90.希少なものは、お持ち帰り
発見した穴の入口は大きかったが、深くは無かった。
魔石の光で奥まで照らされているので、すぐに突き当たりが見えてしまった。
「なにかあったか、ヘスティ?」
「ん、魔石があるだけ。さっきの妙な反応は、まだあるんだけど、見つからない」
「そうかー。んじゃ、俺は反対側を探してみるわ」
俺は探索用に、樹木のゴーレムを作っておく。
仮に希少素材が埋まっていても、ゴーレムの腕力があれば掘り出せるしな。
それに、帰る時はコイツに乗っていけば早いし、一石二鳥だ。
そう思いながら洞穴をキョロキョロとしていると、
「むうっ……」
不意に、ヘスティがうめいた。
「どうした?」
俺がヘスティの方を見ると、
「キシャアッ!」
なにやら半透明をした人型の生物がヘスティに飛びかかっていた。
「ん、敵、なのかな? 魔力の反応があるから、とりあえず、迎撃する」
ヘスティは首を傾げながらも、半透明の生物を腕で叩き落とした。
「――あれ、砕けない? ってことは、ちょっと、強い?」
すると、今度はその半透明の生物が俺の方に来た。
モンスターなのか、何だかわからないけれども、とりあえず敵意があるなら、
「ふむ、とりあえず、抑え込むか。ゴーレム」
ドスン、という重い音と共に、ゴーレムはその腕を、半透明な生物の上に振りおろした。そして、
「~~」
細い声をあげて、半透明の生物は、その場で動きを止めたのだった。
●
ゴーレムの体を使って、奇妙な生物を抑え込んでいると、ヘスティが走り寄って来た。
「結構、強かったのに、あっさり捉えるなんて……。すごい。でも、大丈夫?」
「別に何ともないぞ。ヘスティも大丈夫か?」
「我も、問題ない」
「それならいいんだが。というか、流れで迎撃しちゃったんだけど、――なんだコイツ?」
襲いかかってきた生物は、ゴーレムの腕部分を細く伸ばして、グルグル巻きにしてあるのだが、
「きゅう~~」
捉えたのは五〇センチくらいの、人のような型をした生物だ。
茶色い角を生やしているし、なにより透けているので、ヒトではないのは分かる。
だが、モンスターというほど異形でもない。
「コイツ、なにか知ってるか、ヘスティ?」
「……多分、精霊、かな? 地中の魔石に潜んでいたのかも、しれない」
ヘスティは首を傾げながらもそう呟いた。
しかし精霊か。
こっちの世界にきてサクラ以外の精霊を初めて見た気がするな。
「まあ、体が実体化するほどの精霊はこの世界でも、珍しい方だから。アナタの家の精霊は、例外中の例外だけれども」
「なるほどなあ。でも、なんでコイツは我が家の地下に不法侵入してるんだ?」
「分からない。住み着いたんだとしても、この地は、普通の精霊の住処にふさわしくない筈。いくら実体化するほどの精霊でも、この地に魔力には、耐えられない筈。襲ってきたのは、この地下の魔力にあてられて凶暴化したから、かも」
その辺りの知識は俺にもないので判断がつかんが。
まあ、この場に放置しておくのは良くないのか。
「それなら、一緒に連れて外に出してやろうかね」
襲ってきたから、迎撃したけれども。
もしかしたら迷い込んだだけかもしれないしな。
「ん、分かった。――ところで、出る方法は?」
「ああ、軽く同期してたら道が分かったから大丈夫だ。自動で帰れる」
先ほどゴーレムを作っている時に脱出ルートは検索してある。
「本当に、すごいね、アナタ」
「まあ、ここも我が家だからな。というか、そこまで深い場所じゃなかったし、ここ」
「え?」
かなりの距離を潜っているように思えて、意外と浅い地点でワイワイやっていただけのようだ。
「ここが、浅い地点? 稀少な鉱石が一杯取れるのに?」
「え? 何かおかしいか?」
「んー……通常は、もう少し、深い地点で採れる鉱物があっただけ。だから、うん、大丈夫。我の基準は今、調整したから」
大丈夫、と少し虚ろな目で頷くヘスティに心配になってくるが、大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
「――それじゃ、帰るかヘスティ。帰りはゴーレムに乗ると楽だぞ」
「ん、じゃあ、一緒に乗らせて貰う、ね」
そして俺たちはゴーレムに乗って、精霊を一人お持ち帰りしつつ、帰宅した。





