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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第7章「過去編」
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SS12「紗季と恵梨香 前編」

「紗季ちゃん!」

そう言って抱きついてくる少女。それを少しだけ驚きながら諭すように返事をした。

「もう…恵梨香。いきなり抱きついて来ないの。」

「いいじゃない。せっかくのデートなんだから。」

そう言って腕を組んでくる恵梨香。もう半分諦めている紗季はその手を解こうとしなかった。

(最初はこんな風じゃなかったのに。)

そんなことを心の中で思いながらも、紗季は決してそれを悪く思っていない。

さすがに恵梨香ほどのはしゃぎぶりは無くとも、笑顔で彼女の後を追っていった。



紗季と恵梨香が出会ったのは、中学3年の4月。大体半年前頃の話だ。

「紗季ちゃん、今年も室長やってくれるの?」

「もちろんだよ。まあ、みんなが嫌だって言ったら無理だけどね。」

「何いってんの。あんたを知っている人で嫌なんていう人いないよ。」

新しいクラスのメンバーが決まり喜ぶ声と落胆の声が聞こえる中、紗季は友達とクラスでそんな話をしていた。

実を言うと、紗季は学校の中でかなりの中心人物といえるリーダーシップを発揮していた。

ある想い人にはとことん甘える姿からは想像もつかないが、クラス、はたまた学年の中でも彼女にまかせておけば大丈夫という流れが3年間のうちにできているほどだ。

本人もそれを苦と思っておらず、またその人当たりの良さから今年も何の問題もなく室長へと収まったのだった。

(今年もなんとかうまくいきそう…と思ってたんだけど。)

新しいクラスメイトとのファーストコンタクトも比較的成功し(さすがに1日目で初対面の男子までは網羅できなかったが)一安心と思っていた紗季だったが、そこに担任はある問題を押し付けてきた。

「纐纈恵梨香さん…と。」

未だに会ったことのない彼女の家へ教えられた情報を元に一種の家庭訪問のような気分で向かう。

どうも、担任の話によると、3月の後半から急に学校に来なくなったらしいのだ。その理由を訪ねても、親は家庭の事情の一点張りで本人は登校拒否。先生側も打つ手がないというわけである。

そこでいきなり新室長に訪問をお願いするというのも無茶なようにも見えるが、実は先生側の意図を紗季は既に掴んでいた。

『生徒側の情報網を使ってほしい。』というわけである。

これがいじめが問題であろうと、何であろうともしそれが周りにわかるようなレベルの話しであれば絶対に生徒達は何かを掴んでいるものだ。

だが、それは決して先生側に漏れることはない。先生にとっての成績表が門外不出のものであるならば、生徒の情報網から集めたものもまた同じようなものなのだ。

紗季だっていつもなら断っている。ある意味でスパイのようなものなのだから。

けれども、新しいクラスの仲間の一人となれば…さすがに妥協せざるを得なかった。


一度決めた後の紗季の行動は早い。

話を持ちかけられたのは学校が終わる1時間前であったが、その日の帰りにはもう概ねの背景を掴んでいた。

(でも…出来れば本当であって欲しくない。)

だって悲しすぎるではないか、身内の自殺など。

「すいません。仲井紗季と言いますが、恵梨香さんいらっしゃいますか?」

そんな思いを持ちながら、紗季は母と思われる女性に恵梨香への取り次ぎをお願いした。

「わざわざありがとうね。もし良かったら…恵梨香と直接話してもらえる?

もう半月近く私としか話してないから、何か刺激になればと思って…。」

(あれ?事前情報と違うかな。)

ドアから出てきた恵梨香の母の言葉に紗季は疑問を抱いた。

たしか、先生から聞いていた話では、面会すらさせてもらえなかったはずだ。

それをむしろ頼んでくるというのは、時間による変化か、はたまた紗季を親友かなにかと思ったのか。

そんなことを思いながらも、まるでそれを感じさせない言葉で紗季は面会をお願いした。


(これはさすがに予想してなかった…。)

向かい合う紗季と恵梨香。紗季はドアの前に立ちすくみ、恵梨香はベッドの上で膝を抱えているという違いはあるものの無言の空気がそんな些細な違いを忘れさせる。

「どうして学校に来ないの?」

そんな静寂を破ったのは紗季の方だった。

その言葉にあくまで無視を貫き通す恵梨香。このままでは埒があかないと感じて紗季はカードを切った。

「あなたの姉のことかしら?」

「えっ!?」

たったその一言で恵梨香は別人かのように強い反応を示す。

「どうしてそれを…?」

「確かにあなたの登校拒否は原因不明ということに先生の中ではなっているみたいね。

でも、生徒の間の噂ってのは怖いものよ。

あなたの姉が3月の途中からきっかり見かけられなくなった。そしてそれとほぼ同時にあなたの登校拒否。

流石にその2つを関連つけて原因だと思っている人はほとんどいないだろうけれども、そういう可能性を考えて情報が集まればある程度の推測がつく。

概ね、事件に巻き込まれたか…自殺か…というところまではね。」

そんな挑発するような紗季の口調に見事に載せられる形で恵梨香の感情は強く引き出される。

「大きなお世話よ!

