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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第7章「過去編」
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SS13「紗季と恵梨香 後編」

「ちょっと、紗季ちゃん。聞いてる?」

そんな恵梨香の言葉で紗季はやっと我に返った。

「あ、ごめんごめん。ちょっと昔のことを思い出しちゃって。

あったばかりの恵梨香はもっと辛辣だったよね。」

「もー、そんなこと掘り返さなくてもいいじゃん。あの頃の私はすごく疑心暗鬼だったんだから…。」

「あの時の恵梨香も今の恵梨香もどちらも恵梨香じゃない。

別に忘れようとは思わないよ。だって、出会いの思い出なんだから。」

そうやって頬を膨らませる恵梨香を見て紗季は少し笑いながら言った。

「それにしても、衝撃的な出会いだった。

いや、だからこそ私は紗季に惚れたのかもしれないね。」

恵梨香の惚れたという言葉は決して比喩表現ではない。

「私も仲間が欲しくて無我夢中だったよ。全く格好よくもなかったと思う。」

その言葉通り「紗季に惚れた」のだ。

「ううん。すごく格好良かったよ。私が彼女になりたいと思うぐらいに。」

4月で全く知らない同学年の生徒からクラスメイト、友達をすっ飛ばして親友となった2人の関係はもう一段階あらたな関係に変わっている。

その発端となったのが10月の家出騒動の頃だった。



(ど…どうしよう。)

憧れの兄のベッドで寝かせてもらい(何か邪魔者がいたような気もするが)一時的な現実逃避に浸っていた紗季を現実に引き戻したのは一通のメールだった。

発信先はクラスメイトの男子。もっと具体的に言うならば、この時点で紗季の彼氏だった人物だった。

『大丈夫?何かあったの?』

文面上は、いかにも相思相愛というような風に思わせるが、現実は全く逆の関係だった。

確かに付き合ってはいるのだ。けれども、やはり互いに馬が合わない…いや、互いに一種の浮気状態であるという方が適確だろうか。

向こうにも別で好きな人がいる。誰かはわからないが、同じような状況にある紗季にとってはほぼ確信をもったような状態である。

紗季もまた、憧れの兄への想いをごまかすように、代替として付き合っていたということは向こうもうすうす承知していただろう。

今回のいとこの家への外泊の元となった彼氏の家への外泊だって大人達が心配したような淫らな理由ではない。

ただ、時間をかけて自分達の関係を組みなおして別れようという話だっただけなのだ。

それが思わぬ形で阻害され、また思わぬ形で憧れの兄の傍に一時的とはいえ近づくことができた。

だが…それは紗季にとってあきらめざるを得ないということを身をもって体感せざるを得ないということを身をもって知ることになってしまっていた。

(あの関係に…割り込むなんてできないよ…。)

別に自分の彼女を最優先に持ってきているわけではない。彼女のことを少しないがしろにしても不安定な紗季の方のサポートにまわってくれたぐらいだ。

だが、行動や言動の節々に表れる相思相愛の心。それを感じるたびに自分の意思を伝える勇気がそがれていく感じがしていた。

(もし、あの2人のどちらかを取り合うような話があったとしても、あれじゃ誰も勝てないと思う。それぐらいあの2人はぴったりとはまりすぎている。)

これでもいろいろな恋愛はしてきたし、問題を抱えているとはいえ自分も彼氏持ちの身だ。他の女子中学生に負けない程度の恋愛の感性も経験もしてきたという自負がある。

その紗季から見た2人はまるでパズルのピースのようにぴったりとかみ合っているのだ。

いや、あれはぴったりとはまっているというより佳音を支えられるのが宗しかいないということを示している。

宗の隣にはきっと紗季だって立てるだろうし、他の女子が傍にいたって問題ないだろう。

だが、佳音の側はまるで宗一人に照準を合わせているかのように歪だ。もしも、他の人から好意を示されてもきっとうまくいかない。

それはうまくいっていない紗季と彼氏を優に上回るような特殊な関係なのだということを身をもって体感していた。

そこに彼氏からのメール。確かにけりをつけなきゃいけないのは事実だったが、2度の失恋を1日に経験するのはできれば避けたかった。

(まあ、仕方がないか。これもまた1つの試練だと思わなきゃ。)

