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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第5章「留学生編」
43/63

SS8「文化祭発表」

「とりあえず、これで準備は完了かな。」

今日は、文化祭当日。

学生たちの努力の結晶を発表する場であり、それは宗たちも例外ではない。

それはクラスでと言う意味よりも、宗が所属するあの部活でもと言ったほうが正確であろう。(もちろん、クラスの方も手伝っているが。)

名目上は部活の活動発表。実質的には開発したシステムの発表場所であり、本来の部活の発表としてのレベルは超えている。

最も、それに見合うだけの結果が目の前にあるのだが。

「お疲れ、佳音。しかし、僕もまさか目の前で作られるとは思っていなかったよ。」

そこにあるのはちょっとした体験コーナー。そしてそこにおいてあるのはヘッドホンとヘッドマウントディスプレイ、そして両手のはめるタイプのグローブ。

端的に言ってしまうとVR技術であった。

「私も、まだまだ作りたかったレベルまで到達できなかったんだけど、まあ資金的にも規模的にもこれぐらいが限界かな。」

技術的には大丈夫なのかと宗は突っ込みたくなったが、まあこいつならそれぐらいやりそうである。

ましてや後ろにはあのケントがいるのだから。

「カノンも、もっと早く言ってくれれば俺の本社から必要なパーツとか集められたんだが。

さすがにこの期間じゃこのレベルが限界だぜ。」

「ううん、十分だよ。そもそも、これ以上の品をいきなり上げてしまうと製品化が大変そうだし。

一応、制作する工場も必要になってくるはずだから。」

「なら…まあ、そうか。確かにレベルを上げすぎてもいけないな。」

それについて、少し言いたそうなことがありそうなケントだったが、あえてそれはいわなかったようだ。

宗からしたらこいつらにとっての懸念は技術ではなく他の問題なのかと再三疑問を投げかけたくなるような会話を軽々と交わしていた。

「佳音さんもケントも本当にお疲れ様です。

昨日、テストプレイでやらせてもらってすごくびっくりしました。きっと、明日はお客で満杯になりますよ。」

と翔也。その意見にあかりも概ね同意のようだった。

「確かに明日はお客でいっぱいになりそうですね。でも、翔也くん。佳音とケントならまだまだ余力がありそうに見えない?」

「いやいや、そんなこと無いぜ。アカリ、ショウヤ。俺じゃカノンのレベルにはついていけねぇからな。普段使わない脳をフルで使った気分だ。」

そのついていけないというのは、冗談なのか本当なのか。

3人には一概に判断できないレベルのギャクであった。


(しかし、予想を超えてくるか…。)

受付をやりながら、今の状況について宗はそんな思いを抱いていた。

最初、開けた当初はちょっと10人程度並んだレベルだ。同時に1人しか出来ず1人5分までと決めていたから、大体1時間もあれば終わるだろうと見て、10分前に来てもらうように予約券を渡していた。

だから、最初の数人が交友関係の広い方だったのだろうか(その中にはどうも生徒会長の姿もあったようだ)その列は一気に20倍に。

単純計算20時間。文化祭が終わるなんていうレベルの話ではなかった。

というわけで急遽、最初の10人には3分。それ以降に関しては1人1分というルール変更をお願いしながら今も進めている。

それでも4時間以上かかる計算である。もう、明日の予定すら埋まってしまう勢いであった。

しかし、それも仕方がないと思う。あの出来では他のクラスの発表がおなざりになるのも。

あのシステムはいわゆるVRRPGというものの、試作品である。

理屈は本人とケントのみがしか知らないが、あのヘッドホンで聴覚を、ヘッドマウントディスプレイで視覚を、そしてあのグローブで手の部分の触覚を疑似体験させているという。

本人曰く、「5感のうち3つぐらい疑似体験させられると本物に思えてくる」と。

(確かに体験してみればわかるな。しかし、あんなに即興で作れるものなのか?)

今の体験者を見ながら、宗はそんな感想を抱いていた。

「うわぉ!すげぇ、何これやばくね!?」

反射的にそんな言葉が体験者の口から発せられている。そして、その言葉も体験してみれば概ね言い過ぎというわけでもない。

見渡す限り草原であり、地平線の彼方まで草原以外になにもない。そして、聞こえてくるのは風の音とそれによって揺らされた草原の音。

そして、システムからの指示で出された剣を振るう音のみであった。

あのシステムでは、周りになにもない草原で渡された剣を振るうだけという体験版としてはあまり面白みのない出来である。

ただし、そのシステムだけで高校生の好奇心は完全に掌握されているようだった。

(今やってる女子って、僕のクラスの人か。すごくノリノリでプレイしてるけど、クラスでは結構寡黙に近いひとだったはず。やっぱり、女子にとってもこのシステムは夢であるのか。)

そんな感想を思いながら、現実逃避をする宗。

ちなみに、宗を含めた5人が文化祭の客として楽しむのは限りなく不可能に近いようだった。



次の日は、前日の反省を生かして(というより限界まで取ってしまったお客の処理をするために)当日の受付はしなかった。

一般客にとっては全くプレイできないという現実になってしまったのだが、何分予想外のことに宗達にとっても対処しきれなかったのだ。

ケントはお金を取ったらという提案をしてくれたものの、そもそも一般客からお金を取るのも罪悪感がある上に前日の予約が処理しきれていない。

そのため、一般客に対してはその方式を取ることはできなかった。

しかし…

「報道関係者の方、及び企業の方はこちらで登録をお願いします。」

予定していた一般客以外の外部の人は例外となった。

一応、デモンストレーションは全員に行い、実際に体験できるのは10人、つまり10グループまでとなった。

その手段として、佳音とケントはオークションを使うと決めた。

元々、宗や翔也、あかりには発言権は殆ど無いものの今回のことに関してはさすがに止めようとした。

だが、それ以外に決める方法がないこと(くじやなんかの方法は一切却下された)そして校長が同意を示したことによってそれは実行する運びとなった。

(おいおい…値段上がりすぎじゃね?)

