115.竜王の約束と力溜め
昼飯を食ってから店の外に出ようとすると、同時にヘスティも出てきた。
「あれ、ヘスティも出かけるのか?」
「ん、……不本意だけど、今日は、アンネたちと一緒に回る。約束をしてしまった」
ヘスティは滅茶苦茶、渋い顔をしていた。
かなり嫌そうだが、なんでそんな約束をしてしまったんだか。
「先日、ラミュロスの面倒をみろと言った。その代わりに、最終日は自分と回れと、言われた」
「ああ、だから昨日、アンネとラミュロスは一緒にいたのか」
どうして一緒にいたのか分からなかったけれど、そういうやり取りがあったんだな。
「なるほどなあ。あそこの街角にアンネがスタンバイしてるのもそのせいか」
「……え?」
ヘスティは目を見開くが、気づいていなかったんだろうか。
俺の店の反対側の路地に隠れるようにして、アンネが立っているじゃないか。
「姉上さま姉上さま姉上さま姉上さま……!!」
目をキラキラさせてブツブツ呟いているのと、雰囲気が割と不気味だったので、見ないようにしていたけれども。
そしてヘスティも、アンネを見ないようにしつつ、俺の顔を見上げてきた。
「どうやら、アナタの大きな力で、感知が上手くできていなかったみたい。そして、なんというか、アレの視線を浴びさせて、御免なさい」
「いや、謝られることでもないんだけどな」
視線は明らかにヘスティに集中しているから、そんなにペコペコしなくていい。
まあ、あの路地だけは空気がおかしなことになっているというか、人が全く寄りついていないけれども。
「……とりあえず、向かいのお店に謝ってから、一緒に歩くことにする」
ヘスティは諦めたような目になって、頷いていた。
なんというか、本当に苦労人だなあ、とヘスティを見ていると、
「あ、それと、出かける前に、ひとついい?」
「うん?」
彼女はこちらに振り向いて、俺の手に触れてきた
「どうした?」
「やっぱり、アナタのコーティング、緩んで来ているから気をつけた方がいいかもしれない」
「緩んでいる? どういうことだ?」
この街に来てからずっとコーティングを張りっぱなしだけれど、使用制限時間とかあるのだろうか。
「ん、ちょっと、違う。今までコーティングで、魔力をせき止めていた分が、体に溜まっているのが現状。だから、アナタは今、いつもより強い力が出る状態、ということ」
へえ、コーティングってそんな効果があるんだな。
「いや……普通は、魔力をせき止めていても微々たるものだけど。アナタは、保有のスケールが違うから。多分、解放すると、凄いことになる」
「あー……もしかして、さっき魔力の波動とやらが出たのはそのせいか」
ちょっと強い勢いで言葉を出しただけで、重圧みたいなものが出ていたらしいし。
「それも、あるかもしれない。だから適度に魔力を使って、発散すると、良いと思う」
「おー、そうか。前もって教えてくれてありがとうよ」
こういった事前知識は本当に有難い。
分かっていれば、適当にゴーレムを作るなりなんなりで発散すれば良いだけだしな。
「それじゃあ、我、行ってくるね。……地獄に」
「お、おう、色々、頑張れよー」
ヘスティはアンネの元に歩いていった。
その後、ヘスティの体をさらうように持ってから、アンネは走り出した。
……うん、まあ、楽しみ方は人それぞれだしな。
色々と問題はあるだろうけれども、楽しいなら何よりだ。
俺も今日は店を短時間で終わりにして、サクラと一緒に街へ出ようかね。
そう思いながら、俺は三日目の店を開けることにした。





