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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第5章「留学生編」
39/63

第33話「本来の目的」

朝の5時。

この時間に起きている学生は少ない中、ケントはある国際電話を受け取っていた。

「どうしましたか?」

「情報部の方から本日中に動く可能性が高いという情報を受けた。それを伝えておこうと思ってな。」

「分かりました。その…この地区でネットジャックがあるというのは確かな情報なんですか?」

「ああ。詳しい調べ方は情報部しか知らないが、情報の精度は高いと思っていい。

実際に1週間前にアメリカでの実地前に日本でやるという声明が極秘に届いている。向こうの方としても…そこが狙い目だと思っているだろう。」

「5人しかいないグループメンバーのうち2名がこの地区にいるということはもう相手は掴んでいると?」

「表側はともかく裏のほうにお前が動いているという情報はあえて隠してない。それにこちらの情報部が入手できたような情報だ。

悔しいが向こうもそっちに2人いることは掴んでいるはずだ。今までの性格とお前から聞いた話を聞くとかなりの臆病ながらプライドは限りなく高い人物だとわかっている。

その調査が正しいなら、やるのはここでしかない。」

「その人物像そのものが偽造という可能性は?」

「もちろんそれも考えられるが…その場合はプロフェッショナルがいない状態で起こした事件に過ぎない。

専門家が数多くいるアメリカに危険度を示す意味にはならんからな。そちらの想定はとりあえずおいておいてもいい。

私達が考えるべきは、その人物の捕獲とアクセス法の入手。もし、大規模なダウンが起こったとしても、その対策は日本政府がするべきものだ。」

「なるほど。的確な考えですね。未だにもう1人の名前は入手できないのですか?」

「…そちらは未だにわかってなくてな。こちらに尻尾を掴ませないとは何とも悔しいものだ。

とりあえず、警戒を強めろ。任せたぞ。」

言うだけ言って切られる電話。その電話の相手は信じられる情報筋だが、ケントは相手がすべて本当を言っているとは思っていなかった。

(精度は高いというが、きっと場所も掴んでいるな。俺がいなくてもなんとかなる程度に。

となると、もう1人に関しても俺に伝えてないだけで名前や場所なんかの個人情報も全部掴んでる…か。

要は使えるかどうかを試されてるわけか…全く、本業とは違うところで試されるのは面倒だ。)

まだ学校に向かうには早い時間。

その時間からケントは今日の行動についてのシュミレーションを事細かく始めていた。



(バイク通学は目立つからあまりよろしくないな…少し頻度を下げるように伝えてみるか。)

そんなことを宗はバイクを止めながら考えていた。(既に佳音は先に降ろしている。)

ふと、周りをみてケントが歩いてくるのを確認した宗。そのまま声をかけようと思ったが、その顔がいつもよりもかなり深刻そうに映ったのは決して宗の勘違いじゃなかった。

「よっ、ケント。」

「…お、ソウか。おはよう。」

現にいつもよりは反応が悪く、何より宗に気づいた瞬間にケントの表情が普段の顔に変わった。

「どうした?なんか、あったのか?」

何か抱えているのではないかと思い声をかける宗だったが、さすがの宗もまさか朝5時に電話がかかって来たとは夢にも思ってなかった。

「いや、ちょっと朝から面倒事を頼まれてね。そのおかげで今日の予定がまるまる潰れそうなんだわ。

というわけで、今日は部活いけない可能性が高いからよろしく頼むぜ。」

「そうか。頑張れよ。」

その言葉に疑いを持たず(最も、嘘は言ってないから正しいと言えば正しいのだが)ねぎらいの言葉をかける宗だったが、いつもの日常が帰ってくるということはなかった。

急になりだすバイブレーション。鳴ったのは宗の携帯。否、宗を含めた周りにいた生徒全員が何らかの情報を受け取っていた。

画面を開くとそこに現れたのは画像のプレビュー画面と黒い画面。他の携帯ではそこで終わりだったが、宗の携帯は自動的に何か文字を表示し始めた。

「どうした?」

「いや、なんか携帯によくわからんデータが送られてきてるみたいだ。まあ、佳音が作ったプログラムが自動的に動いて原因を確認してくれてるみたいだがな。」

例外的にその対象になっていない、ケントは興味深そうに宗の携帯を見つめる。そして、急にはっとした顔になった。

(これは…逆探知プログラム。それにこの応答の自信の無さからして…彼の可能性は高い!)