その様子を遠目から見ていた宗だが、明らかに値段が上がりすぎている。

宗の聞き間違いでなければ、最低金額が2万円を超えている。

これも利益の1つとしてもいいという校長の言葉を信じるならば、もうこの時点で借金となる20万は返せるという結果になっていた。

結局、トップは5万強、最低金額も3万弱という結果になり(一番高い値段を払った人が最初に体験ができる)下手な商売をするよりも利益が出てしまうという結果になってしまった。

そんなにお金を出す大人と、それを払わせる子供。どちらが悪いのか判断に迷うところではあった。



色々な意味で予想以上の結果を出した今回の文化祭の発表だったが、それも名残惜しいほど早く終わってしまった。

みんなが教室などの発表場所を片付けている間に早めに片付けを終わらせた宗達(厳密にはケントは先生に対する事後説明で少し遅れているが)は、帰りに打ち上げをする話をしながら校門に向かっていた。

余談だが、この反響がすごかったからか、宗やケントも含めてクラスでの片付けを免除されている。

特に宗とケントに関してはその分準備の方に時間をかけていたから、クラスの方で問題があるということもなく、むしろその反響による後処理を心配されていた。

閑話休題。

そんな宗達が門にたどり着いた時、そこに1人の私服の女子がいた。

「お疲れ!翔也。」

そして、その女子は翔也のことに気づいてそんな声をかけた。

「もしかして待っててくれたの!?」

「もちろん。そっちの後ろの人達が、言ってた同じ部活の先輩?」

その言葉で宗は一つの可能性に思い当たったようだった。

「翔也、もしかしてその人が今日案内するって言ってた人か?」

「はい。里美さんです。」

「もう!里美でいいって言ったじゃ…ってええ!?」

結局、里美のセリフは最後まで言い終わらなかった。

それは駆け寄ってくる1人の青年の姿に気づいたからだった。

「なんで、ケントがここにいるのよ!?」

「お前は里美!ってそれはこっちのセリフだ。」

そして、それは里美の思い違いではなく、ケントに取っても予想外の再会のようであった。



「なるほど。ケントって里美さんのいとこだったんだね。」

結局、(主に里美とケントが)色々と混乱した宗達だったが、とりあえず話を聞くために6人でファミレスに入ることにした。

本来の予定ではカフェにでも入ってという予定だったが、何分急な話だったため、ファミレスを選ばざるを得なかった。

そしてケントと里美、そして翔也から話を聞き、やっと背景を理解したところであった。

「と言っても仲がいいわけじゃないぞ、佳音。仲が良かったのは昔の話だ。」

「そんなこと言わなくてもいいのに!昔は付き合って…」

「昔の話を持ち出すな。というか、まだ里美がどうして翔也と知り合いなのか聞いてないぞ。」

「それはこの前電話で話したじゃない。新しい彼氏だって。」

「いや、里美。そんなことは無い…よ。」

あまりにもきっぱりと言い切る里美におずおずとした表情で否定する翔也。その里美の言葉を聞いて若干殺気立てているケント。

「翔也くん!彼氏ってどういうことなの!?詳しく話をきかせて!」

そして、里美の言葉に反応したあかり。

どうも、この4人が落ち着くにはもう少し時間がかかりそうだった。


そして、外野の話。

「宗ちゃん。なんか、こういうのも楽しいね。」

「楽しい?」

「うん。だって、この前の4月までこんな風に友達と騒ぐなんてことも考えられなかったんだもん。」

「まあ、それもそうか。」

ずっと宗と佳音2人だった交友関係は、思わぬ出来事をいくつも乗り越え、なんともバラエティ豊かなメンバーが集まってきている。

「絶対にこの関係は手放さないよ。私は強欲だもん。それこそ、宗ちゃんをずっと離さないようにね。」

という一件冗談に聞こえるような佳音の言葉も、今までのことを踏まえればあながち冗談とも言い切れないようであった。

というわけで、もう1つ書きたかったSSになります。

一応前半の話でちらっとだけ話していた発表に関しての話です。

そして4章の後半に出てきた借金の話についてもここで一応解決となりそうです。


後半は、どこかで書いておきたかった部分です。

翔也と里美、里美とケント(初登場シーンの一番最後がそれです)については描けていたのですが、未だに対面の話を書いていなかったので丁度ここで描くことにしました。

これで、翔也のことが好きなライバルが1人増え、またあかりよりも一歩進んでいることもあり少々停滞気味だった恋愛模様が更に複雑になりそうな気がします。


特に後半に関しては描きたい事実と描写がどうもちぐはぐになってしまい、わかりにくくなっている気がします。すいません。

元々、複数人内での会話を想定してなかったのもあり、女性陣3人の話し方が誰か区別がつかなくなってきています。

本来あかりに関しては口調やなんかで判断するつもりだったのですが、そろそろ限界が来ているようです。


もし、良い方法がありましたら改稿してわかりやすくしてみたいなと思っていますのでもし有りましたら教えてくださると嬉しいです。


次の章は、4章と同じく最初からシリアス全開です。

本来文化祭の話も次の章の頭にと想定していたのですが、最初の1話だけシリアスじゃないのも統一感がないなと思いSSに持って来ました。

その反動だと思っていただければ結構です。

次の章は明日(23日)には投稿できるつもりなので、よろしくお願いします。



…予想外にも、次の章の名前が思いつかない…どうしよう。

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