第31話「恋愛観」
「宗さん…どうしたら良いと思いますか?」
家に帰り、一旦佳音と別れた後の隙間を狙ったようなタイミング。
実際は単純に家に帰るまでの差であり、特にねらった意図はなかったようだが、相談の内容もその意図を深く疑いたくなるようなものであった。
(確かに何らかの問題は出てくると予測してたが、当日…しかも、一目惚れと来たか。どこかで聞いたことがある内容だな。)
心の中で若干現状に頭を抱えながらも、返答は先輩らしきしっかりとしたものだった。
「とりあえず、あかりはケントのことをどう思ってるの?」
ここは、返答を考えるにして一番大事な部分だった。ここがずれていたらそこから先の対応も全てずれてくるからだ。
「ケントは良い人ですけど…やっぱり、翔也くんを諦めきれません。」
そして、返答も予想の範疇で宗の中で対応策がブレることはなかった。
「了解。とりあえずは、その思いを伝えるしかないと思う。
ケントがどこまで本気かは僕も判断がつかないけれど、結局あかりがその想いに答えられないならそう伝えるしかない。
会って当日だから確証は薄いが、ケントの性格上断ったからといって関係が悪くなるようなことはないと思う。ただ伝えたかった、だから、言わざるを得なかったというところが正直な気持ちじゃないかな。
全く…どこかで聞いたことのある話だね。」
「…もしかして、私のことですか?」
「僕の近くには一目惚れでいきなり好きだって言ったのは他に例を見ないね。」
「そ、そんなこと言ったって好きになったのは仕方がないじゃないですよ!」
「だから、それを責めてるんじゃないって。現にあそこであかりが引っ込み思案な性格だったりしたら僕達と知り合うこともなかっただろうし、
こうやってケントから告白されることもなかった。あかりにとってはどう思ってるかは別として僕としてはあかりがあの時翔也に一目惚れして乱入してきてくれたことは良かったと思ってるよ。」
「え…そうなんですか?てっきり、迷惑だったとばっかり…。」
「あの時はそう思ったかもしれないけど、今になってそう思うわけがないじゃないか。
あかりがどう返事をするつもりかは知らないけれど、僕たちはあかりの味方なんだから安心していいよ。」
「宗さん…ありがとうございます。やっぱり、こういう時は宗さんが一番頼りになります。」
「本来は佳音に連絡するほうが良かったんじゃないか?」
「確かに今回の件に佳音は関わってませんし、そっちでも良かったんですが…なんか、宗さんの方がかけやすく感じちゃって。」
「まあ、あかりがそう判断したなら僕としては構わないよ。1人の先輩として頼られてるのは嬉しいことだし。この話は他言しない方がいい?」
「その他言の範囲ってきっと佳音ですよね?」
「まあ、それ以外に含めるとしたら翔也ぐらいだな。」
「佳音なら構わないです。きっと今日の夜も2人で密会ですよね?」
「…親公認で男の部屋に上がり込んでくるのを密会と表現できるのかは甚だ謎だがな。」
「いいじゃないですか。すごく幸せそうです。佳音の代わりに私が行ってみたいぐらいですよ。」
「…今度来てみるか?」
「冗談ですよ。流石に彼女持ちの男性の家に上がり込む勇気はありませんよ。まあ、佳音なら2つ返事で許してくれそうですけど。」
「同感だ。あいつがおまえとの浮気を疑うとは到底思えないな。」
いつの間にか佳音の友達に対する強い信頼とそれ以外の人との差に呆れた表情をする2人。顔を見なくても、互いに同じ思いを持っていることは言葉をかわさなくてもわかっていた。
「とりあえず、明日ケントに無理だってことを言っておきますね。」
「ああ。頑張れよ。」
「ありがとうございます。それでは。」
迷っていた返事…というよりは、どういった対応をすればいいかという問題は宗に相談することによって1つの解決を得ることができた。
(本当は翔也くんに相談したいんだけどなぁ…)
けれども、相談はできない。乙女心はとても面倒なものだった。
「えっ?あかりがケントに告白された?」
「そうなんだよ。全く…面倒なことを…。」
時間は電話から2時間ほどが過ぎたぐらい。例の如く宗の部屋に佳音がいるという構図だった。
「それでどうだったの!?」
やはり佳音も1人の少女。特に身近にいるあかりの恋愛話ときいて興味深々のようだった。
「やっぱり、翔也のことを諦めきれないって。ケントには明日断るって。」
「なるほど。やっぱり、急には受けとめられないものだよね。ケントもすごいと思う。」
「だな…全く、なぜか僕の周りには恋愛に対して積極的な人が多い。数少ない例外は翔也ぐらいか。」
「その翔也くんですらも、周りに影響された感じもあったもんね。」
「まあ、おかげで楽しい高校生活が出来てるから文句は言えないけどな。」
去年に比べれば、トラブルやなんかは多いものの、より仲がいい友達(あの部活に限らず)も増えているのもまた事実だった。
それは、3月の顛末で気が滅入りかけた宗にとっては、数少ない救いのようだった。
「佳音も公認になったせいか、かなり積極的になったよな。」
「それはあるかも。私としては、特に変わったつもりはないんだけれどね。」
