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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第7章「過去編」
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第46話「支える覚悟」

結局、号泣し目を腫らして寝てしまった佳音は泣きつかれたのかそのまま寝てしまった。

きっと大好きな宗の胸の中で寝ていられたというのは大きな要因の一つだろう。

その後、佳音が目を覚ます頃には目の腫れも消え、外見からは一連の騒動がわからない程度には収まっていた。

もしも、やり取りの声が聞かれていたりその後の鳴き声を聞かれていたら意味がなかったところだが、後から聞いたところその時のことは全く気づかなったというから幸いというものだ。

「あ…。」

目が覚めた佳音は、自分が宗に抱きついたまま寝ていたという事実に気が付き、顔を赤らめた。

宗のそばにいることが慣れている数年後の佳音にはみられないような初心な行動である。

とりあえず、佳音を落ち着かせるために佳音から一旦離れてこういった。

「とりあえず、僕が変えたほうがいいことってある?」

結局、今の佳音が何を望んでいるのか、それを知ることが佳音を傷つけないためにまずするべきことだろうという行動が佳音が寝ている間に宗が出した結論だった。

「変えて欲しいこと…は私を女子として扱ってほしいこと…かな。」

実を言うと、佳音の方も具体的な答えを持っていなかった。

こんなに好意的に受け入れてもらえるという未来を描いておらず、またその場合の具体的な行動についても考える余裕がなかったからだ。

「あ…もう1つあるんだけど…いい?」

「いいよ、何?」

「宗のこと…2人きりの時だけでいいから宗ちゃんって呼んでいい?」

もっと、困難なことが来るかと思ったら思ったよりも簡単なことで宗は逆に拍子抜けしていた。

「もちろんいいよ。じゃあ、僕も佳音ちゃんって呼んだほうがいい?」

そう言う宗は笑っていたからからかいの意味を含んでいたのだろうが、今の佳音にそんなことを判断する余裕はなかった。

「え…流石に…それはちょっと恥ずかしいかも。

今まで通り佳音って呼んでくれるのが一番嬉しい。」

「そっか。佳音、これからもよろしくな。」

「うん、ありがとう。」

そう言って2人はまるで初めてあったかのような会話を交わした。

実際、2人にとっては「女子としての佳音」は初めて会うものであったから。



「今日はびっくりしたなぁ…。」

とりあえず、佳音を家まで送って行って(時間がそんなに遅くなかったのが幸いしたのか互いの両親に不審におもわれることはなかった。最も、その場合でも長く遊んでいたか勉強していたかのどちらかにしか思われないが。)家に帰った宗は1人ベットに座ってそんなことを呟いた。

先ほどの長い思考時間が幸いしたのか、宗の中に戸惑いも疑問もない。ただそういうものだったということを受け入れ、どうして今まで気づかなかったのだろうと少々葛藤する程度であり、一般的な高校生としては少々達観した考え方だったのだろう。

まあ、現状それは誰1人として不幸にしていないから要らないお世話であろうが。

(これで…もう誰からの告白も受け入れられなくなったな。)

概ね今後の佳音に対する対応も決まっていたからか、宗が考えていたのはそんな的外れなことだった。

実際佳音からの告白を受け入れたとは言わなくても、とりあえず保留といった対応であり、むしろ遠回りな肯定ととられてもおかしくないだろう。

だが、宗はそれでもいいと思っていた。ただ、佳音に対する感情を「恋人」として処理できないというだけで「親友」としてならどんな方法だろうと佳音の手助けになる覚悟は決まっていた。というより、元々佳音が相談してきた時点で断るという選択肢は宗にはなかったのだ。

だから佳音の心配は残念ながら杞憂というものだったが、結果的に今まで以上の近さで宗の側にいられるのだからこれ以上の幸せもないだろう。

あくまで宗の側からの認識が変えられないだけで、もしも佳音が宗と一緒にいることを「デート」だと称しようと、周りが「カップル」だと言おうと(流石に男子同士だと抵抗はあるが)それに対する訂正は入れないつもりでいた。

だからこそ生半可な気持ちで、告白してきた他の女子と付き合うなんてことは出来ないのであった。

(まあ、自分が本当に好きになった女子がいたら…その時は、また変わるのかな。)

奇しくもその予想は1年後の未来を暗示していた。



それからの佳音は周りから見て、そんな重大な悩みなど持っていると思えないほど安定した生活を送っていた。

数少ない周りから見える変化が、宗に対する呼び方の変化がたまに出てしまうぐらいだが、それだって決して不自然というものではない。

クラスも一緒ではない宗と佳音が一緒に話す友達は基本的にバスケ部のメンバーであり、その仲間とも引退してからは会う頻度がやはり下がっている。

もちろん、仲間はまだバスケがやり足りないらしくかなりの頻度で未だにバスケ部に顔を出しているらしいが、宗と佳音は今までの先輩と同じくたまに顔をだす程度にとどめていた。