けれども、ケントの驚きはそこで終わらなかった。

(このプログラム…どこかで見たことあるぞ。まさか、もう一人って…!?)

無言で驚きの表情に変わるケントだったが、宗にはその原因がわからない。

「おい、ケント一体…」

けれども、宗は言葉を最後まで紡げなかった。

「ソウ!これを作ったのはカノンで間違いないな?」

急に緊迫した表情で尋ねるケント。自分の言葉が遮られたことに多少の疑問を感じながらも宗は肯定を返す。

「ソウ。急いでカノンを呼んでくれ。なんなら、いる場所を指定してもらってもいい。とりあえず、彼女と話がしたい。」

ケントの指示を受けて宗は佳音に連絡をする。そこで帰ってきた返事は部室に来て欲しいという言葉だった。


「ジーク。」

部室に入ったケントは佳音を見るなり、いきなりそう呼んだ。

隣にいた宗にとっては謎の言葉だったが、佳音にとってはそうではないらしく、何らかの確信を得た表情でこう返した。

「私をそう呼ぶってことは…一番可能性が高いのはケンかな。」

「やはり、ジークだったか。あのプログラムを見てほぼ確信したよ。」

「むしろ、こちらとしては呼ばれるまで全く確証が得れなかったけれどもね。

あえて自分のニックネームをハンドルネームにしている上にありふれたという言葉では足りないほど一般的なニックネーム。

正直違うと言われたら見抜く材料がなかったくらいだ。」

「そのためのケンだからな。全くこんな近くにいたとは…ここに飛ばされたのも納得だ。」

互いにわかっていることを前提で話す2人。けれども、完全に部外者の宗には何を言っているのか全くわからなかった。

「おい、どういうことだ?」

「宗ちゃん。単純に言うとね、ケントと私はネットで知り合いだったって話。

英語のある掲示板で出会った5人。その5人である同好会みたいなものをネット上で作ってたの。

やっぱり、色々と情報が得れる場所は欲しいからね。それぞれの分野に特化した5人が集まってた。

その中で私はデータハッキング担当。ほら、前に翔也くんのカルテを1つ手に入れたでしょ?あれもこの技術の1つ。

そして、ケントはデバッカー。個人が作ったプログラムから大企業が出したプログラムまでありとあらゆる分野のセキュリティホールを探すことに長けているんだよ。だよね?」

「ああ、間違ってないぜ。ジーク…いや、カノンの方がいいか、カノンのつくるデータハッキング用のソフトウェアはレベルが高い。

ソウが携帯で動かしてた逆探知プログラム、そしてカノンがここで操作してるプログラム、両方共カノンがつくったデータハッキング用のノウハウを逆に生かしたものだよ。

おかげでその手際とインターフェイスからジークとカノンが一致だと気づいたんだがな。」

「そっか。そこでバレちゃったんだね。

とりあえず、その話は置いとくとして…こっちの逆探知かけている相手の方が重要かな。」

そう言って画面をケントに見せる佳音。ケントはその画面を見ながらも、ほとんど見る前にある名前を言った。

「ナーブだな。」

「やっぱり、これはナーブなんだね。手口からして、ほとんど確信してたけど。」

「ナーブって?」

話を中断させるのは悪いと思っても、2人に聞く宗。2人とも全く気を害した風もなく(まあ、佳音が気を害すことはまずないだろうが)補足を加えて話した。

「私たちのグループにいるメンバーの1人だよ。役目は私と同じデータハッキングかな。」

「だが、カノンとは対照的なやつだ。カノンが如何に迅速に手際よくやるかということを考えているかという手法だとしたら、あいつは如何にバレないようにするかを最優先するやつだ。