実際、朝迎えに行くこと、髪の毛をとかすこと、弁当を作ってもらうこと、どれを上げても去年からずっとやってきたことで、大きな変化があったものは殆ど無い。
強いていうならば、宗がバイクを所持することで、たまにバイク登校をすることが増えたという程度か。
「宗ちゃんと2人で過ごしていたあの1年も楽しかったよ。」
「まあ、それもそうだな。そういや、佳音ってあの時僕のことを『宗ちゃん』って呼ばなかったよな?」
「うん。宗って呼び捨てだったね。
なんだろ…今みたいに宗ちゃんのそばに最もいたかった立場でいられるかどうか不安だったから、親友としての『宗』という呼び名で読んじゃってたのかもしれない。」
「そっか。まあ、僕としてはお前の精神状態が多少の上下はあるとはいえ、ある程度安定してるのは嬉しく思うよ。
これで、女子としての基礎的な能力を身に着けてくれれば、理想なんだがな。」
「まずは、1人で起きることかな?」
「それは男女関係なく、高校生じゃなくてもできて当たり前の事実だ。」
「なんか、宗ちゃんが迎えに来てくれる日常に慣れすぎちゃって…。」
「まぁ、1年半も続けてれば日常になってしまうか。そろそろ、僕が迎えに行くのやめてみるか?」
「そしたら、誰が髪のセットとかしてくれるの?」
「…いや、自分でやれよ。」
宗が求める最低限の女性像ですら、佳音の中では達成は困難な様だった。
次の日の帰りのことだった。
「ソウ。今日の帰りって空いてるか?」
「ん、特には予定は入れてない。あの部活があるぐらいかな。」
「そうか。少し話があるんだが、どこかカフェで話せるか?」
「了解。2駅ほど離れたところにいいお店があるんだが、そこでいいか?」
「もちろんだ。行こうぜ。」
珍しくケントからの誘いを受けた宗は、佳音にケントと少し話をしていく旨のメールを送った。
(ケントから話か…まあ、予想はつくな。)
そして、予想通りあの話題についての話が始まった。
「俺があかりに告白した話は知ってるか?」
その質問になんと答えようか悩む宗。だが、嘘をつく意味もないと思い正直に言うことにした。
「ああ。」
「それなら、話は早い。それで、あかりに今日振られたんだが…」
だが、ケントの口調は振られたことによるショックよりも嬉しさの方が上回っているようだった。
「それで、余計に惹かれてしまってな。間違っても、落ち込んでるなんて勘違いをしてほしくなかったんだ。」
その言葉は宗にとって、何分不思議なものだった。
「分かった。分かったが…事情を聞いていいか?」
「もちろんだ。そのためにわざわざ来てもらったんだからな。ただ、少々俺の昔話をする必要があるんだが、大丈夫か?」
「ああ。構わない。」
「ありがとな。
実はさ、俺がひと目ぼれしたのはあかりが初めてなんだ。
それまでに何人か付き合ってきたけど、最初の1人を除いて誰も彼もが僕の後ろを見て付き合い始めるんだぜ。」
「後ろ…って学歴ってことか?」
「そういうわけだ。これでも、飛び級で大学まで卒業して、ある一流企業に勤めてる身ってのは、同年代の大学生よりよっぽどモテるんだぜ。
まあ、玉の輿みたいなものだろうな。俺に少し興味を持って、話している奴に学歴や現状のことをいうと大体彼女がいないか聞いてくるんだ。
断ってもいいんだが、まあ俺としても遊びたいわけだからやっぱり何人かと付き合ってきた。来たんだが…やっぱり、そういう事情があるとなんか恋愛をしてるって感じがないんだわ。
そんな中で唯一、自分が恋したって思ったのがあかりだったわけだ。」
「最初の1人もお前の中では別格扱いなんだよな?」
「ああ。ただ、最初の1人に関しては、今のおまえと佳音に似てる感じだぜ。もちろん、背景も結果も全く異なるけどな。」
「どういうことだ?」
「付き合ったのは、1つ下のいとこなんだよ。
あいつは、日本で生まれたもんで、1年ほどアメリカに来ても、すぐには話せなかったんだ。
今でこそかなり明るくなったみたいなんだが、その頃は結構引っ込み思案でなかなか馴染めなかった。
そんなあいつを見て、家族の一員として色々サポートしているうちに向こうがこっちを気に入っちゃったみたいでな。
まあ、単純に言ってしまえば依存だ。俺しか頼る人がいなかったら、頼ってるうちに恋愛感情と勘違いしてしまった感じだろうな。
ただ結局何が悪かったのかあいつは日本に逃げていったよ。俺から離れるようにな。それまでいて当然だった人がいなくなったことに、寂しさを感じたんだろうな。
そのころからだな、いろんな女子と付き合うことになったのは。」
「…いろんな意味で僕達とはかけ離れた生活を送ってきたんだな。」
「そんなことはないぜ。そりゃあ、俺と同じような経験をしてきたのは、数少ないだろうが特殊だって思うのは筋違いだぜ。
あんまり言いたくないが、佳音とか翔也はこっちでもありえないぐらいの例外だ。そうじゃなくたって、恋愛観なんてそんなもんなんだから、下手に固定概念を持ってると困るぜ。」
「そうか…ありがとう。それで、初めての一目惚れだったあかりに振られて悲しくないのか?
