も残っているし」
「ふふ、そうですね」
と、アテナと会話をしていると、
「……む?」
カレンは不意に胸元が熱くなった気がした。
なんだ、と思って、胸元を見ると、そこには黒いペンダントがあった。
黒色が漏れでて、自分の肌に食い込んで脈を打っている状態のペンダントが。
……精霊の力が漏れ出ている……?
しかも、一体だけではない。ペンダントからは火や水、土や風がこぼれていた。
「いや、これは、四大の力が暴走して私の中に入ろうとしてきているのですか……!?」
竜王として長く生きている彼女には、精霊の動きが良く分かった。
これは、自分の力の振るいどころを求めて暴れているのだ、と。
……精霊が成長しすぎて、このペンダントでは抑えきれないほどの力が、入ってしまったんですね……。
判断するや否や、カレンはすぐに対応することにした。
「アテナ王女。悪い知らせとやってほしいことがあります」
「へ?」
隣で首を傾げるアテナに対し、カレンは落ち着いて胸元を見せた。
そこにある、ペンダントの歪な形を見て、アテナは目を丸くする。
「え、えっと……どうしたの、それ」
「今、四大精霊の力が混じった状態で暴走して、力を吐きだし続けています。本来は国を守るために使われる防衛兵器の力、ですね」
それが、王家のペンダントの本来の使い方だ。
だが、それが勝手に発動している。
ここで発動してしまえばプロシアを害する。そんな力だ。
「これは今、私の体で封印しているような状況です。だからまだ、力は暴れ出してはいません。だから、その間に、アテナ王女は街に、ディアネイアに連絡をしてください。……街の住人の避難と、精霊の力を迎撃出来るような力の持ち主を、……他の竜王を、呼んで、下さい」
段々と、精霊の力が体の奥へと入ってくる。
抵抗してはいるが、思考力と意識が少しずつ、塗りつぶされていくような、そんな感覚があった。
「か、カレン……」
「アテナ王女。私が、もつうちに。――早く!」
「っ、分かった! 《緊急テレポート》!」
カレンの訴えに頷いたアテナは、その場から掻き消えた。
そして、一人平原に残った彼女は、その場で膝をつき、どうっと倒れた。
「さて、まとまった四大精霊相手に、私は、どこまで持つか……」
自分は竜王として多少は強い方だと思っていた。
だが、流石に精霊が四体分も集まると、対抗するのに無理がある。
そこはきっちり判断したうえで出来る事をする。
「まあ、他の竜王が来るまで、……少しでも力を削って……おきません、と…………」
そしてカレンは倒れこんだまま、意識を失った。
そろそろお祭り編もクライマックスです。
いつのまにか連載を続けて四カ月たっていました。
皆さまの応援、ブックマーク、評価、感想など、連載を続ける活力になっております。
これからも書き続けていきますので、どうぞよろしくお願いします





