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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第4章「決別編」
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第25話「真実と対処法」

(いったいどういうことなの…。)

家に帰り…厳密にはもう定位置となりつつある宗のベッドの上に座り込みながら佳音は鈴木のいった言葉を反芻する。

そもそも、これが単純に失踪や家出なら鈴木が関わる意味もない。それに、宗の意図を全く理解していないという言葉にもつながらない。

(何らかの形で研究所が関わってるということ…?)

そこから、導かれる答え。つまり、佳音に関することで宗がいなくなったのではないかということ。

(そんなわけ…ないはず…。)

そう思いたい、だがその願いはたまたま見つけてしまったタブレット端末によって砕かれてしまった。

(確かあの端末は…私が宗ちゃんにプレゼントしたやつ…どうしてこんなところに?)

場所としては、ベッドと机の隙間。持ち出すときに気づかなかったのかもしれない。

元々は佳音のものである。手慣れた手つきで起動させると、スリープモードのままだった。

少し触った後、佳音はアプリケーションの中からメールソフトを起動する。最初の設定で宗の携帯メールと同期させたのを思い出したのだ。

(浮気を考えて設定したのがまさか役に立つとは…。)

きっと宗も同期されてることは知らないだろう。プライバシーもへったくりもない事実だがこの際それは大した問題ではない。

そのメールの中から佳音の知らないアドレスを探していく。佳音やあかり・翔也とのメール、メールマガジンや会員登録したサイトからのメール、その中にアドレス登録すらされてないにもかかわらず、かなりの頻度でやり取りされてるメールを見つけた。

躊躇なくそのメールを開く。その中には佳音の想像を裏付けるものがいくつもあった。

『君が離れるまでのタイムリミットまであと2ヶ月を切っているはずだ。予定通り進んでいるのだろうか。もし、約束が守られないなら彼女の保証はしないだろう。』

『君の代わりとなる人の情報を送りたまえ。それは君の義務だ。選定がこちらの意図とあうことを楽しみにしている。』

『退学後の処置はもう用意してある。君はなんの気兼ねもなく要件をすますといい。私たちは全力てサポートしよう。』

軽く目を通しただけで、これだけの知らない情報がばら撒かれている。それを見ていくにつれ、「君」、「彼女」、「代わりの人」が誰かのかが段々と明らかになっていく。いや、確証が得られてくるという方が正しいか。

最も、わかりにくい表現であった「代わりの人」。これは、きっと翔也のことであろう。それに該当する出来事は…

(もしかして、この前の旅行って…いや、そんなことがあるわけが…)

そんなことを考えながら見ていたからだろう。佳音は部屋のドアが開けられているのに気づくことができなかった。

「…見ちゃったんだね。」

その声に驚いて、タブレットを落としそうになる。けれども、そんなのは大した問題じゃなかった。なぜなら目の前にいたのは…

「宗ちゃん!」

慌てて駆け寄ろうとする。けれども、それを宗は手で制した。

「え?」

決して強制力のあるジェスチャーではない。けれども、それが暗に拒絶を表しているようで佳音は前に進めなくなってしまう。

「それを見てくれれば、わかるだろう。確かに僕は佳音の研究所の手引きで学校の退学手続きも行ったし、家から出ていく覚悟もした。

…けれども、鈴木さんも偉いことをしてくれたもんだ。まさか、佳音本人にそれをヒントとはいえばらしてしまうとはね…。組織としても最大のタブーのはずだ。今では、何らかの処分が行われていそうだね。」

その声には感情が込められているようで、全く感じない。いや、感情を完全に押さえ込んでいるといった感じだった。

「どうしてそんなことを!?私にとって、一番なのは…」

「佳音。」

佳音の必死の言葉を宗は止める。たった一言で。

「僕はね、すごく無力なんだよ。たった1人の少女すら守れない程度にはね。僕の手で守れる範疇というのはすごく狭すぎる。

そういった意味で、あれから佳音を守ることはできなかった。だから、あれと取引をするしかなかったんだ。」

「取引…?」

「ここまで話したなら、隠す意味は無いね。僕は研究所と取引をしたよ。

僕が佳音の依存対象が外れて、僕以外の拠り所を見つける。そして、僕は理由をつけて消える。それが守られなかったら佳音の安全は保証しない。

…その取引をしたのは、高校入学時かな。ほら、あの高校に入るときに研究所が根回ししてくれただろう。佳音にはただの善意ということにしておいたみたいだが、実際はこの取引を条件としてたんだよ。」