逆にこの流れだと悲しいと思うのが普通じゃないか?」
「そこなんだけど、きっと俺の特殊な考え方なんだろうな。
今までに、学歴とか俺個人以外で付き合ってくれた人はたくさんいたからさ、初対面でそのあたりの話をして当日にOKしてくれるかっていう一種の賭けでもあったんだわ。
それで、OKしてくれるような人だったら結局いままでと変わんないんだろうなって。ましてや、翔也のことが好きって言ってるような人が急に乗り換えたら、俺の方から断るわ。
まあ、あかりは俺の見込み通りの人だったから、安心したよ。もちろん、付き合ってもらうことを諦めたりもしないし、この感情を隠したりもしないがな。」
「なるほど。やっぱり、僕とは考え方が違うのか。」
「それぞれの考えがあっていいじゃねぇか。その上で言うが、依存はある程度まではいい。ただ、一定を超えるとそれは互いに負担以外の何物でもないぞ。
今は大丈夫みたいだが、そのうち対策をねってみるのもありかもな。」
目的語が抜けた言葉だったが、それが何を指しているのかはあえて言わなくても問題なく理解することができた。
言われる前からそれは懸念事項の1つだったからであるし、そもそも依存という言葉から出てくるのは1人しかいなかったからだ。
「忠告ありがとう。」
「とんでもねぇ。そっちこそ、こっちの昔話に付き合ってくれてありがとな。」
その後は、学校の話をしながら、おもむろに解散する2人。
男子同士の恋話は、女子とはまた違った恋愛観と恋愛感情を示していた。
こうして、ケントの告白に関する騒動は一応幕を閉じた。
けれども、ケントの恋愛感情、そして、ケントの影響による出来事はまだまだ幕を閉じそうにないのは、新しい宗の悩みであった。
不定期に更に拍車をかけて間隔が開いてしまってすいません。
とりあえず、ケントの告白騒動は一旦区切りがつくことになりました。
こんなに遅れてしまったのには実は事情があって、展開に迷ってしまったんです。
章が進むにつれ、何かイベントを軸にそれに向かうストーリーを組むという方法に変わってきていました。
そんな中、間に何を書こうか迷ってしまい半分ぐらい書いた後からかけなくなってしまったのです。一種のスランプでしょうか。
そんな時にこの小説の1章を読みなおしてみたのですが…自分で言うのも何ですが、今の部分よりもかなり面白い気がします。
実際に、読んでくれている友達に聞いてみたところ、同じような答えが得れたので僕1人の感想でないのではないかと思っています。
昔は、コメディ→シリアスの流れを1章中に作ってかいていました。
ただシリアスしかなかった4章あたりからでしょうか。シリアスは本編、コメディはSSで書けばいいという風に考えてしまったのです。
長くなってしまったのでまとめますと、少々書く方向性を修正してしまおうかなとおもっているわけです。
今回も、途中に不自然かなと思ったのですが、宗と佳音のやり取りが含まれているのはそういったことも考えた上での結果なのです。
あと2,3話で終わるはずだったこの章も、そういったものを加えてもう少しゆっくりストーリーを進めていけたらなと思っています。
方針含めて、意見や感想などありましたら、遠慮なくお願いします。
こんな更新ながら、見てくださる皆様。本当に有難うございます。




