103.二日目の開店
祭り二日目の俺の寝覚めは良かった。
と言っても起きたのは昼くらいで、サクラが用意してくれた朝飯兼昼飯を食べている。
家でやっていることとほとんど変わらないのだが、違うのは家の外から、ガヤガヤと人の声が聞こえてくることだ。
「あー、なんというか、変な気分だなあ」
悪くはないんだけど、違和感が凄い。
「そうですねえ。キッチンの火加減もかなり難しいです。味もちょっと落ちていたかもしれません」
「そうか? 今日のも普通に美味かったから、大丈夫だぞ」
いつも通りか、と言われれば俺の舌では分からないけれども。
すぐに完食してしまうくらいには美味しかったし。
「ありがとうございます。……ただ、火力がどうしても魔法頼りになってしまうので。竜脈と接続している自宅で行うのと感覚がずれまして」
サクラの言うことは分かる。
自宅のが使い慣れているからズレを感じてしまうんだよな。
俺も布団からなんどか転がり出たし、壁に手足をぶつけたりした。
テーブルとか椅子とか、部屋そのものだって使いやすいように作ったつもりなんだけどな。
それとこれとは話が別らしい。
「ちょっとずつ手を入れていくかなあ」
この店は仮住まいではあるけれども、だからといって住環境をおろそかにはしたくない。
寝る場所として戻ってくるだけならともかく、暮らす場所だからな。
居住区画は改良しよう。少なくとも増築はしたい。
「やっぱり三階くらいは欲しいよな」
「そうですね。使えるスペースは多い方が何かと便利ですし」
「だよなあ」
昨日、大量に客が来て分かったが、このままだと俺たちが自由にできる空間が少なすぎる。
いや、昨日みたいな大勢の来客が来る事なんてもうないだろうけれど、現状でもかなり狭かったりする。リンゴ置き場と寝場所だけだから無理もない。
……でも、それじゃ窮屈だったな。
この前、ラミュロスを受けとめて以来、縮めっぱなしの樹木もあるから、それを使って階層を増やしてしまおう。
「ひとまず、それぞれの個室とかを構築して、……まあ、何時間かあれば出来るかな」
「はい。今の主様の能力だったら、かなり素早く建築できてしまうと思いますよ」
サクラも頷いている。なら、簡単にやってしまおう。あとは店の件だが、
「サクラ、リンゴジュース生産の方はどうなってる?」
「昨日のうちからゴーレムが稼働しているので、いい感じに溜まっていますね」
見れば店のカウンターの方では、何十リットルあるのか分からないジュースが、木製のタンクに溜まっていた。
それを作ったゴーレムは親指を立てて停止している。
どうやら寝る前に与えた任務は完全に完了したようだな。
「うん、あとは店を開けるだけだな」
あとは、手間もかからない。
どうせカウンターではゴーレムたちが接客してくれるし。
俺は最初の方に顔を出すだけでいいだろう。
そして、適当に切りあげたら、店の増築に励もうかね。
「それじゃあ飯を食べたら、表のシャッターを開けてくるわ。サクラも適当に準備しておいてくれ」
「はい、了解です、主様」
そして祭りの二日目の昼に、俺の店はスタートした。





