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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第7章「過去編」
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第44話「少年とお姫様」

女子としての自分は決しておかしくない。

この事実は佳音にいい意味でも悪い意味でも大きな影響を与えていた。

(本当に好きなように生きていいのかな。)

今いる場所は近くの公園。よく部活の友達とバスケをやりに来ていた公園だったが、今は誰もいない。

それもそのはずだ、今はもう12時近くなのだから。

(流石に帰らないと心配するかな。)

一応、散歩してくるとメールはしているものの、本来ならば補導されてもおかしくない時間だ。

けれども、今の佳音にとって自分の部屋は苦痛以外の何者でもなかった。

(あの部屋にいると…男子として生きることを強要されている気がする…。)

とはいうものの、仕方が無いだろう。今まで男子として過ごしてきている部屋に女子を示すものがないのは当たり前といえば当たり前だ。

実は佳音の思いとは裏腹に、女子っぽい自分の子供に対する支えとしてわざと男子らしい部屋にしているという両親の思いがあったのだが、今はそれが完全に裏目に出ていた。

(帰りたくない…できれば、宗のところに…。)

佳音は歩き出せずにその場に座ったままうずくまった。

宗を頼りたい。この不安な気持ちをどうにか宗に慰めてほしい。けれども、それを言う勇気は佳音にはなかった。

だから、声がした時も最初は寒さからの幻聴かと思ったほどだ。

「やっと見つけた…。佳音、どうしたんだよ。」

すぐには反応できず、少し時間をあけて振り向くとそこには佳音の元にかけてくる宗の姿があった。

「宗…どうして…。」

「どうしても何もねぇよ。おまえが心配だからに決まってるだろ?

おまえの親から電話があってな。散歩に出かけると言ったままなかなか帰ってこないから僕の元にいるんじゃないかって。外に出てるならここにいるだろうなと思っただけだよ。」

良く考えてみれば、その方法でしか宗が佳音の不在を知る方法はないのだ。携帯は今も佳音自身が持っているし、そもそもこんな時間に連絡をすることが稀だ。

「ご…ごめん…心配かけて。」

「まあ見つかったんだ、いいとしよう。さて、帰るぞ。」

そう言って宗は手を差し出した。その手を佳音はしっかりと掴む。

(あったかい…。)

宗からしたら座り込んだ佳音に手を差し伸べた以上の意味はなかったのだろうが、佳音にとってはまた別の意味を持っていた。

まるで宗が佳音のことを彼女として扱ってくれたような気分になれたのだ。だからこそ、佳音はその手をしっかりと握って離さなかった。

佳音の手を包むぬくもり。それは、凍りついていた佳音の心を溶かしているかのようだった。

「寒っ!」

だからだろうか、佳音が急に寒さを感じたのは。

もう暦10月が終わろうとしており、手袋こそしていないものの宗の首にはマフラーがかかっている。

いくら真冬はまだ早いとはいえ、こんな時間に薄着でいれば寒いのも当たり前だった。

「しょうがないなぁ…。」

そんな佳音を見て、宗は笑いながら自分のマフラーを取る。そして、佳音の首にかけた。

「…いいの?」

佳音は意図せず、上目遣いでそう言った。そんな佳音を見て宗は母性を感じたのかこう言った。

「もちろん。佳音が寒そうにしてるのを見たらみてられなくて。」

宗にとっては、あくまで弟のようなニュアンスだったのだろう。だが、この言葉は佳音の中にひとつの勇気を生み出した。

「そ…宗っ!」

もしも、失敗したらどうしよう。という不安になる心を抑え込んで佳音は言った。

「い…一緒にかけない?」

確かに宗がつけていたのは1人にしては長すぎるもので(最も宗はそれをファッションの一部として着こなしていたが)たとえ多少の身長差があろうと2人でつけることは可能だろう。