たとえこの後涙で枕をぬらすようになったとしても。


その後のやり取りはわざわざ伝えるようなこともないだろう。

彼のところに一本連絡を入れた後に訪れ、別れるという話を早急につけた。

とはいえ、向こうもそんなに長々と話したいと思っているわけではなく(結局互いに友達という関係が一番楽ということに気づいたというだけの話だけであり、その後もたまに遊んだりする程度の関係は維持していた。)周りになんていうのかみたいなどちらかというと事後処理に近いことを話し、軽く思い出話に花を咲かせた程度だ。

そして、家に戻ると…家の前には恵梨香がいた。

「恵梨香…どうしてここに?」

「どうしてじゃないよ!か…彼氏の家に外泊するって話だったのに、紗季ちゃんの彼氏ととたまたま今日の朝会ったら取りやめにしたって聞いたよ。

それで連絡しても、メールの一本も帰ってこないで…何かあったのか心配していたんだよっ!」

そういえば、昨日宗の家に駆け込んでから、恵梨香には連絡を一本も入れていなかった。

決して忘れていたわけではなく、なんとなく連絡を入れたら恵梨香の家においでという話になりそうだったからという理由であり、今日の朝からは連絡などしている余裕が彼の家を出てからここに歩いてくるまでぐらいの時間しかなかったというだけだった。

「ご…ごめん。恵梨香。私の部屋に上がらない?ちょっと相談したいことがあって。」

とはいえ、連絡しなかったのは紗季の過失であり、言い訳をするつもりはない。

そして、誰かに…できればその最良人物である恵梨香に自分の心の内を伝えたかった。

「うん、わかった。」

恵梨香の方も紗季の雰囲気と表情でまじめな話となんとなく察したのだろう。特に逆らうこともなくそのまま頷いた。



部屋に入り荷物を置いた途端、紗季はその場に泣き崩れた。

「紗季ちゃん!大丈夫!?」

流石の恵梨香もいきなり泣き崩れるのは予想してなかったのだろう。慌てて紗季に駆け寄った。

「部屋に入って…周りに恵梨香しかいないって思ったら…気が緩んじゃって…。

今日ね…2回失恋したの…。」

「に…2回!?」

反射的に彼氏と別れたのかということまでは思い浮かんだが、その理由もわからずまた2回の意味が恵梨香には想像もつかなかった。

「1回はね…さっき、付き合ってた彼と別れてきたの。」

しばらく言葉にならず泣きじゃくっていた紗季だったが、だんだん落ち着いて話ができるようになってきていた。

「もともとね…私達は合わなかったんだよ。クラス内でお似合いだって騒がれて、そのまま惰性で付き合ってたけどやっぱり互いに好きな人を抱えたままってのはうまくいかないものだね。」

