108.戻る竜王と、懐き度
アテナやカレンが外に出た後すぐ、入れ替わるようにしてヘスティが戻ってきた。
「ただいま……って、あれ? 四大精霊がまだいるの?」
ヘスティの視線は、キッチンで火力を活かし、焼きリンゴを作成している炎の精霊に集中していた。
「分霊とかいうのを残していったんだよ。本体はカレンたちが持っていったぞ」
「なるほど。……でも、四大精霊の力を料理に使うのは、すごいね」
「まあ、活用法はそれくらいしか思いつかないけどな」
むしろこれ以外に何に使えるのか見当もつかないんだけど。
「一応、竜王の肌を貫けるほどの力を持っているから。攻撃手段としては強いんだけど……そうだね。アナタの力からすると、それに頼る必要ない、ね」
「そもそも俺は進んで誰かを攻撃したいと思わないからな」
自分が害されれば、勿論、迎撃はするけれども。
ただ、ヘスティの言葉から察するに、この精霊たちは相当に強いんだろうな。
「そんな強い精霊がウチにいていいのかね」
「いいも何も、アナタが力を示したから。ずっといるよ?」
「え、そうなの?」
というか、力を示したって何だ?
「精霊を倒して、無力化したでしょ? それで精霊とアナタは半分、主従契約っぽいつながりになっている。精霊は力で従えるものだから、そうなる」
「へえ、初めて知ったよ」
つまりはゴーレムで踏んづけた時に、力を示した扱いになったということか。
それで、いつのまにか従えていた、と。
「アナタの力は精霊たちに刻み込まれたから。でも、国王とも契約している。……だからこうして、分霊を置いていったんだと思う。精霊は一度従ったからには、絶対に裏切らない、から。ずっといる。この店に、居つくんじゃないかな」
なるほどなあ。ヘスティはその辺の情報に詳しくて助かるわ。
分霊とか言われても、よく分からなかったからな。
「ふー」
そんな事を考えていると炎の精霊が声を上げた。
見ればリンゴが焼けたようだ。
俺はキッチンに行き、炎の精霊が作成していた焼きリンゴを手に取る。
いい焼き加減に出来ていたので精霊を撫でると、
「ふー」
気持ちよさそうにうなった。
見た目は完全に炎なのに、全く熱くない。
「もしかして、触れても火傷するほど熱くないのは俺に従っているから、なのか?」
ヘスティに聞くと彼女は難しい顔をした。
「いや……確かに、熱量は抑えられているけど、火が付いてるし、少しは熱いと、思う。貴方の魔力のコーティングが強すぎて、熱が通ってないだけで」
マジか。懐かれてたら温度が下がるとか、そういうのはないのか。
「温度を下げるなら、炎は消えると思う。だから今、その精霊、頑張って、消してる」
改めて炎の精霊を見れば、慌てたように体をブルブルふるって、炎を消していた。
そして半透明な赤い体だけの状態になると、両手を広げ、もう熱くないアピールをしてくる。
ああ、うん。これでやっと安全になるのか。
「……まあ、懐かれてて害がないならいいけどさ」
敵対されるよりは、面倒がなくていいしな。
なんて思っていると、
――ぐー。
と、腹の虫がなった。ただし、俺のではない。
ヘスティのだ。
「おなか、へったのかな?」
「そこで疑問形になるなよ。ほら、これを食べておくといい」
そして、俺は今できたばかりの焼きリンゴを渡した。
「いいの?」
「ああ、腹を減らして帰ってくると思っていたからな。念のため作っておいた」
「……ありがとう」
ヘスティはちょっとだけ頬を赤くしながらリンゴにかじりついた
美味しそうに頬を緩ませているのを見てから、俺は店のカウンターに戻る。
「さあ、午後の営業開始だ。ゆったり客を待つかー」





