111.ウサギのお酒
戦闘ウサギのリーダーが、酒瓶を片手に俺の前に座った。
「はい、どうぞ、恩人さま。当店自慢の美酒です」
「おっありがとう。……結構からいな」
コップに注がれた酒を煽ると、舌の上にピリッと来た。だけど、
「でも、美味いな」
素面でそう返すと、戦闘ウサギのリーダーは驚いた顔をした。
「恩人様は酔っ払ったりしないのですか?」
「一口飲んだだけだろ?」
流石にそれで酔いはしないと思うんだけど。
「いえ……それでもこの『ウサギの酒』には結構な魔力が入っていて、一口でも魔力酔いを起こしやすいお酒なんです。なのに、恩人さまは全然酔わなくて……保有している魔力がケタ違いだからかもしれませんが、凄いです……」
目を丸くして言ってくるけれど、そもそも俺はあんまり飲まない方なんだけどな。
食べていることのほうが多いし。
「というか、強い酒をガンガン注ぐなよ」
酔っ払いが増えるだろうが。
見ればシャイニングヘッドの一部は既に出来あがって眠ってしまっているし。
「人を酔い潰して何をしようってんだか」
「それはまあ、ナニをさせてもらおうかと……って、冗談ですよ恩人さま! そんな目で見ないでください!」
流石に店の前でそんな事をしてほしくないんだけどな。色々問題だろうし。
「す、すみません。ただ、この『ウサギの酒』貴重なものなので、そのまま味わってもらいたかったのですよ。本当は水とかで割って魔力も度数も薄めて飲むのですが。このままの方が魔力が濃いまま美味しく飲めるので……」
戦闘ウサギはテヘヘっと舌を出して笑った。
まあ、貴重なものを飲めたのは嬉しいんだけどさ。
「というか……そうか。何かで割ればいいのか」
この味ならば、ジュースで割っても合いそうだな
なら、試してみるか。
「ゴーレム、りんごジュースを取ってきてくれ」
ゴーレムに頼んで、店のカウンターからジュースを取ってきてもらった。
それで先ほどウサギの酒を割ってみると、
「うん、甘くて美味いな」
「恩人さま……? その飲み物は一体なんでしょうか。なんだかすごい魔力がこぼれていますが」
戦闘ウサギ達も魔力が見えるタイプなのか。それなら説明もしやすいな。
「俺の家のリンゴで作ったジュースでな。そこそこ魔力があるらしくて、酒を割るのにちょうどいいかなと思ったんだ」
「あ、いえ、その、そこそこというにしては多すぎる魔力量な気もしますよ……?」
そうなのか。普通の人でも飲めるように改良した方だから、大丈夫だと思っていたけれど、結構な保有量なんだな。
まあ、それでも、原液よりはましだろうと思って飲んでいると、
「あ、あの、恩人さま。私たちも頂いてよろしいでしょうか?」
戦闘ウサギがキラキラした目でこちらを見ていた。
「ん? ああ、いいぞ」
「ありがとうございます! ……ふわあ、これ、すっごい味と魔力が濃厚です……」
そして一口飲んだだけでとろけたような目になった。ウサミミもへたってきている。
ジュースの魔力も重なって、酔いが早く回ったのかね。
そんな様子に興味を持ってか、シャイニングヘッドの連中もこちらへきた。
「旦那。俺も、俺も飲んでいいっすか?」
「おう。どんどんのめー」
「あざます! ……って、すっげえうまい! なんだこれ!?」
ジュースと酒を割っただけなのに、シャイニングヘッドの連中は目を丸くしていた。
「一応、上等な酒を飲んできた経験はあるんですけどね。なんだこの美味さ。酒飲んで飛び上がったの初めてっすよ!」
「そりゃよかった」
アッシュたちは水みたいにグビグビ飲んで行く。
よほど気に入ったらしいな。
リンゴジュースの在庫はまだまだあるし、今夜の宴会中は持つだろう。
そう思いながら、俺は参加者の飲みっぷりを眺め続けていた。
――そして、一時間後、
「うん、予想はしていたけれど、こうなったか」
俺以外の参加者は全員、酔いつぶれた。





