94.竜王の集まりと人の集まり
歩き始めてすぐ、アンネの目線はリンゴの箱を大量に担ぐラミュロスに集中していた。
「ところで、先ほど竜から変化されましたこちらの方は? かなりの魔力を持っていらっしゃいますが」
ああ、そうか。アンネはラミュロスについてを知らないんだったな。
そう思っていたら、ヘスティが代わりに答えてくれた。
「そいつが、空の竜王。ラミュロス」
「おお、この方が! はじめまして、私、地の竜王をやっているアンネと申します」
ぺこり、と丁寧にアンネがお辞儀すると、ラミュロスは苦笑した。
「はじめましてー、なのかな。ヘスティと一緒に幼少の頃の君をお世話した覚えがあるんだけども」
「そ、そうだったのですか?!」
竜王トリオは昔に色々あったんだなあ。というか子育て経験みたいなものがあるのか、この二人は。
ラミュロスはともかく、ヘスティは面倒見が良いから納得できるけどさ。
「ふむふむ、その辺りの話もお聞かせ願いたいのですが……」
そう言いつつも、アンネは残念そうにうつむいた。
「そうですね。新たな竜王が来たら教えてくれとのことなので、一応、ディアネイア様に報告しておかねばなりません」
「おー、そんなことをやってるのか。大変そうだな」
「いえいえ、私もディアネイア様には色々便宜を図ってもらってますから。それで、ダイチ様。ラミュロス様をお借りしても大丈夫です? 先に報告しておきたいのですけれど、よろしいでしょうか」
何故俺に聞くのか分からないけれども、別にかまわない。
そう思ってラミュロスを見ると、彼女は困ったような顔をしていた。
「どうした、ラミュロス?」
「うーん、ボクがこのまま先に行ったら、荷物運びできなくなっちゃうから。ダイチさん、困らないかなって」
「ああ、そんなことか。荷物はゴーレムで運ぶから大丈夫だぞ」
ここまで随分楽させて貰ったしな、と思いつつ俺はゴーレムを作る。
とりあえず四体だ。体のでかい普通のゴーレムなので、ニ十箱くらい軽く持ってくれるだろう。
「相変わらず、素早すぎる作成能力ですね。ここ、魔力スポットでもないんですが……」
「まあ、慣れたからな。――よし、簡単な造形もして積みこんで、これでオッケーだな」
ゴーレムの肩にしっかりマウントさせたので、あとは歩いて運ばせるだけだ。
「こっちは大丈夫だから気にせず行ってこいよ」
「う、うん」
「では、御先に失礼します。また数時間後にお会いしましょう」
そう言って、アンネはラミュロスを連れて城の方へと飛び去っていった。
「……さて、と。んじゃ、俺たちも店に行くか」
先に行ったラミュロスたちを追うように、街の奥と進んで行く。
●
ゴーレムに荷物を持たせて街を進む。
俺の店は城の隣、中心地近くにあるので、そこまでは街並みを見ながらゆったり行く。そのつもりだったのだが、
「……なんか、道を開けられてるのは気のせいか?」
少なくない人が街中に入るのに、何故か、俺やゴーレムの前方はスカスカに空いていた。
というか、ゴーレムは注目の的になっている。
樹木のゴーレムなんて珍しくもないだろうにどうしてだろう。
「あの、そこは訂正させて。この大きさのゴーレムは普通、ありえないから」
「そうなのか?」
「ん、戦闘用ゴーレムでも、もうちょっと、小さい。普通はこの大きさで、機敏に動けたりは、しない」
戦闘用ゴーレムなんてものを見たことがないので、比べようがないんだが、なるほど。良く分かった。
「わー、すげえ、あれサーカスか何かの出し物かな?」
「すごいすごーい。中に何人位はいってるのかな」
そんな歓声も聞こえてくる。
見れば道の端っこでキラキラした視線で子供がゴーレムを見上げていた。
「こんな感じで出し物扱いされるくらい、珍しいものだからね」
「おう、なんか納得できたぞ」
「あと、まあ、アナタの体からそれだけの魔力を流していれば、肌で魔力を感じられる人は避けるよね」
たとえばあそこ、とヘスティが指さしたのは、立派な鎧と剣を装備した連中だ。
冒険者というには、動きがキビキビしているというか規則正しいので、他の都市の騎士だろうか。
そんな彼らはキビキビした動きで俺の方を見つつも、遠ざかっていく。
「避ける人は強い人。避けない人は普通の人か、自信家か、蛮勇の持ち主か。でも……まあ、この街は強い人、多いね。ちゃんと離れるし」
「まあ……色々と言いたい事はあるけれども、店まで付きやすくなるし、ありがたいってことにしておくか」
そして、俺たちはゴーレムと共に、店まで辿り着くのだった。





