―side ディアネイア― 止まらない力
アテナ王女をテレポートで送ってしまって数分後。
ディアネイアは、カレンにテレポート先の説明をし終えた。
といっても、眉をしかめていたカレンを宥めて、自分の知り合いの家だから大丈夫、と言っただけなのだが。
「ふむ、ならば今回のテレポートで、アテナ王女に危険は無いのですね?」
「あ、ああ。ダイチ殿は信用のおける人だし、私が知る中でもっとも強い人だ。そして、この街で最も敵対者がいない場所だから、大丈夫だとは思う」
勝手にテレポートして怒っているかもしれない。
だから今、ディアネイアはダイチに対するお詫びの品を用意したり、問題が起きた時に備えて騎士たちに連絡したりと、忙しく動いていた。
……一応、アンネとラミュロスは先にダイチの下へいって、とりなしてもらうように頼んだが。
その後、連絡もないので、どうなっているか分からない。
もしも本気で怒っていた場合、土下座くらいしかすることがないが、
……今回は、確実にこちらが悪いからな……。
謝罪で許してもらえるなら有難い。と、土下座も念頭に置いていそいそと準備を整えていた。そんな中で、
「むっ……?」
不意に、カレンが虚空を見上げた。
そして、窓の方に顔を向ける。
「ど、どうしたんだ、カレン殿」
「今、一瞬、膨大な魔力を感じました。街の方の建物からですが、なんですかこれは……。ありえない魔力の保有量ですよ……!?」
「あ、ああ……なるほど」
わなわな、とカレンは震えていた。
竜王である彼女がこんな反応を見せるのであれば、該当者は一人くらいしかいない。
というか、これから会いに行く相手だが。
「カレン殿。その魔力の持ち主が私の知り合い……というか恩人だからな。気にしないでほしい」
「気にするなといってもな――」
言葉の途中で、カレンの目つきが変わった。
明らかに、穏やかではない鋭い目をしている。
周囲に漂う魔力の量も変わった。
「カレン殿?」
「……今、アテナ王女のドレスにしかけていた魔法防護が解除されましたね。あれは無理やり魔力でこじ開けるか、あるいはアテナ王女が服を脱がない限り維持され続けるモノなのに……」
真剣な顔のまま、カレンは執務室の窓から、キョロキョロと街を見始める。
「プロシアに追いはぎはいないのですよね?」
「ま、まあな。治安は悪くないのもこの街のウリの一つだ」
「それなのに、ドレスの魔法防護が解除されたという事は……彼女の身に何かが起きているということですか……」
カレンは深刻そうな顔で頷き、街を見続けた。
それから、数秒もすると、窓の外の一か所に固定された。
それは窓の下方。ダイチの店がある場所で、
「膨大な魔力の場所と王女の解除反応が来たのはあそこか。……こんなに近くにいたとは。待っていてください、アテナ王女……!」
興奮したように声を出しながら、カレンは窓枠に飛び乗った。
「あ、あのカレン殿?」
ディアネイアが慌てて制止しようと近づいたが、
「すみません。ディアネイア姫。先に行きます。例え、あの膨大な魔力に私がやられても、後は頼みます。……うおおおおおおお!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。か、カレンどの――!?」
止める間すらなく、カレンは叫びながら窓の外へと飛び出した。
そのまま物凄い速度で城の直下に着地すると、ダイチの店に突貫していった。
「……こ、これは、本当に不味い!」
ディアネイアの背筋に冷汗が流れた。
これは、悠長に準備をしている暇なんて無い。
そう思ったディアネイアは追いかけるようにダイチの店へと向かっていく。





