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俺の家が魔力スポットだった件~住んでいるだけで世界最強~  作者: あまうい白一


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104.最初のお客

 最初の十分くらいは客の顔が見たいから、と俺は店のカウンターにいた。

 すると、数分後に、初めての客が来た。


「我らが王よ。開店おめでとうございます」

「ガロウか。久しぶりだな」


 初めての客は人ではなく人狼だった。

 ある意味ヒトではあるけれども。


「俺が店を開くって言ってないのに。随分とくるのが早いな」

「人狼ですので。諜報能力と情報調達においては、どんな種族よりも自信がありますとも。ましてや我らが王が商店を開くというのなら、なおさらです」


 そういや、人狼は街の人たちとしたしくなっていたんだっけな。

 情報の伝わりかたはいくらでもあるか。


「……まあ、そもそもの話ですが。こんな魔力の波動を流しているお店ならば、我らでなくとも気付きますとも」

「うん? そんなに出ているのか」


 昨日の件もあってかなり強めにコーティングしたのだけれども。


「ああ、そのゴーレムと、この飲み物から、かなりの魔力が出ているので。このようなものを売りに出せるとしたら、我らが王くらいかと」

「あー……」


 そうか。俺の体ばっかり気にして、ゴーレムについては考えてなかったな。

 魔石とか、リンゴの樹木とか、色々魔力が出る物が材料なんだから。

 普通に魔力が迸るよな。


「でも普通の人は気づけませんから、大丈夫ですよ。ちょっとした違和があるので、店にふらっとひきつけられたりするくらいです」

「なるほどなあ。それならまあ、このままやらせてもらうかね」


 人に馴染んでいる人狼がそう言ってくれるのならば、特に心配する必要もない。


「んで、言い忘れていたけれど、いらっしゃい。何杯くらい買っていく?」

「それでは、三十杯ほどいただけますか?」

「……多いな?」


 一杯とか二杯とか想像していたんだけど、まさかの二桁が来たか。


「諜報部隊の全員分ですので。私が代表して買いに来ましたが」

「部隊っていうと、三〇人がこの街にいるのか?」

「ええ、街のほうから危険があれば集落の方へ知らせにきます。また、この辺りの調査なども平行して行っていたりしますね」


 おお、人狼は人狼で動いているんだな。街に馴染んでいるようなら何よりだ。


「いえいえ、我らが王のお陰ですよ。戦いと略奪の中にいた昔とは比べ物にならないほど充実した毎日を送っておりますから」

「ん? 俺は何もしてないから、充実できているのだとしたらお前等が頑張ったからだろ。わざわざ俺を立てる必要は無いよ」


 ジュースを造るゴーレムを操作しながら言うと、人狼はゆっくりと目を瞑った。


「本当に我らが王は寛大だ。仕えていてよかったと本気で思います」


 仕えさせた覚えはないんだが、まあいいか。

 喋っている間に、リンゴジュースも作り終えた。

 コップに注ごうかとおもったが、三十このコップを渡すわけにもいかないし、ジュースの入ったタンクを一つ渡す。


「ほい、これで大丈夫か?」

「ありがとうございます! 大切に飲ませていただきますね。値段はおいくらでしょうか?」

「あー……」


 いくらにしようか。

 それも考えてなかったな。


 ……確か、周囲の屋台では百ゴルドとか二百ゴルドで美味いものが食えたけど……。


 俺は取引については素人だ。

 適当に吹っかけるのもあれだし、聞いてみよう。


「いくらぐらいが適正だと思う? お前が値段を決めてくれると助かるんだけど」

「えっ……わ、私が、王に意見をするのですか? そ、それは少し荷が重いような気が……」


 露骨にビビられた。ただの世間話だろうに。


「意見とかじゃなくて、客観的に教えてほしいんだよ。諜報と情報には詳しいんだろ?」

「た、確かに、そう言いましたが……」

「なら頼むわ」


 そこまで言うと、ガロウは恐る恐る頷いた。


「そ、そうですね……。これはただのジュースではなく、魔力量的には回復ポーションに近く、性能としては上位のものに分類されます。だから、千ゴルドくらいではないでしょうか」


 千ゴルドか。価値はよく分からないが、確か三百万ゴルドで一年は遊んで暮らせるんだったっけか。


「ジュース一杯で千円はかなり高めだな。気を使って値段を上げなくていいんだぞ?」

「と、とんでもない! 上級ポーションとしてみれば破格の性能で、破格の値段ですよ! ……それに、色々な手間隙を差っ引いて、客観的に安く計算したものですから、気を使ってなどおりません! この命に誓っても、そんなことはしておりません!」


 千で安いのかよ。

 自分が売っている物の価値観が分からなくなってきたけれど、


「んじゃまあ、その額で行くか」

「あ、はい。三十杯だと三万になりますね。どうぞ、我らが王よ」 

 

 人狼は懐から金の入った袋を出して置いた。

 数えてみれば丁度三万分の硬貨が入っている。

 

「ああ、まあ。毎度あり」

「ありがとうございます。我等が王の店が繁盛することを祈ります」


 そうして人狼は帰っていったのを見てから、俺は金の入った袋に視線を移した。

 どっさりと、重みのある袋がそこにある。

 

「いや……この調子で繁盛するとやばい気がしてきたぞ……」


 値段設定か、金の使い道をもう少し考えないとダメかもしれない。

 

 金が溜まるのはいいことだが、たまりまくって店を物理的に傾けさせても良くないしな。

 対策を練ろう、と思いながら、俺は店の営業を続けていく。


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