―side ディアネイア―祭りの中と、新たなる参加者
夕方の日差しが差し込む頃。
ディアネイアは執務机の上でぐったりとしていた。
「ど、どうにか部隊の配置が終わったぞ……」
朝っぱらから今の今まで、ずっと資料を見ながら、魔女や騎士団への指示を出し続けてきた。
お陰でヘトヘトだが、これで、例え竜が落下してきても、大丈夫なように魔法使いと騎士を配備した。
各部隊には、防御魔法も持たせているし、守りは万全だ。
アンネには、他の竜王が来たらすぐ報告して貰うために、見張り台の方に行って貰っているので、竜王対策も、とりあえずはオーケーだ。
「うーん、でも、終わって良かった」
背筋を伸ばして、窓の外を見ると、祭りの賑やかな様子が目に入った。
そして楽しげな声も聞こえてきた。
この楽しげな中に、あの人と一緒にいけるのは、本当に有難い。
暗くなるのが楽しみになってきたな、と思っていると、
「姫さま! 緊急です!」
騎士団長の慌てた声が聞こえた瞬間、前のめりに倒れそうになったが、どうにか持ちこたえて団長の方へ向いた。
「……またか!? 今度はなんだ?」
「姫さま、下に、王女様が到着されたとのことです」
「は、はあ? もう来たのか!?」
早すぎるぞ。最初の連絡では今日の夜中とか、明日の朝とかになると聞いていたのに。
「祭りを楽しみにしていたそうで、早々と来てしまったそうです」
「ぐ……そんな事を言われては何も言えんではないか……」
「それから伝言で『お姉さま、早く来てしまってゴメン。城内の片付けにも時間が必要だろうし、祭りを眺めたいから、城前で待っているよ』とのことです」
ああ、彼女らしい言葉だ。
会うのは久しぶりだが、言葉を聞いた瞬間、頭で想像できたよ。
奔放な子だけれども、礼儀は弁えていてし、自分を姉として慕ってくれているあの王女を。
「よし、ではまず、城に招いて挨拶するから準備をするぞ」
「はっ!」
そしてディアネイアは執務室を出ていく。
●
プロシアの城前に、二人の女性が立っていた。
一人は綺麗なドレスを着こんだ少女で、にこにことした笑みのまま周囲を眺めていた。
「わあ、久しぶりに来たけれど、やっぱりお姉さまの街は賑やかだなあ。それに綺麗だし、面白いものも一杯あるし、凄く楽しいよ。カレンはどう?」
カレンと呼ばれた、軽装鎧の上にマントを羽織った女性はゆっくりと頷いた。
「そうですね。アテナ王女。私もこういう所に来たのは初めてですが、美味しそうなモノが沢山あって、興味を引かれます」
「ふふ、カレンは相変わらず食いしん坊なんだから」
仮装や華美な服装をした人が多い祭りということもあり、街の風景に二人はすっかり馴染んでいた。
その中で、アテナは城の前に生えた巨大な樹木を目にしていた。
城と同じくらいには高い背丈をした樹木だから、とても目立っていたのだ。
「それにしても、この大きな樹は、なんだろうね? 前に私がお姉さまの所に来た時は、無かったのだけれども」
「そうなのですか? 強大な魔力を感じるので、てっきり街の守り神か何かと思っていたのですが」
「カレンもやっぱり魔力を感じていたんだねえ」
アテナは大木と、それに取り込まれた店を見上げながら呟いた。
「はい、この大きな魔力からして、張りぼて、というわけではありませんね。ただ、あんな巨大なもの、人の身で作れるわけがないので、恐らくは天変地異か異常気象で成長したのかと」
「そっかあ。流石は私の先生のカレン。物知りだね」
楽しげに笑うアテナに、カレンは微笑み返す。
「先生ではなくて私兵ですよアテナ王女。それに、知識においては、私より上の姉達がいますし、この世には私の想像を超えているものは沢山ありますから」
「あはは、カレン以上に強い人がいるなら見たいねえ。強い人を見るのは、私も大好きだし」
「そうですねえ……」
そう言って、アテナから大木に目を移したカレンの瞳は、かなり真剣なものだった。
「この巨木から感じる魔力は……自然のものではないのだよな。どのような化物がいたら、こんな現象を起こせるのやら……」
と、カレンが目線を樹木の頂上付近に持っていっていると、
「すみません。お待たしました」
城の方から、立派な鎧をまとった騎士が走ってきた。
「ディアネイア様の準備が整いました。どうぞ、こちらへ。王女アテナ様。そしてカレン様」
「うん、ありがとう騎士団長さん! それじゃあ行こう、カレン。……本国から受けている指令も伝えなければいけないからね。頑張ろう」
「はい、では行きましょうか」
「噂によると、なんだか強い人がお姉さまの周りにいるみたいだし、会うのがとっても楽しみだよ!」
楽しそうに会話をしながら少女たちは、城の中へと入っていく。