「それって、ただの脅迫だよ!どうしてそんな大事なことを言ってくれなかったの!?」

「…僕にとって、最優先事項は佳音の才能を潰さないことだった。僕がそばにいることでその才能を潰してしまうこと、それが一番怖かったんだよ。

だからこそ、佳音の知らないところで散々取引をしたよ。これも、その取引の1つだ。最も一番影響が大きいものだったけれどもね。

これを断ってしまったら、研究所とのつながりもなくなる。そもそも、佳音にとって一番の事項は僕と一緒に高校に行く事だったみたいだから、単独で入学はしようとしないだろうという判断の元だけどね。」

佳音は言葉を発せなかった。それは2つの大きなショックによってだ。

まずは、宗がここまで自分のことを中心に考えていてくれたこと。これはショックというより感激に近いが、衝撃を受けたという意味では同義だろう。

そして、自分が宗にこれだけの責任を追わせていたということ。ただ単に宗のそばにいたい。そして、自分のやりたい仕事をやりたい。その2つのことがここまでの亀裂を生んでいたことに対して。

けれども、そのショックの中無理矢理でも言葉を発する。宗を止めるために。

「…私は知らなかった。でも、今からやめればいい。私にとっては宗ちゃんが一番なの!宗ちゃんのそばにいられるかどうかが全てなのっ!」

一番伝えたかったこと。それを過呼吸になりながらでも叫ぶ。たった1つの気持ちが届くように。けれども、その努力は宗には届かない。

「佳音、もう遅いんだ。そんなことをしたって、取り返しがつかないレベルまで話が進んでる。僕が取引を守れば、安全の保証をするという言葉は、逆に取引を守らなかったら安全の保証は一切しないと言っているんだ。

…僕よりも、あの研究所にいた佳音ならわかるでしょ。あそこは、もう無法地帯となってる。暴力団とまではいかないまでも、契約したボディガードがついている。それどころか、あの研究所の人は常に拳銃を持っているぐらいだ。

それはそれだけの仕事をしているということと同時に、僕達個人じゃ太刀打ち出来ない域にいるということを示しているんだ。わかるだろ?」

今度こそ、佳音は黙りこんでしまう。確かに、あそこの研究所の人は持っているものに違法性のものが多すぎる。一節には脱法ドラッグすら作っているという噂まであるぐらいだ。

それを身を持って知っているからこそ、否定出来ない事実。それは佳音の歩みを止める。

「僕がその危険を知りながら、ここに戻ってきたのはそれを伝えるためだ。もう二度と会えないかもしれない。けれども、これしか方法がなかったんだ。

無力だ、役立たずだと罵ってくれていい。僕はそれを受け入れる。佳音にはそれだけの権利があるよ。僕がやりたかったこと…佳音の身の回りを守るという事項すら守れなかったのだから。

幸せにできなくてごめんね。」

そんなことはないと声を大にして叫びたい、けれども、佳音はそれを叫ぶことができない。

宗はそんな佳音を見て、少しだけ寂しそうな顔をしながら部屋を出ていく。

その場で大粒の涙をこぼすことしかできなかった佳音に止めるすべはなかった。



そのまま、宗は家から立ち去る。その予定だった。けれども、その予定は遮られることとなる。

「…翔也、あかり。」

玄関の扉を塞ぐように立つ2人によって。

「どうしてここにいるんだ?」

「翔也くんが、電車から降りる宗さんを見つけたという連絡をくれたんです。帰ってくるなら、ここしかないと思ってここに来ました。」

宗にとってはしる由もないが、翔也が宗に気づいたのは佳音のことが気になって家に帰れなかったからだった。そうこうしているうちに、宗の姿を見つけてしまい、急いであかりに連絡をいれたのだ。

