100.ゆったりまったり祭りを楽しむ
夜の街中をディアネイアと歩く。
プロシアという街をここまでじっくり見て散策するのは初めてだ。
だから、周囲を見回しているだけでも結構楽しい。
そうして視線をあちらこちらに移していると、
「ん?」
ふと、ディアネイアが顔を赤くして、ふらついているのが目の端に移った。
「どうしたディアネイア。また疲れているのか?」
「い、いや、確かに疲労感もあるのだが、それだけではなくてな。こういう夜の街を、人と歩くというのが新鮮でな。こう、浮ついた気分になっているんだ」
「まあ、お祭りだしなあ」
これだけの人が騒いで過ごしているのだから、浮かれた気分になるのも分かる気はする。
「ただ、それでハメをはずしすぎて、前みたいに倒れるとかやめてくれよ?」
つい先日も過労で倒れたばかりだろうに。
「ははは……この前は助かった。おかげでこの日を迎えられたしな。本当に、貴方のお陰なことが多いよ……」
ディアネイアは遠くを見た後に、俺の顔をじっと見た。
「ありがとう。今更だし、今後も言うことになるかもしれないけれど、改めて礼を言わせてくれ」
「改まる必要はないぞ。俺は静かに暮らすために、やりたいようにやってるだけだからな」
「そう言ってもらえると気が楽だな、うん。……私と一緒にいてくれるのも、やりたいことをやってる結果だと思うと、ちょっと嬉しいよ」
そう言って赤くなった頬を掻きながら、ディアネイアは目を逸らした。
あちこちを見たりと忙しい事だ。
まあ、俺も人のことは言えないくらい、キョロキョロと町並みを見ているけれどさ。
そんなことを思っていると、ディアネイアがあわてたように言葉を続けてきた。
「え、ええと、ダイチ殿。話を変えて申し訳ないのだが、アンネ殿とラミュロス殿はどこへ行ったのだ?」
「うん? どこにって、アンネがお前のところに連れて行ってから、帰ってきてないぞ?」
「え?」
この街に来たときにアンネと別れてそれっきりだ。
そういうと、ディアネイアは首を傾げた。
「会ってないのか?」
「いや既に報告は受けた。その上で先にダイチ殿のところに行って貰うようにしたのだが……どこにいったんだろうか」
ふむふむ。もしかしたら行き違いになったのかもしれないな。
「まあ、そのうち会えるだろ。広い町だけど、俺の行動範囲はそこまで広くないし。迷子になるような歳でもないだろうし」
「うむ、そうだな」
「まあ一応、目印代わりに小型ゴーレムを作っておこう」
一応、珍しいものらしいし作っておけば目立つだろう。
ポケットに入れていたリンゴの種を地面に植えて樹木化させ、人の形に作り上げる。
「んー、案外いい感じに育つな。この街の土もそこそこ魔力があるのか」
「はは、貴方の家にはどうしても適わないがな。それでも、貴方がこの街の近くにいてくれるおかげで、魔力の貯まり方も良くなっている。本当にありがたいよ」
俺は普通に暮らしているだけなんだけどな。
でも、そのお陰でゴーレムが作りやすくなっているのなら、楽で良い。
そう思いつつ、俺は樹木に手持ちの魔石を混ぜる。
すると、約一メートル半ほどの樹木の人形が立ち上がり、スムーズに歩き出す。
「作成速度も上がっているし、ゴーレムから感じる魔力も増えている。すさまじい性能のゴーレムになっているな」
「いやまあ、ただの目印なんだけどな」
人の中をゴーレムが歩いていれば多少は分かりやすくもなる。
それに小さめとはいえゴーレムだから、力仕事もできるから便利だ。
とりあえず、普段は俺の横を歩かせておくとして、
「ディアネイア、歩き疲れたときはこいつに乗るといい」
「え?」
「いや、疲労はしてるって言ってたじゃないか。耐え切れなかったら言えよ?」
「あ、ああ、か、かたじけない、ダイチ殿……。でもまだ、大丈夫だ。まだ貴方と歩きたい」
ディアネイアはそう言ってうつむいた。
まあ、大丈夫というなら、そのままにしておいて、向こうにいるサクラやヘスティにも伝えておこう。
「サクラやヘスティも、疲れたり荷物が増えたら言ってくれよ。こいつに乗れるから」
「はい。ありがとうございます、主様」
「ん、分かった」
そうして俺は、三人とゴーレム一体とともに、夜の街の中を観光していった。





