第37話「事前準備」
あかりを助ける。それは4人にとって共通の目的である。
だが、今回はすぐに動くということはせず、ケントのみに先に動いてもらい、それ以外の3人は休みである明日から本格的に動くということに決めた。
それは、急に学校を早退したりすると何を目的にやっているのかがばれる可能性が高いのもあるし、そもそもまだ移動中の現状では目的地すらわからない。
そもそも取引材料となる内容すらまだ固まってない状態では動けないと判断したからだ。
ケントが単独で動いているのは、留学ももう終わりということもあり多少動いても不審に思われないこともあるが、それよりも先に情報を集めてもらう必要があること、そしてそれがケントにしかできないという理由の方が大きい。
そういう事情もあり、宗と佳音はいつもより早めの帰路についていた。(翔也とは部室でいくつか相談をした上で別れている)
「それにしても、今日は偉かったな。佳音。」
「ん?宗ちゃん、どういうこと?」
「今日の昼のことだよ。ケントが僕の胸倉を掴んだ時に僕の手1つで静止できたから。
今までの佳音だったら激高してケントに殴りかかっててもおかしくないと思ってさ。」
「あ、なるほどね。
確かに、あの宗ちゃんの手がなかったら危なかったかも。」
あの時の佳音は本当に無意識のレベルで動いていた。
無駄に知識がある佳音なら人の急所(どちらかというとツボなんかに近いだろう)も把握してる可能性が高い。
最も、ケントも修羅場を乗り越えてるだろうからその程度のものはすり抜けられるかもしれないが、怒りで周りが見えてなかったこともあり、避けられたかも怪しい。
そういうことをおいておいたとしても、あの場で怒りではなく、喧嘩が起こるのは色々とややこしいことになる。それはどうしても止めておきたかったというのが宗の判断だ。
「それでも賭けだったけどな。
まあ、ケントがあれだけ怒るのは少し予想外だったが、結果的に伝えたいことは言えたし良しとするか。」
「私としてはまだ怒ってるんだよ。ケントが宗ちゃんを突き飛ばしたこと。」
「ありがとうな。でも、大丈夫。元々あの程度は怒らせた時点で予想範囲内だ。
それよりも、今のケントがちゃんと動いてくれているかどうかが問題だが…まあ、それは大丈夫か。
そもそもあの会社が関わってきている時点でケントが傍観者として居座ることは無理だからな。」
「それもそうだね。でも、ちょっと不自然かも。なんで、わざわざあの会社名義でやったのかな?」
「その言葉だと偽装っていうことが前提か…。まあ、少し端折り過ぎだと思うが、大筋間違ってないだろうな。
一応、もしそうだった場合の理由も考えてあるんだが。」
そう言って宗はある機関の名前を呟いた。
「え!?まさか…でも、たしかケントってそういう方面につながりが多いんだっけ。」
「本人の言葉でしか確認できてないけどな。だが、それが嘘じゃないとしたらその可能性も高い。
問題は理由の方なんだが…これは現状じゃ予想のしようがないな。とりあえず、ケントの結果を待つしかないな。」
あかりを助けるだけなら理由などなく、現状のみを把握して作戦を立てればいい。
だが、もし宗の予想が合っているならば、面倒なことになる可能性は高い。今だけを考えずに今後のトラブル回避のことも考えるならば、深読みし過ぎて問題ということは無いはずだ。あくまで予想の範囲として自身の行動を制限しないレベルでならば…の話だが。
「とりあえず、動くとしたら明日以降だ。あのキーホルダーもちゃんとあかりが持ってるみたいだしな。」
「もし、あれが機能しなかったらどうするつもりだったの?」
「まあ、その時はおまえとケントの情報収集能力に頼るつもりだったよ。本名はバレてるし、そもそも学校にだって実家の情報はあるはずだからな。
そこから嘘をつかれてなければ、調べられるだろうと踏んでたが、妨害電波も取り上げることもないってことは予想外だった。
まあ、こっちの狙いに気づいてわざと陽動でやってるなら、すごいもんだがそこまでは考える必要はないだろ。
もしそうだとしたらその場で対策を考えるだけだ。」
と言いながらも、宗の頭の中では起こりうる可能性がもう展開されているだろう。そこまでいう必要がないから言ってないだけだ。