「…っ。」

凡ミスをしてしまったという宗の表情。まさか、2人にばれるとは夢にも思ってなかったのだろう。けれども、宗は怯まずに告げる。

「…なら、話は聞いているだろう。それに、ここにいたなら僕と佳音のやり取りは聞こえたはずだ。そういうわけだ、通してくれないか。」

「嫌です!」

あかりが断ろうとする前に翔也が強い拒絶の意思を示す。それによって、宗の意識は完全に翔也に向いたようだった。

「…どうして、お前が止めるんだ?おまえには止める権利がないはずだ。その立場が嫌なの…」

「宗さん!」

その気迫に宗の言葉は止まる。奇しくも、先ほど宗が佳音にやったことと同じだった。

「宗さんは何もわかってませんよ。どうして、宗さんがそばに居てあげる事が一番の幸せだって考えないんですか!僕じゃダメなんですよ…あの場所は宗さんじゃなきゃられない場所なんです!」

「…そんなことはわかってるよ。けど、仕方がなかったんだよ。後悔はしてる。けど、現状はこれが限界だ…。」

その言葉にあかりが強く反抗する。

「どうして、私や翔也くんを頼ってくれないんですか…。私達じゃ頼りになりませんか?一緒に部活もやってきて、旅行まで行った仲なんですよ!

私達にだって、佳音や宗さんの幸せについて考えることはできるはずです。」

「そうですよ!…僕達がいるべき場所はここじゃないんですか?」

ここまで来てやっと宗は気づく。自分のやっていることが、作ってきた輪そのものを壊すことだと。居場所をなくすことだと。そんな宗に翔也は言葉を畳み掛ける。

「どうして、自分一人で抱え込むんですか?佳音さんを1人で守れないなら、僕達で守ればいいじゃないですか。僕達だってそうしたいんです!」

それは、理論的には合ってるが、現実を考えろ…とは言えなかった。それは宗が無意識下で考えてこようとしなかったことであるからだ。

「僕達で守り切れないなら、守りきれるだけの場所を作ればいいんです!学校だって…先生だって僕達を守ろうとしてくれてる。そういったものを、頼るっていう選択肢もあるはずです!」

先生たちが守ってくれるはずがないじゃないか…と言葉にできずに反論の言葉を心の中で並べる宗。しかし、ここにきてやっと1つの疑問にたどり着いた。

(守りきれるだけの場所を作る…学校…先生……。もしかしたら…)

翔也の言葉をきっかけに全く完成しなかったはずのパズルが完成していく。そして、そのパズルは1つの意見として完成を遂げる。

そのことを頭が理解した途端、宗は翔也を抱きしめていた。

「翔也…ありがとう。お前のお陰で救われた。」

言葉少ない謝罪とお礼。けれども、その気持ちは意識せずに目元に溜まった涙が物語っていた。

「宗…さん?」

あまりの事態に逆に翔也の方が戸惑いを隠せない。そして、それは塞いでいた玄関までの道を開けることとなってしまう。

「あっ!」

慌てて気づくが宗はもうドアの外に出ていた。けれども、彼はそこで止まっている。

「宗さん、もう逃げたりしませんよね?」

「もちろんだ。逃げたりしないさ。」

あかりの問いかけに強い口調で応じる。そして、言葉を紡ぐ。

「翔也、あかり。やっぱりお前らがいてよかった。おまえらがいなかったらこの答えにたどり着かなかったよ。

結局僕も周りが頼れない程度には子供だったってことだな。やっとそれに気づいたよ。」

宗がどんな表情で言っているのかは背を向けられている2人にはわからない。けれども、その強い言葉だけで意思は通じる。

「あとでおまえらにはさんざん謝る。もちろん、佳音にもだ。けれども、今やるべきことは違うんだ。」

それだけ言って歩き出そうとする宗。それを慌てて翔也が止める。

「宗さん、一体何をしに行くんですか?」

それに宗は振り替えっていう。

「守るための戦いに備えて準備に行くんだよ。」

それだけ言って宗は駆け出す。向かうべき場所はたった1つだった。


最近、更新が開いてしまってすいません。

本来あと1話程度で終わる予定だったのですが、最低でも2話、展開によっては3話以上使うかもしれないと予定が大分狂ってきています。


次の話は少しでも早く投稿するつもりです。

…できれば、今日中に投稿したいな。

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