問題はそこではなく、精神的な問題だろう。

宗がそのままうなづいてくれたらいい。けれども、もしも不可解といった表情をされたら…。

そんな不安は今回に限っては杞憂で終わってくれた。

「そうしようか。」

あわてた佳音をかわいらしく思ったのか、宗は少し笑いながら佳音につけたマフラーを外し2人用にかけなおした。

「…ありがとう。」

佳音の小さなつぶやきは小さすぎて宗には聞こえなかったのか、それとも聞こえていた上で反応を見せなかったのか。それは宗にしかわからない。

一見すれば、仲のいいカップルのような雰囲気で(もちろん、顔見知りな場合別の意味で居づらくなるのだが)2人は歩き出した。

「それにしても、佳音はどうしてあんなところにいたんだ?なんか悩みでもあったのか?」

その言葉に今までの佳音だったら、なんでもないと答えるだろう。

けれども、マフラーの件、あれを宗が受け入れてくれたという事実は佳音に大きな自信を生み出していた。

もしかしたら…すべてを打ち明けられるかもしれない…と。

「うん。実は好きな人ができちゃって…。」

佳音はこうして初めて宗に自分の気持ちを遠回しに示した。もちろん、悟られるような話をする勇気はまだなかったが。

「おお、佳音もついに恋に目覚めたか。その好きな人って僕は知ってる?」

もちろん、真実を言えば知っているに決まっている。だが、さすがにここでそれを言うことはしない。

「知ってる人だよ。でもまだ名前は秘密にさせてね…明日にはいうから。」

宗は頭の中で何人かの女子友達の顔を浮かべるが、どこかしっくりこなかった。最も、まさか自分がカウントに入っているなど夢にも思わないのだからしかたがないのだが。

「そっか…なんだかなぁ…。」

そう言って、宗は珍しくため息を着いた。

「宗ちゃん!?どうしたの?」

その表情に(まずありえないことではあるが)佳音は宗への想いを感づかれたのかと思いあわてた。

もちろん、宗のため息の理由はそうではなかった。

「いや、なんか嬉しい半面、寂しいなと。

もちろん、佳音が恋愛に目覚めてくれたのはやっぱり嬉しい成長だと思うけど、その中でこんな夜中に1人で考えなきゃいけないほどの悩みだったら、僕に相談してくれたら嬉しかったなって。」

その言葉に佳音は一瞬言葉が詰まった。

もちろん、宗にそんな意図があるわけがないことはわかっている。けれども、宗が自分を必要としてくれている、そのことを考えるだけで佳音の目には大きな雫が溜まっていた。

今度は宗の方が慌てる番だった。

「お、おい?どうしたんだ?僕…そんなに傷つけるようなこと言った?」

「ううん。」

佳音は目に溜まった涙を拭きながら言う。

「宗が私のことを必要としてくれているということが嬉しくて…宗は絶対に私の側から離れないよね?」

その言葉に謎の違和感を感じながらも、宗は反射的にこう答えた。

「僕はお前の親友だろ。おまえが困ってるなら全力で助けるさ。」

「ありがとうっ!」

佳音の顔に満面の笑みが浮かぶ。

そこから家までの間は佳音にとって、とても幸せな時間だった。



家に着いたのは日付が変わってからという時間だったが、結果的に佳音は対して怒られずに済んだ。

それは佳音の両親が比較的甘いという面ももちろんあったが、宗が迎えに来てくれたこと、それに宗が事情を(もちろん恋愛のことは伏せて名目上の事情だ)説明してくれたことが幸いした。

むしろ怒られたのは時間ではなく、両親、そして宗を心配させたことであり、そのことについては佳音も全面的に反省する気持ちがあり、大した騒動にならずに済んだ。

実を言うと、このあたりで宗が側にいるからという理由で甘くなる佳音の両親の性格をもっと熟知していれば、今後佳音の秘密を話した時の無抵抗さの理由がわかりそうなものだが、この時点でそれを求めるのは苦というものだろう。

(明日…言わなくちゃ。)

佳音は1人潜り込んだベットの中で自分に言い聞かせるように心の中で呟く。

もしかしたら受け入れてくれるかもしれないという自信を持っている今、ひたすら明日のシュミレートを行なっていた。

そんな中で佳音は1つのキーワードを思い出した。

シンデレラ・コンプレックス

昔、青年に関する公民の勉強をしてきた時に出てきたワードだ。意味は「いつか王子様が迎えにきてくれることを夢見る少女の心」のこと。

佳音にとっての王子様とはもちろん、宗だ。

けれども、宗が出会ったのはお姫様ではなく、たった1人の少年だ。

だからこそ、明日伝えなければならない。少年は王子様に恋するお姫様だったということを。

その王子様の答え次第では、今後の人生を諦めることすら覚悟していた。



ユニークユーザー1万人突破しました!

PVも56000を超え、感謝の言葉しかありません。ありがとうございます。

まさかユニーク1万を超える日が来るとは…。


さて、本編の方ですが、佳音の告白直前までの話になっています。

会話の中で微妙に意図が違ったり、またその意図をわざといい風に解釈してとっていたりと、会話中ながら心理描写中心になっています。

まあ、相手の言葉を都合の良い風に解釈することなんて恋愛に夢中になっている人ならわりと当たり前かなと思いますが。


次の話で告白までの一連の話を終わらせたいです。

過去編をどこまで書くかなのですが、予定ではその後の性転換手術の辺の話までを佳音についての過去の話として、その後1話程度は宗から見た纐纈の話をしたいと思っています。


作中の時間がなかなか進まず、もう1ヶ月から2ヶ月ほど置いていかれていますが、どうにか3月までには作中と現実の時間がいっちすればいいなと思っています。


これからも応援よろしくお願いします。




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