その性格がこの手法によく現れてるぜ。ほらソウ、俺以外の携帯がみんな何らかの情報が表示されてただろ?」

「ああ。そうだな。」

「あれは、ジークであるカノンをおびき寄せるための餌だ。

あそこで送られてきたものはたった1キロバイトの黒一色の画像。だが、それに対して逆探知や何かをしてくるところを探してたんだ。

まあそれがわかったのは逆探知をしてみて、向こうが早々に切断をしてきたからわかったんだがな。」

その言葉に反応して佳音がPCの画面を立ち上げる。そこには、IPアドレスから接続時間とそのログまで事細かに書かれていた。

「この情報ならほぼ予想通りだな。」

とケントが言った時、彼の携帯が鳴った。その発信相手を確認してスピーカーフォンにしたまま応答する。

そこではこんな会話がされていた。

「ケント、まずいことになった。」

「どうしたんですか?」

「彼はこの地域一体のネットワークそのものを操作し、すべてのデータを消せるようなコマンドを送ったという声明を出した。

タイムリミットは約30分。実際にコマンドそのものが送られていることは確認している。どうも、こちらが甘く見ていたのを逆手に取ったようだな。」

「つまり、30分以内に捕獲して止めろということでよろしいですか?」

「ああ。現状では止める手段がない。だが、彼のPCなら停止コマンドがあるはずだ。それを止めて欲しい。

本音を言うならば、こんな地域1つのインフレが止まったところでこちらとしては大した問題じゃないが、日本に対する責任はできるだけ減らしておくほうが楽だし、

何より彼を捕獲することが最優先だ。任せたぞ。」

相変わらず、すぐに切断される電話。けれども、この事態ではその潔さはむしろありがたかった。

「え!?いったいどういうことなの?ケント!」

「今言ってたとおりだ…。どうも、ナーブは全PCにHDDの削除コマンドを送っているらしい。カノンのPCは…例外だな。ソウ、携帯を見せてくれ。」

ケントに言われて携帯を渡す宗。1分ほど操作して表示された黒い画面に白文字が表示された画面を見てケントの表情は更に険しくなった。

「言っていたとおりだ。このネットワーク上にあるコンピュータ、サーバー、及び電子機器に対してHDDの削除命令が送られてる。

すぐに止めないと悲惨なことになるぜ。カノン、場所の特定はできたか?」

「うん。もう3つほどの可能性まで絞り込めてるよ。」

どういう原理かは知らないが、佳音はさきほどの情報を応用して可能性がある場所を絞り込んだようだった。

表示された地図を見る。決して遠い場所ばかりではないが、歩きや電車を使っていたら3箇所すべてを回るのは不可能だった。

「ケント、バイクの免許は持ってるな?」

「もちろん持ってるが…急にどうした?」

その返事をせずに宗はケントに鍵を投げる。

「学校の裏に停めてある。佳音を連れて向かってくれ。」

「宗ちゃんは!?」

「僕が行っても何の解決にもならないだろ。どうも断片的に聞いた話からするとケントと佳音ならなんとかなりそうだからな。

後から追うから先に行ってくれ。」

佳音は少し後ろ髪をひっぱられるような感じだったようだが、重要性は比ではない。

朝の学校が始まる直前に暴走バイクが校門を通り抜けた。

タイムリミットまであと…25分。

連日投稿になったり、急に間が空いたりと定期的な連載が出来ず、すいません…。


前回のあとがきで話した通り、シリアス側のストーリーを進めていったのですが、あと1話で終わらせようとすると最後の説明を含めて1話限界に指定している5000字(自分の中で最近の1話の基準は3000字~5000字程度を目標にしてます)を超えてしまい、読みづらくなってしまうと思うので、もう2話お付き合い下さい。


シリアスになると急展開過ぎるかなと思ったりするのですが、いかがでしたでしょうか。

矛盾しているところや気になるところなども教えていただけたらありがたいです。


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