101.炎と精霊
アンネとラミュロスから現在までの経緯を聞きながら、俺とディアネイアはゴーレムが踏んづけていた炎を眺めていた。
「ディアネイア、これの正体は分かるか?」
「ああ、これは炎の精霊……四大精霊のひとつだな。……あつっ」
「ふ~~~~」
炎の精霊はディアネイアが近づくと、猫みたいに威嚇して、燃え上がった。
凶暴化してるんだろうか、その火力でゴーレムも焼こうとしてくる。
ただ、ゴーレムの表面を焦がすだけで、拘束は一切外れないし、逃げられはしない。
ヘスティの炎よりも弱いしな。
「しかし、精霊ねえ。アテナとかが捕らえるって話じゃなかったのかよ」
「先に出会ってしまったのかもな。精霊は人の集団か、強い魔力によってくるから」
とすると、竜王二人がいたから寄ってきたのか。
「ここにいる理由は分かったけれど、これ、どうするんだ?」
「そ、そうだな。私が近づくと、どうしても焼かれてしまいそうだ」
「ふ~~!」
未だにふーふー言っている。
若干、声は弱っているものの、炎の燃え上がりを見るには元気そうだ。
このままでは危ないし、なんなら、ゴーレムの足を使って縛ったほうが良いのだろうか。
そう思って俺が近づくと、
「…………」
「あれ?」
何故か炎の精霊は俺の顔を見て、黙った。
更には体から吹き出る炎も一切なくなり、半透明をした赤い人型生物になった。
「どうしたんだコイツ?」
いきなり大人しくなってしまった。
火を噴出しすぎて、疲れたんだろうか。
「ああ、ダイチ殿の魔力に威圧されたみたいだな。ゴーレムを操っていた張本人ということもあって、逆らわないのかもしれない。精霊は基本的に、己よりも強いものに従ったり、契約したりする習性を持つからな」
「へえ、そうなのか」
「だからダイチ殿に負けたこの精霊は、ダイチ殿には牙を向かないはずだ」
ふむふむ、我が家の精霊と今の今まで暮らしてきたけれど、そんな性質は知らなかったな。ためしに火の精霊に手を差し出してみると、確かに炎を向けてきたりはしなかった。
「安全になったのなら、そうだな。俺が捕まえておくわ」
「えっと、いいのか?」
「なんでそこで疑問系なんだよ」
「いや、ダイチ殿が捕まえてくれるのであれば、それはとてもありがたいことなのだが。貴方の手を煩わせて、迷惑になるんじゃないかと……」
そんなものは今さらだろう。
こうして捕まえてしまったんだし。放置してもいいがこいつが暴れて、街中が火事になって、俺の店に被害が出るとかゴメンだしな。
ならば、俺が捕まえておいた方がいいだろう。
「あと、今日中にアテナとかに連絡して、明日にでも引き渡せばいいだろ」
「う、うむ。了解だ。ご協力感謝する」
話はまとまった。俺は火の精霊の体に、ゴーレムの足の一部をぐるぐると巻いて、捉えておく。これで持ち運びも楽にできるだろう。
「しかし、流石だなダイチ殿。ゴーレムとの連携速度が物凄く速かったぞ。今まで足技なんて使ってなかったのに」
「俺はただ、荷物で手がふさがっていたから足を使ったほうがいいかなあ、と思っただけなんだけどな」
何回も作っては操ってを繰り返しているから、ゴーレムへの意志伝達は素早くなっているみたいだけど。
「……本当にダイチ殿を見ていると、自己研鑽を続けるモチベーションになるよ。ああ、いい物を見れた」
ディアネイアは楽しそうに言ってくる。俺には良く分からないけど、楽しそうなら別に気にする必要もないか。
「んじゃ連絡を頼む。捕まえた精霊はどっか危なくない場所に置きたいし、そろそろ家に戻るわ」
そう言うと、ディアネイアは数秒間目を伏せて、何かを考えてから口を開いた。
「む、そうか。そうだな。まだ案内し切れていないし、とても名残惜しいが……うむ。連絡第一だものな。私も城に戻ろう」
「ああ、案内の続きはまた後日、ディアネイアの時間が空いてる時に頼むわ」
「うむ! なんとか、空き時間は作る! だからその時にまた、一緒に歩かせてくれ。――ではな」
「おう、またな」
そうして、この日の観光はお開きになった。
サクラもヘスティも楽しめたみたいだし、俺もそこそこ楽しめた。
祭り初日はいい感じに、スタートをきれたようだ。





