第34話「責任」
「どこに向かうの?」
「大丈夫、もう場所はわかってるぜ。」
校門から出て一目散にある方向に走ったケントだが、もう場所は特定できているようだった。
先ほどは3件だったものが、もう1件まで絞り込めているのは情報収集側の能力の高さが伺える。
「大体ここから5分ぐらいのところにあるネットカフェだ。」
ケントは佳音に場所を教えてから、このあとの手際を佳音に伝えた。
「…ケント、本当にやるの?」
「もちろんだ。カノンからしたら荒いように思えるかもしれないが、こっちではこれが普通だ。
一応、必要な道具は全て持ってる。心配するな、何度もやってきた方法だからな。」
少々不安に思っていた佳音だったが、あまりにも自身たっぷりのケントの言葉によってその不安はほとんど取り除かれていた。
あるいはそういった気持ちにさせるケントの手法なのかもしれなかった。
「着いたぞ。」
5分よりも実際は思ったよりも早く着いていたものの、もうタイムリミットまで15分を切っていた。
急いで降りる2人。その上でケントは鞄から必要なものをいくつか取り出して佳音に渡した。
「店員には俺が事情を説明する。突入も俺が行うから佳音はPCの方を頼む。」
それだけ伝えて店員の方に向かうケント。最初いぶかしそうに見ていた店員だったが、ケントが見せた手帳を見て深刻そうな顔をして許可をだした。
「何を見せたの?」
「秘密だ。行くぞ。」
そのまま足音を立てないように進みある部屋の前にたどり着いた。その扉をケントが指していることからここがその部屋だということだろう。
ケントがそのドアを少し開けてあるものを投げ込む。
その瞬間目の前が白に染まった。
「うっ!」
最初から教えてもらっていたものの、初めてみる光に佳音の動きが止まる。それでも、サングラスのおかげでかなり抑えられていた。
けれども、ケントは慣れたもので全く怯むことなく部屋の中に潜り込む。そして、佳音が部屋に踏み込むとそこには拘束されている1人の女性がいた。
その女性の年齢は佳音やケントよりも高く見える。20代の前半から後半だろう。
「一体何!?」
女性はヒステリックになりながら叫ぶが、ケントは一貫して落ち着いた様子だった。
「ナーブ。」
ケントはその名前だけをつぶやく。その瞬間まるで人が変わったかのように女性の表情が変わった。
「なるほど、その名前で呼ぶってことはケンとジークかしらね。」
「その通りだ。さて、そろそろギブアップして元に戻してもらおうか。」
ケントがそういった直後、佳音から叫び声が響く。
「ケント!あのコマンドは消せない設定になってる!そもそも、そのプログラムに対してあらゆるファイルが干渉することを禁止してる。
プログラム側でなんとかなる問題じゃないみたい。」
「何だと!?」
PCを見ていた佳音の言葉に焦りの色を見せるケント。逆にその女性は先程とは対照的に落ち着いた様子で話し始めた。
「その通り。あのプログラムは私が開発した専用のロックが組んであるわ。しかも、そのキーはファイル本体にしか仕掛けられていない。
外部からロックを外すことは無理よ。無駄足だったわね。」
「あと10分切ってる…カノン、今から復号化するのは…」
「無理よ。あのプログラムはどれだけかかっても1時間は必要よ。それにファイルはサーバーによって違う。それにすべて対応できるなら、さすがに私の負けよ。
けど、あなたにそんな能力も無いでしょう?というより、どれだけ能力があってもこの程度のパソコンじゃ組めないでしょうね。」
「ケント。悲しいけど、ナーブの言う通りみたい。それに、ケントタイムリミットそのものが違うよ。
私達が知ってる5分前。つまり、あと5分を切ったみたい…。」
「ちっ!何とかならないのか!」
決起盛んな表情でケントは叫ぶ。だが、ジークは余裕綽々といった様子で返事を返す。
「残念ね。もし逆の立場でも出来ないのだから、仕様すら知らないあなたには当然できるわけがないでしょ。
せっかくエシュロンの一部にアクセス出来たのに、もうちょっと見たかったわね。まあ、どっちにせよこの国のネットワークは終わるわね。」
「何だと?」
「私がこの地域のコンピュータのデータをすべて削除するだけですむとおもってたの?
トロイの木馬。私達の世界では常識である言葉よね?」
「まさか…そのコンピュータをすべて踏み台にして日本全体に広げるつもりか!」
「ご名答。さすがに世界は無理だけど、日本ぐらいなら1つの大きなサーバーにアクセスするだけでいけるものね。
さて、今ネットにつながってないコンピュータが何台あるか、気になるわよね?」
あまりの事態の酷さに返す言葉すら見つからないケント。本人を拘束して優位だと思っていたが、現実は全く逆であった。
慌てて時計を確認するが、もう5分を切っている。
(一瞬でも暇はない。)
「佳…」
「1つ、聞いていい?ナーブ。」
そう感じて佳音に声をかけようとするケント。けれども、それは佳音から発せられた言葉によって塞がれた。
その言葉は決して叫ばれたものでも、声が強いわけでもない。むしろ、儚いといった印象をもつ声だったが、なぜかケントも女性もその声を無視できなかった。
「な…何?」
先ほどまで冷静に話していた女性だったが、動揺が隠せていない。ケントにとってもどこか冷静さを失いそうな声だった
「このコンピュータはエシュロンにつなげてあるのよね?」
「え…ええ。だけど、それがどうしたの?もうファイルを解析することなんて出来ないわよ。」
「それだけで、十分…かな。ケント、先に言っとく。
ごめんね。」
それだけ、言ってキーを押す佳音。タイムリミットはあと1分を切ったところの行動だった。
最初はわけも分からず、文字が流れる画面を見続ける女性とケント。
だが、急にコンピュータの電源が落とされて電気が消えたことによって女性はある可能性に思い当たった。
「まさか…あなた、この地域のコンピュータの電源を…すべて消したというの!?」
言われてケントも顔色が真っ青になる。
コンピュータの電源を落とす。それは、一件簡単なようだが、その責任は考えられないほど重い。
先ほどまでのファイル削除ならば、佳音は止められなかったというだけで済む。けれども、今の佳音が行ったのは自発的なコンピュータの強制終了。
いくら被害を抑えるためとはいえ、保守的な考えを持っていれば確実に出来なかっただろう手口だった。
「あなた…いえ、ジーク。どれだけのことをしたかわかってるの!?」
自分のことを棚にあげて女性は叫ぶ。その中には、自分のやりたかったことが全て止められたことに対する憤りとその罰を1人の少女が背負うことに対する感情の爆発だった。
「わかってるよ。けれども、これぐらいしなくちゃ被害は抑えられなかったから。
ジーク。あなたの負け。おとなしく私と一緒に捕まろうね。」
2人の目を見て力強く言う佳音。
ケントの拘束はほとんど意味をなしていなかったが、それよりも佳音の行動によって女性の行動は止められていた。
かなりのペースが相手しまいすいません…。
今回の話、かなり専門的なところも多くなってしまい、恋愛からは一件離れているように思えそうですが、そんなことはないつもりです。
とりあえず、中途半端な長さになってしまいましたので、早めに締めを投稿して行きたいと思います。
色々と不満が多く出そうな流れになってしまいましたが、ご辛抱の上呼んでいただければ幸いです。




