―side 城の三人娘― 精霊確保計画
深夜。
ディアネイアは城の執務室に戻り、カレンへ精霊確保の連絡を行っていた。
カレンはアテナと共に城の客室で仮眠していたらしいが、二人ともすぐに起きて執務室に飛び込んできた。そして、その勢いのまま、頭を下げてきた。
「ありがとうございます、ディアネイア。連絡も精霊確保も有り難い限りです」
「うん、ありがとうお姉様」
「いやいや、気にしないでくれ。お礼ならば私よりも、精霊を捕まえたダイチ殿に頼む。……彼のお陰で精霊を確保できたのだからな」
カレンたちがこちらに着て一日目なのに一体目を捕縛してしまった。
精霊は簡単に姿を現したりはしないし、捕らえられたりしないのに。
本当にすごいことだ。
「昔、四大精霊のひとつを捉えるのに一年くらいかけていたという記録があるんだがな」
「はい、私もその記録はみたことがあります。その為、祭りを開催し、精霊を現出しやすくした、とも」
プロシアで行われている祭りの起源はそこだ。
第一王都を守る四大精霊と契約するために、彼らを呼び出す儀式として祭りが行われていた。
「まあ、この祭りが開かれて、精霊が出やすくなっても、最速で一ヶ月は掛かったみたいだがな」
「はい。だから一日目で一体目が捕まえられたのは驚きました。ダイチには感謝しなければなりません」
そういいながらも、カレンは浮かない顔をしていた。
「カレン殿? どうかしたのか?」
「いえ、一つ厄介なことが」
厄介だって? 初日からそんな問題が起こっているのか。
「ええ、今のところ見つかっていないのは風と土と水ですが、その気配は常々感じているのです」
カレンは懐から、黒いペンダントを取り出した。
「それは……?」
「これは王家で精霊を封印している魔石です。これの特徴の一つに、精霊の力が強くなればなるほど黒く輝くというものがあります」
「強くなればなるほど黒くなるといっても、すでに真っ黒なのだが……」
「この黒さは昨日よりも更に濃さを増しています」
つまり、現在進行形で精霊は強くなっている、ということか。
「精霊がこの周辺の魔力を取りこんで、成長している証拠です。このままでは、成長しすぎて暴走する可能性があります」
「それは困るな……。手っ取り早く精霊を見つけることは出来ないのか?」
「彼等は自然の力そのものなので。基本的には自然が乱されたり、または乱す可能性のある者が近くに来たときしかその姿を現しません。不可視のまま成長を続けるので、とても厄介なのはご存知でしょう?」
ああ、精霊とはそういう生物だったな。
だからこそ祭りを開いて、呼び込むのだし。
「出来ることならば、問題が起きる前に、回収したいところだな」
「はい。ただ、どうしようも無くなったときは、私が責任を持って吸い込んで止めましょう」
「食い止める、だって?」
「ええ。私は最優の竜王ですから。精霊に対する霊媒能力もまた高いのです。だから私の体に飲み込み封印する事だって可能なのですよ」
カレンは胸を張ってそういった。
「……確かに竜王ほどの魔力を持っていれば、体の中に精霊をいれることもできるだろうが。大丈夫なのか?」
「健康上の被害は基本的にありませんよ。ただ、押さえ切れない場合は、大変なことになります」
「大変というと、たとえば?」
「私が大暴れするとか」
「ダメじゃないか、それは!?」
街中で竜王が大暴れとか、絶対に避けたい事案の一つだ。
だから本気で勘弁して欲しいんだが、とディアネイアがカレンに白い目を向けていると、彼女は苦笑した。
「大丈夫ですよ。もし封印するとしても街の外でやりますし、私が大暴れするなんて私自身の意思が許しません。私の意志が薄弱になっていたり、死に瀕していればその限りではないですが。……そうなったら容赦なく倒してくれれば、と」
「いや、倒せといわれても、貴方は竜王だろう?」
無茶な事を言っているようにしか思えないんだが。
「ヘスティやラミュロスとか、他の竜王がいるなら大丈夫です。また私が暴れるような時には、体がボロボロになって弱っているので、人間でも勝てるはずですよ」
カレンは冷静に言ってくるが、出来ればそんな事態はおきてほしくないな。
竜王同士の戦いなんて被害が甚大だろうし、本当に大戦争になってしまう。
何より、アテナも心配そうな顔で見つめているしな。
「あくまで最低最悪の事態を想定しているだけですから。大丈夫ですよ」
「……本当だよ? そんな風に、簡単にいなくなっちゃダメだからね?」
「はい、アテナ王女。ただ、悪い方向に考えていたほうがリスク管理をしやすいだけなので、心配なさらないでください」
カレンの言うとおり、最悪を考えておくのは良いことだ。
「ああ、それを実現しないように動いていけばいいのだよな」
「はい、精霊が暴走するよりも早く集められれば何の問題もないのです。なので明日――水の日の朝からがんばって探して集めてきます。ディアネイアにもこの街にもご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「気にしないでくれ。協力できることがあれば、何でも言ってくれよ」
こうして三人が話し合っている間に、祭り一日目は終わりを迎えた。





