第41話「協力締結」
「また来てもらって悪かったな、ソウ。」
暗闇に立つ金髪の青年はそう言った。
「別にここに来たことはたいしたことじゃないよ。それよりも、佳音を説得するほうが大変だったぐらいだ。
さて、そろそろネタばらしをしてもらおうか、ヒーローさん。」
「ヒーローなんて皮肉だぜ。そもそも、確かにヒーローは俺かもしれねぇが、真の功労者はお前だぜ、ソウ。
未だに信じられねぇよ、あれだけの時間からここまでの作戦を思いつくお前の頭がな。」
「それは運が良かっただけだよ。あかりがあのキーホルダーを持っていてくれたとか、GPS妨害がなかったとか、おまえの会社が関わっていた…とかね。
そうさ…本当に運が良かったんだよな?」
自分が言った言葉を自身で否定する。それは言外の意味を有していた。
「全く…ネタばらしとか言っておきながら、お前自身で答えにたどりついてるじゃねぇかよ。
俺は答え合わせのためにいるわけじゃないんだが…まあ、どうせ伝えようとしていたことだ。勿体ぶることですらないな。
この事件…というか出来事なんだが、明らかに上手く行き過ぎてる。」
「ああ。そのとおりだ。」
最初のあかりが連れて行かれたこと以外(そもそもそれが止められなかったらその後の問題すら起きないのだから含める必要はないぐらいである)であらゆる障害がない。
それは、単に運がいいという考え方もあるが…
「お膳立てされていた。と考えるほうが普通だぜ。そして、それにたどり着く答えを俺は持ってる。」
勿体ぶることではないといいながら、中々核心にたどり着かないケント。いや、そうはいったもののあまりの強大な存在に躊躇いを感じているんだろう。
だが、その躊躇いを打ち破ってケントはその言葉を口にした。
「政府の機関、それに名前はない。いや、あるのかもしれないが、その名前を俺は知らない。だが、今回の話には、そこが大きく関わってる。
今回の件なんだが、表向きは綺麗に収まった。
アカリの自由も手に入れたし、副産物としてアカリの家族の承認も得た。そして、俺の会社の方の問題もなんとか解決できた。
それは、そこの情報提供があったから、いや、表現としてはその機関というチートクラスの情報ソースを持っているからだと思ってる。
そうじゃなかったら俺の会社が関わってることすら知ることは出来ないだろうし、そもそも暴露してしまうと、俺がここにいるのもそこの指示だ。」
その言葉に怪訝な顔をする宗。それは、ケントの言葉が信じられないからではない。
「指示?」
最後の指示という言葉に疑問を感じたからであった。
「ああ。心配しなくてもいいぞ。とりあえず、現状お前と敵対するつもりはないさ。
一応、上の指示はカノンという技術者の監視とアメリカへの誘致。そして、噂程度だったお前についての調査となってる。
信じられないかもしれないが、おまえのことも上は知ってる。まあ、カノンの彼氏という程度の話だがな。
話は少し変わるんだが、8月の末の話。何を指しているかはお前はわかるだろ?」
8月の末。それが指すものは宗の中で一つしか無い。
「どうして、それをお前が知ってるんだ?」
だからこそ、宗の側には戸惑いしかなかった。
「あの事件。なかなか、活躍したみたいじゃないか?ソウ。
あの研究所は、政府が出資して立ち上げた各国での産業スパイみたいなものでね。
その中でもあの研究所は、独走していた上に色々な弊害も出ていた。そう、例えばその国の中では違法となっている拳銃を所持していたりとな。
だから、機関は内密に潰そうとしていた。そんな中の話だよ、おまえがあの研究所を公的な機関、つまり警察の力を借りて潰したのは。
全く…機関の方も戸惑うしかないだろうが。そんなことがかってに起こった。いや、起こったことはどうでもいい。正直ありがたかったぐらいだろうからな。
問題は、誰が潰したのか。それがどんな形であれ、敵となるのか味方となるのかぐらいの情報は入手するべきだというのが上の考えらしい。
そして、その犯人候補となっているのが所属していたカノン。だからこそ、あの事件からたった2週間もたたずに俺がここにいるというわけだ。
誤解をうまないために言っておくが、ついこの間まで俺もカノンがやったことだと判断していた。
だけど、今回の件を見て確信した。あんなことをやってのけるのはカノンじゃない、お前だってな。」
「…お褒めに預かりありがたいところなんだが、その一連の話は本当なんだよな?
にわかには信じられる話じゃないぞ。」
「おまえ、こんなところで嘘八百並べるかよ。確かに信じられない話かもしれないが、わずかとはいえおまえも闇の側に触れただろ?