「じゃあ、昨日外泊するって…。」

「うん。別れ話をしようと思ったんだよ。ただ、時間がかかるかなと思って外泊って言っちゃったら親から大反発をうけちゃって。それで、家出したの。」

「家出ってことは外で止まったの!?」

「ううん。いとこの家に逃げ込んじゃった。親も信用できるところだからいいって許可くれたんだけど…なんかそれで余計に自分はまだ子供なんだなぁって実感しちゃった。

私ね、ずっとお兄さまのことを考えないようにしてたの。きっと、彼と付き合ってたのもそういう思いがあったからだと思う。

でも…やっぱり近くで見ると諦めきれないよ…。なのに…私の居場所はあそこにはなかった…。

そしてまるであわせたかのように彼という支えも失って、すごく不安で仕方がないの。

今までずっと…ずっと明るい紗季という少女で振舞ってたけど…もう無理だよ。」

「紗季ちゃん…。」

自分の本心を口にだしたからか、紗季の顔はすっきりしたというふうにも見える。だが、それ以上に紗季は儚く消えそうだと恵梨香は感じていた。

だが、自分にかけていい言葉がわからない。一体何を言うべきなのか、一体何を言ったら彼女を支えられるのか。

「紗季ちゃん、私ね」

一分ほど考えて恵梨香は自分も同じ事をする決心をした。紗季と同じく本心を彼女に伝えるために。

「自分が変なんだろうって思ってた。」

「…変?」

当然言葉の意味が掴めない紗季はオウム返しのように言葉を返す。だが、恵梨香はその言葉にあえて反応せず話を続けた。

「一体自分の気持ちはなんだろうなって…ずっと毎日のように悩んでた。

嫌われるかもしれないってずっと怖くて言えなかった。でも紗季が私を信用して言ってくれたように…私も本心を伝える。

私、紗季の彼女になりたいな。」

空白の時間が流れる。それは、ほんの数秒だったのかもしれないし、数十秒だったのかもしれない。ただ、恵梨香にとっては永遠のような時間に感じていた。

「…私でいいの?」

「むしろ紗季じゃなきゃだめなんだよ。私を救った紗季じゃなきゃ。」

「…きっと私は恵梨香の気持ちには完全には応じれないよ?

私はきっとお兄様を諦めきれない。それでもいいの?」

「うん。ただ…私は紗季ちゃんの特別になりたい。

今までみたいな親友じゃなくてそれよりも一歩進んだ特別な関係。紗季ちゃんが彼氏を作るまでの代替でいい。その間だけでもいいから私をそばにいさせて。」

恵梨香自身、そんな自分の気持ちがよくわかっていなかった。

恋愛なのかもしれない。それとも、ただ親友を助けたいという気持ちなのかもしれない。

でも、それがなんだろうと彼女を支えられる口実になるのなら…恵梨香に迷いはなかった。

「じゃあ…お願い、恵梨香。私を…支えて。」

それだけ言った紗季は本気で感情を表に出して泣きじゃくった。それをただ抱き寄せて抱きしめる恵梨香。

2人だけにしかわからない関係は、それ故に強く2人を結びつけるのだった。


というわけで、SS終了になります。


話そのものは、少し前に宗と佳音、紗季のことを書いたSSの直後がメインになりました。

あの後の紗季について別視点から描くことによって少し佳音のことにも触れられたかなと。


テーマとしては、「知られていない影響」になります。

3月の時に宗を取り合って起こった騒動は、当事者3人の誰もしらないうちに2人の少女を苦しめ、それ故に出会っているという話になります。

実を言うと、キャラの流用だけしてこの話だけで別の章を書こうかなと思って考えていたネタだったのですが、事件のオチが見つからず書きたい部分だけダイジェストという形でSSにしました。

(正直、最後の部分は前の宗と佳音の告白の時と大差ない気がするのであまり気に入ってないのですが…。)


まだ、肝心の真相を得るという話にまでは至ってませんが、とりあえずはメインの話を進める予定です。


この話を読んでくれればわかると思いますが、同性愛に関しては否定していません。

宗や佳音だって特殊とはいえ、半分同性愛に近いですし、そもそも恋愛というものを描く上であまり大差はないと思っています。

嫌いな方にとっては読みたくないという方もいらっしゃると思いますが(そもそも、そんな人は性転換がテーマの作品など読まない気もします)描き方としては変わりませんのでご了承ください。


と、長々と書きましたが2人がメインのストーリーに出てくる予定はなく(一応考えてはありますが)あくまで対比の1つとしてのSSのつもりです。

さて、次からやっと恋愛編(?)に入るのですがその最初は宗と佳音2人の旅行の話になります。

実を言うと、前に書き溜めてあった分なので後半のまとめだけしてしまえばアップできる関係上、そんなに長々とはかからないとは思いますが前例がある以上信用していただけないと思うので、寛容に見ていただければ幸いです。

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