それは、バスケをしたいという感情よりも宗と一緒にいたいという佳音の意志でもあった。


「宗ちゃん!」

学校からそのまま家に(もちろん宗の家のことである)帰ってきて荷物を下ろした佳音は、宗のベットに座り込んで宗を手招きした。

もちろん、佳音が何を目的でそんなことをしているのかは宗が知らないわけがない。というか、ここ数日で毎日希望されてれば予測もつくというものだ。

「わかったから、落ち着け。」

そう言って上着を脱ぎ、言われた通りにベットに座る宗。その肩に佳音は寄りかかった。

元々の希望は宗の膝の上に座って抱きしめてもらうことだったのだが、一度宗が渋ってからは言わなくなり、こうやって肩に寄りかかるようになった。

ちなみにその言わなくなった理由が「佳音が女子の制服を着るようになったらやってもらうため」という宗にとっては謎でしかないものなのだが、この心理を宗が理解するのはかなりの困難を要するだろう。

ともかく、今の佳音にとってはこんな形で宗と一緒にいることが何よりの幸せだった。

「そういえば、今日の授業でね…」

話すことは特に特記するようなものではない。一般的な中学生が話すような会話でバスケに関する話が多少難しいかなという程度で他はクラスの友達でも普通についてこられるような話題やちょっとした世間話など大したことのないばかりだ。

実際問題、佳音が自分のことを告白する前と話している内容が大きく変わっているわけではない。

宗の側もあえて佳音が不安定になるような話題は振らないし、佳音だって恋人同士みたいな会話を交わしたいと思っているものの今の関係を崩したくないという思いもあってかそういう話題をできるだけ外すようになっていたからだ。

とはいえ、完璧に話さないというわけにも行かない。

「そういや、佳音。例の薬を初めて副作用は出ていないか?」

「うん。まだ1週間だけど今のところは大丈夫だよ。

一応、医者側からも何か変化があったらすぐに言うようにって言われてるけどね。」

2人が言っている薬、それは女性ホルモンの投与剤のことだった。

佳音の思いが本気であると感じた医者は、悪影響が出たらすぐにやめることという条件付きで佳音に薬を処方した。

データでは、数ヶ月から数年単位で体が女性的なものに変化してくることがあるということであり、最終的に性転換までしようと覚悟している佳音にとって必要不可欠な薬だった。

「それはよかった。もし、医師にいいにくいような微妙な変化でも言ってくれよ。心配なんだから。」

そう言って佳音の頭を撫でる宗。

「うん、ありがとう。宗ちゃんは優しいよね。」

そして宗に撫でられて嬉しそうな笑顔を見せる佳音。

本人達はどう思っているかは別にしても、今の2人はどこから見ても恋人同士にしか見えなかった。


そんな話を1時間ほど続けた佳音は今、宗に膝枕をしてもらいながらすやすやと眠っている。

部屋で安眠ができない佳音にとって、宗の側で寝ていられる今が数少ない安眠できる時間でありまたその時間を宗は決しておなざりにしなかった。

宗は一緒に眠ることなく、佳音の髪を撫で続けて見守る。佳音がうなされたりしてもすぐに対応できるようにという宗の思いの現れであり、またこれを苦痛だとは全く思っていなかった。


こういった宗の全面的なサポートのおかげだろうか、佳音は一般的には一番不安定になる心と体の性が隔離された間をかなり安定して過ごすことが出来、ついに3月の頭に性転換手術を行うに至った。

これでも一般的なスケジュールからしたらかなり早い方らしい。ただ、佳音が学生であることから高校生は女子の方がいいということ、宗側のサポートもあるということに加えて佳音の強い希望によって行われるようになった。

「宗ちゃん…怖いよぉ…」

既に手術着に着替え、移動型のベットに横になった佳音は手術直前、宗の顔を見てほっとしたのか弱音をもらした。

未知の領域であるから怖いということもあるだろう。だが、宗は佳音が不安に感じているのはそっちではないと感じていた。

「大丈夫。何があったって、佳音は佳音だよ。僕はずっとお前の側にいるから。だから…頑張ってこい。」

変化というのは、周りに何らかの影響を与える。

そして、今日の手術は宗にカミングアウトした時以来の大きな変化であるのだから、もし宗が今までどおりの対応をしてくれなくなったら…と不安に思ってもおかしくない。だからこそ、かけた言葉だった。

「うん…。頑張ってくる。」

その言葉に安心したのか、少し笑顔で答える佳音。

そのまま佳音は手術室へと向かっていった。



佳音が手術を受けている間、宗はある覚悟を決めていた。

(佳音の幸せを…絶対に守ろう。たとえ、それがどんなものだろうと、今の佳音を親友として支えなくちゃいけない。)

佳音があれだけの変化を受け入れたのだ。その勇気に応じたものを宗も持つべきだというのが、1人待っている中で思い至った覚悟だった。

この考えは、高校になっても宗の考えの根本になるものであり、形は変わっているとはいえ未だにずっと持ち続けているものだ。

だが、今の覚悟とこの時の覚悟では明らかに違うものがあった。

それは、宗の立場。

この時の宗は「親友」として佳音が幸せになるように努力していくつもりだった。

これが、きっと「彼氏」としてという覚悟をもっていれば、3月の事件は起こらなかったのだろう。

だが、今の宗にはそれを認めるだけの勇気が持てずにいたのだった。



長くなりましたが、これで宗と佳音の中学時代の話は終わりです。


中学時代…ということは、お察しのとおりまだもう少し続きます。

宗と纐纈の出会いの話と、3月の事件でまだ佳音が話していない事実についての話を加えて、あと2話程度で過去編の終了の予定です。


なかなか本編が進まず、現実の時間から大分置いていかれていますが、3月までにあと3章分終われるように努力していきます。



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