ある程度のレベルまで行ってしまうと、そういうものに制御されてしまうんだよ。俺は、ハッキングも可能な技術を持ちながら大きな会社の社長もやってる。
そっち側にいたっておかしくないだろ?そもそも、あの事件について知ってる、それだけで俺がただハッタリで言ってるわけじゃないとわかるだろうが。」
少し考え込んだ宗だったが、確かに信憑性の高い話だと判断したようだった。
最も、本当に宗が疑っていたかどうかも怪しいところではあるのだが。
「さて、前置きが長くなってしまったな。問題は、ソウ、おまえが本来の貢献者であるということが今回のことでバレてしまったということだ。
そのことについて俺は、今回の一件はハッタリに使われたんじゃないかということだ。確かに、8月の件はカノンの力と考えるのがわかりやすい。
だが、研究所の所員の話や、警察の調書なんかをあの機関が手に入れないわけがないんだろう?その上で、その信憑性を確かめるために仕掛けた罠。
これが最も可能性の高い裏事情だと思うぜ。その確証を高める話として、上からお前についての情報を強く求められた。
もう上は俺が報告する前からでも、お前を危険人物と認識してるぜ。上からしたら、俺やカノンみたいな頭がいいだけのやつなんかよりも、頭がキレる奴、つまりお前のようなやつが表に出てくることを水面下でさんざん止めてる。俺もそんな話にいくつか絡んでるからな。嘘だと言えないレベルの話だぜ。
その上でだ、お前と手を組みたい。」
そう言ってケントは手を差し出した。
「手を組むとはどういうことだ?」
もちろん、宗が持つであろうこの疑問もケントは予想済みだった。
「俺は、上の怖さもすべて体感してる。だからこそ、大切な人は守りたいと思ってるぜ。」
「その大切な人というは、佳音、翔也、あかり、里美のことを指してると思っていいんだな?」
「おう、そのとおりだ。俺が一番守りたいのはアカリ、お前が一番守りたいのはカノン。それぞれ最優先に守る人は違っても、守りたい仲間という枠では一緒だ。
それに俺からしたら、そばにいれないというのは、守るという点からしたら不安だ。だからこそ、俺がいない間お前にも守って欲しい。
高校生の話題としては、逸脱してるかもしれねぇ。だが、俺ら2人はその逸脱した世界にいるんだ。それを理解しろ。」
「…詳しいことは僕にはわからない。ただ、素直に大切な仲間を守りたい、だから協力しろっていう話なんだろ?
それなら、返事をするまでもなく協力するさ。それに、佳音を介さない情報源というのは僕としても欲しいところだし。」
そう言って手をにぎる宗。この握手は2人にとって初めての握手だった。
「これで安心して戻れる。
一応、不自然じゃない範囲ということで、おまえの会社…というか、カノンの会社か、あの会社と俺の会社の提携を結んでおくか。
名目じゃなくても、あの技術は借りたいぐらいだからな。」
「全く、ずる賢いやつだな。」
「お前に言われたくねぇわ。
さて、愛しの『佳音ちゃん』も待ってるだろうし、そろそろお開きとするか。
明日の見送り頼んだぜ。」
「おう、もちろんだ。」
先程までの長い話は嘘のように別れの挨拶すら入れずに2人はそれぞれの帰路につく。
別れの言葉は明日に…と分かっているかのように。
「それじゃあ、そろそろ行くわ。みんな、また会おうぜ。」
遂に別れの時は来た。
といっても、ついさっきまで別れの挨拶と思われる会話を宗を除く4人とケントはかわしており、やっとそれが終わったというところだ。
(余談だが、このことを予測して宗とケントは、本来必要な時間より1時間早く空港に着くようにした。)
みんなの顔には笑顔がある。いや、例外は目を腫らしているあかりぐらいのものか。
搭乗口へと歩くケントの表情は別れの後にしては随分とすっきりとしたものだった。
それは、安心感からか、はたまたやるべきことはすべてやってきたからか。どちらの可能性もありそうなものであった。
こうして、ケントの留学騒動は幕を閉じた…といえれば、すべて綺麗に収まったといえよう。
だが、ケントは騒乱の種を1つ残していったのだった。
(あの言葉の意味ってなんだったんだろうか?)
ケントを見送り、普段の学校生活へと戻った翔也は授業をBGMにふとそんなことを考えていた。
『宗に気をつけろ。』
ケントがわざわざ最後に翔也を呼びつけてまで言った言葉はそんな言葉だった。
『宗の周りにいるのは…かなり危険だ。そのことを心に刻みつけておけ。』
その言葉の意味は今の翔也にはわからない。
宗もケントも大事な先輩であり友達である。だからこそ、ケントの言葉を一概に信じるということが出来ずにいた。
お久しぶりです。
インターバルが長くなってしまいましたが、これであかりの家族に関する騒動、及び前章からのケントの留学終了です。
次の話は、大きく規模を広げた割には、一般の高校生レベルの話にまで一旦戻すつもりです。(もちろん、すべてというわけには行きませんが)
次の章の関しては、恋愛SSの集合体のつもりでいます。
章タイトルも恋愛騒動編です。
そういったことも考えて、恋愛に関する話をすべて章内に入れ、恒例の前後のSSに関しては恋愛以外の話を入れようと思っています。
この小説もあと2章で終わらせられそうです。
そこまでに6人の恋愛の結末を描ければいいなと。
応援よろしくお願いします。




