91.夜の集まり
家に戻ってきて、ゴーレムと共に収穫物を整理していると、サクラがとてとてと寄って来た。
「主様。お戻りになられたのですね」
「おう、ただいま」
ああ、そうだ。サクラが来たのなら丁度いいな。
俺はゴーレムに捉えさせていた小さな精霊らしき生物を見せた。
「そういえばサクラ。コイツが下にいたんだけど、何か知ってる?」
「精霊ですか。いえ、ちょっと分かりませんが、どうなされたのです?」
「下で探検してたら、飛びかかってこられてな。とりあえず、こうして捕まえたんだ」
「そうだったのですか。でも、流石は主様ですね。精霊には物理的な縛りは効きにくいのですが、きっちり魔力の籠った腕で縛られています」
サクラはゴーレムの腕を撫でながらそう言った。
「……へえ、物理はきついのか」
ゴーレムの縄で縛っておいてよかったな。
「私は許可した覚えはありませんし、主様が地下に住むことを許可したのでなければ、恐らくは勝手に迷い込んできたのでしょう。そして、飛びかかってきたのは、精霊は魔力で体や精神を構築しているので、土地の魔力を吸い過ぎて、酔っぱらったから、ですかね」
「精霊は魔力で酔うのか」
精霊の生態はよく分かってないので、知れるのは有難いな。
「で、こいつどうしようか?」
「見た限りでは敵意はないようです。ただ……二度と主様を害さないように叱ったほうがいいですかね」
そう言いつつ、サクラはにっこりと笑いながら精霊に顔を向けた。
すると、精霊はブルブル震え始めた。
というか、首を勢いよく横に振りまくっている。
「ふむ、もうしないとの意思表示でしょうか」
「まあ、さっき俺が一発殴ったし、大人しくもしているし。とりあえず地面に下ろしてやるか」
地面に置いて、ゴーレムの腕を解いてやる。すると、
「――きゅう」
ぺこりと俺に頭を下げて、てててっと離れていった。
あっという間に木陰の向こうに去っていった。
「おー、逃げたのか?」
「いえ、補足しておりますが、まだあそこにいますね」
「え?」
よく見れば、確かに、木の陰に隠れてこっちを見ている。
何をしているんだか。
「でも、悪い存在じゃないんだよな?」
「敵意はありませんからね。大人しい精霊の一種みたいです」
「なら、放っておくか。そろそろ街に行く時間だしな」
「あっ、そういえばそうでしたね!」
日も落ちたことだし、街に行くには、かなりいい時間だろう。
「今すぐ準備をしちゃいますね。……実は途中までやっていたんですけれど」
そう言ってサクラが顔を向けた先では、既にリンゴの入った箱がいくつか出ていた。
街の店で使うためのモノだろう。
「おお、先にやっててくれたのか。ありがとよサクラ。助かる」
「いえいえ、主様のお役に立てるのが、私の幸福なので。それに、主様と一緒に出かけるのも楽しみでしたのでつい行動に出てしまいました」
そう言って、サクラは恥ずかしそうに微笑した。
「んじゃもう少しだけ、店で使う分のリンゴを庭に運び出すか」
「はい」
あとはリンゴの箱を持たせる用のゴーレムを作っておこうか、と樹木に触れていると、庭の奥からヘスティが箱を抱えてやってきた。
魔石がどっさり入った箱だ。
「我の方で採った魔石は全部、選別した。これらが、一番堅くて魔力が入ってる奴。加工は難しいけれど、アナタなら間違いなくできるから、持ってきた」
「おう、ありがとうよ」
これで小型ゴーレムも、外付けのゴーレム腕も作る事も出来る。
行く前にささっと作ってしまうのもアリかもしれないな。
「……あ、そういえば、聞き忘れていましたけれども。ヘスティちゃんは私たちと一緒にお祭り、行きますか?」
「ん……。我も、行っても良いの?」
ヘスティは俺とサクラに首を傾げて聞いた。
なんでそこで俺たちに聞くんだ、と思っていると
「アナタたち、二人きりを邪魔するのは、よくないかな、と」
真顔で言ってきた。
なんというかこの竜王は本当に気を使うタイプだな。
思わず、俺とサクラは顔を見合わせてしまった。そして、
「いやいや、ヘスティの好きで良いんだぞ?」
「はい。主様の言うとおり、遠慮しなくていいんですよ? 私は……まあ、二人きりでないのはちょっと残念ですが、それ以上に、皆で楽しんでいる主様を見るのも好きですしね」
俺とサクラがそう言うと、ヘスティは困ったような顔で悩んだ後、
「ん……なら、我も、行きたい」
「おう、了解だ。それじゃあ、向かう前に、リンゴを運び出すの手伝ってくれ」
「ん、分かった」
そして、俺たちは、祭りに向かうための準備を整えていった。