それが本当だとして、一体あなたは何がしたいの!?

先生には会えませんでした、または会ったけれどもまともに話ができなかったで報告しておけば済む話でしょう?

ほおっておいてよ!!」

それは、この1ヶ月。彼女の中から出てこれなかった怒りの感情だった。

それが引き出せたことに一定の安堵を抱きながらも、紗季は言葉を返す。

「私はあなたにまた学校に通ってもらいたいだけよ。

それは、先生の意思じゃない。正直、先生への責任感なんてこれっぽっちも持ってない。

自分の意思がなかったら、あなたみたいな根暗へかまったりしないわよ。

ただ、あなたとは…共感できそうな気がしただけ。」

「共感…?」

てっきりさらなる罵倒が飛んでくるものだと思っていた恵梨香は、最後の弱々しい言葉に毒気を抜かれたようにそんな言葉を返した。

「私には…憧れの先輩がいる。

小さい頃からその隣にいたいと考えて…それでも、やっぱり隣にたつにはまだ早いと思ってずっと我慢していた。

彼には…小学校の頃からの幼馴染がいるんだ…。男子なんだけど…私よりも小さくてすごく彼に懐いていた。

でも、男の親友だから…あの場所にいれていいなと思うだけでそれ以上何もしなかった。

それが…ある時変わってた。

彼は…いえ、彼女は…スカートを履いて、お兄様の隣にいた。

それもすごく自然で、まるで元々女子だったかのような可愛らしさをもって…お兄様と手をつないでいた。

お兄様は笑っていた!その現状になんの疑問ももたず、当たり前といったように彼女と一緒に歩いて行ったのよ!

高校で普通に彼女を作ったと言うなら私もまだ我慢できた。私とお兄様の距離感からしたら私の想いなど気づいていないのだから。

でも…全くノーマークだったお兄様の親友が…気がついたら彼女になっているなんて…私はなんて反応すればいいのよ!

そうやって…私も一人悩んだよ。学校ではいかにも明るいように振舞って、家では別人のように沈んでた日々が続いた。

でも…私は立ち上がった。悩んでいるぐらいなら、本人に経緯を聞くほうが…まだ諦めがつくじゃない。

あなただって、姉のことについて疑問を持っているのでしょう?

なら、立ち上がりなさいよ。立ち上がって…あなたの姉の真意について知るように努力する。

残された私たちには、そういう道が残ってるのよ。」

長い長い演説を終えて紗季は一息つく。ふと、恵梨香を見るとその目には今まで一度も浮かんでこなかった生気を帯びた目がこちらをじっと睨んでいた。

「確かに…こんなところで一人落ち込んでても仕方がない。

あなたのおかげで目が覚めた。ありがとう。

明日から…今までどおり学校に通う。そしてお姉ちゃんが死んじゃった理由、それを探す。」

「わかったわ。

纐纈さん、明日からクラスメイトの一員としてよろしく。」

「纐纈さんなんてやめて。恵梨香って呼んでくれる?」

「なら、私も紗季でいいわ。恵梨香。」

「ありがとう。よろしくね、紗季ちゃん。」

そう言って握手を交わす2人。

口にはしなくても、2人の間には互いに協力者だという共通認識が強く生まれていた。



「纐纈さん、来るようになってよかったねー。」

「うん。室長になっていきなり登校拒否のクラスメイトがいるなんてことにならなくて本当に良かった。」

そんな言葉を友達と交わす紗季の視線の先には、普段の紗季に負けず劣らず何人もの女子が周りを囲んで雑談を交わしていた。

本当に復帰できるのか?という紗季の疑問は杞憂に終わり、今までの友達と生粋の明るさで何の問題もなくクラスに馴染んでいる。

ただ、唯一変わったことと言えば…

「紗季ちゃんー!」

友達との話が一区切りしたのか、紗季の姿を見つけて駆け寄ってくる。そして、そのまま後ろから抱きついてきた。

「ちょっと、恵梨香!?」

「紗季ちゃん、堅いこといわないのー。」

こんなように恵梨香が妙に紗季になついたことぐらいか。

周りも少し驚きながらも(きっと今までの恵梨香はこんなことをしなかったのだろう)それを受け入れているのは、彼女の人徳か。

これを堺に2人は、公私ともに認める親友となったのだった。



お久しぶりです。



今回、はじめてメイン4人がだれも出てこないSSとなりました。

本来1つにまとめようと思っていたのですが、執筆ペースと区切りの問題で2つに…。


テーマ含めて詳しい話は次のあとがきで行います。

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