「そうだね。今回私に出来る事ってある?」
「うーん、一応明日の下準備をお願いするぐらいか。わかってると思うが、僕もお前もあんまりでしゃばりすぎてもいけない。
今回の主役はケントだ。僕の主役が8月の終わりだったようにね。」
「主役はケントかもしれないけど、私の王子様はいつも宗ちゃんだよ?」
「いや、そんな返事は求めてない。」
…となんとも、緊張感に欠けるやり取りを交わしながら(あくまでいつもの日常の一部だ)着々と準備は進んでいるのだった。
「待たせたな、ソウ。」
その日の夕方。まだ6時だが、周りが真っ暗であるから夜と表現するべきだろうか。
ともかく、宗の家の近くの公園。そこに宗は1人でブランコに座り、ケントが来るのを待っていた。
「いや、いいよ。
そもそも、ケントじゃないと調べられないとはいえ、忙しいケントに任せるのも本来はおかしいぐらいだからね。多少の遅刻ぐらいなんてことはない。」
「おかしくはねぇよ。大事な仲間のことだ、躍起になるのは当たり前だろうが。」
と言って、ケントは宗の前にある手すりによりかかりながら、話を続けた。
「ソウ、おまえの言うとおり何故か俺の会社が資金援助をすることになっていた。
カマをかけるためアカリりの家の方にも電話してみたが、あの名前をあげるだけで態度が一変することを考えると、トップが騙してない限りほとんど確定事項だ。
まあ、今の余裕が無い現状だ。騙す意味もないだろうがな。
そして、実際の出資についてだが社長の俺が知らない話が進んでいるわけがねぇ。そもそも、俺の会社はまだ日本進出してねぇんだ。
今回の留学、そしてカノンという技術者を中心にこっちに進出は考えていたが、所詮考え止まりでまだ動けてない。
明らかに俺の会社の名前を騙った詐欺だな。」
「なるほど、ほとんど予測通りか。全く…怖いほど当たるな。
それで、そのあとはどうするんだ?」
「少し骨が折れたが、会社の方に協力してもらって出資は本当にしてもらうことにした。もちろん、提示する理由は全く違うぜ。」
「あのままの条件でやっても、おまえの願いはかなったんじゃないか?」
と、宗は少し笑いながら言った。
「アホか。おまえも、わかってるだろうがそんなことでアカリの気を引いたって俺の気持ちは満足しねぇ。
むしろ、アカリには言うつもりだ。こんなことで恩を感じるなってな。」
「こんなことで済むレベルじゃなと思うよ。数千万レベルで金が動くんだからさ。」
「だからこそ、だ。俺は仲間を救うために動いてんだ。決して好きな人が困ってるから助けてるわけじゃねぇよ。」
まあ、俺の気持ちは誤魔化せないから、あかりにそう思って欲しいっていう話だがな。とケントは付け加えた。
「なるほど。まあ、これでとりあえず必要な情報は集まったな。」
「ということは、あのキーホルダーもちゃんと仕事をしてるってことか。
全く、初めて聞いたときはなんてものをカノンに持たせてるんだって呆れたぜ?」
「まあ、特殊であることは認めるが呆れられるほどじゃないだろ。お前も仕事でさんざん使ってるだろうし、今ならみんな持っててもおかしくない。
元々は、佳音の携帯をなくさないため、僕の心のなかでの気持ちはすぐにふらふらとどこかにいってしまう佳音の場所を特定するためだけど。
とりあえず、運良く使えたんだからよしとしよう。」
「まあ、お前らの特殊性について今更語ってたら日が明けちまうな。じゃあ、明日の予定は今日の昼話したとおりだな。」
「ああ。それで行くつもりだ。頼んだぞ、ケント。今回はおまえに全てがかかってる。」
「当たり前だ、任せとけ。」
最後に別れの言葉も告げず、2人は別方向に歩いていった。
けれども、物理的な目的地は別でも2人の思いは1つの方向を向いている。
明日はその思いを叶えるだけだ。
とりあえず、最低限必要な情報は集め終わりました。
あとは、動くだけです。
というわけでこの話。あと3話程度であかりを助けるところまで終わってしまいそうです。
キーホルダはもっとわかりにくくしても良かったのですが、もうこの時点で何のことかはバレバレだと思っています。
まあ、最後の抵抗ということで具体名はまだ出してませんが。




