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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第3章「旅行編」
26/63

SS4「佳音と翔也の初デート」

「あ、翔也くん。待った?」

「いえ、そんな事無いですよ。」

お約束といっても、大差ない言葉。

けれども、現在時刻が集合時間の15分前であるのは、この2人であるからか。

「それじゃ、行こっか。」

「はい。」

どちらから言うまでもなく、手をつなぐ佳音と翔也。今日は2人の初デートであった。


元々は、翔也からの電話がきっかけだった。

「か、佳音さん。ら…来週の…来週の日曜日って空いてますか?」

デートに誘うのは初めてだろうと誰が聞いてもわかるような動揺ぶりに佳音は逆にリラックスした調子で返事をした。

「特に予定は入ってないかな。デートのお誘い?」

少しからかいの意図を含めて佳音は言う。

「は、はい!よろしいですか?」

もう、テンパッてしまって肯定しかできない。それでも、誘いの言葉が言えるだけ電話の意図を忘れてはないということか。

「うん、もちろん。」

「あ、ありがとうございます。それでは、またっ。」

デートの誘いを受けてもらえた嬉しさから、つい電話を切ってしまった翔也。

切ってから思う。時間とか決めるべきことはあったんじゃないかと。

結局、それから1時間ほど携帯を握り締めながら、電話をかけ直そうかメールですまそうかと悩むことになる。



一方、佳音の方は電話のことを宗に報告をしていた。

「宗ちゃん、翔也くんから、デートのお誘いを受けたよ!」

「ああ、そうみたいだな。おめでとう。」

「うー、なんか宗ちゃんが淡白だよ。もっと嫉妬してくれるとか、俺の佳音に!ぐらい言ってくれたら嬉しいのに。」

「そもそも、おまえが付き合ってるのは翔也であって僕じゃないだろ。確かに関係は変わらないといったが、多少は遠慮してやれよ。」

「私が宗ちゃんのことを大好きなことには変わりないんだから、いいじゃん。」

そう言って抱きついてくる佳音。それを拒絶しない宗も責任の一旦を背負っているというべきか。

理由はどうであれ、宗が佳音を拒絶することはない。けれども、胸の内まで戸惑いを感じていないというかというとそういうわけでもなかった。

(これじゃあまり前と変わらないか…。努力に意味はあったのか、謎だな。まあ、外見上変わってるのだから許容範囲としておくか。)

それらを微塵も見せずに佳音を抱きしめる。傍から見て別れたとは到底思えない光景だった。




「それでどこに行くの?」

歩き始めようとして、佳音は翔也に尋ねる。本来ならば、ここで慌てずに予定を話すべきなのだが、

「あ……えーと…」

翔也はうろたえるばかりであった。

「もしかして、決めてなかったりする?」

そんな翔也の姿を愛らしく思いながら、佳音はいたずらっぽく尋ねる。その態度に翔也は繕っても無駄だと思って本音を話した。

「実は、佳音さんとデートできるってだけで舞い上がっちゃって特にプランを決めてこなかったんです…。本来は男子の方がリードするものですよね。」

いきなり妻づいてしまったことにショックを受けている翔也。そんな翔也を見ながら佳音は少し笑いをこらえているようだった。

「なるほど。宗ちゃんの言うとおりだったね。」

「え?」

まさか、宗の名前が出てくると思わなかった翔也はまともな返事を返せなかった。

「宗ちゃんが、翔也はデートってだけで頭がいっぱいになってるかもしれないからプランとか決められてないかもしれないなって言ってたの。まさか本当だったなんてね。」

そんな佳音の表情には残念といった表情も嘲笑の色もなかった。ただ単に普段の会話の1つとして捉えているだけだった。

「宗さんがそんなことを…。流石ですね。」

だからだろう、翔也も卑屈にならずに返事を返すことができたのは。尤も、デート中に他の男子の話題が出てきた時点で佳音のマナー違反と言うべきなのかもしれないが。

「じゃあ、行こっか。」

佳音が翔也の手を引っ張る。そのまま歩き出そうとしながら、翔也は尋ねた。

「どこにですか?」

「行きたいところがあるの。ついてきてくれない?」



佳音が連れてきたところは近くの映画館だった。

「翔也くんとのデートを宗ちゃんに話したらね、この映画のチケットといくつかのプランを渡してくれたの。もし、行く宛がなかったらって。」

「…至れり尽くせりですね。映画のチケットまで用意してくれてるなんて。」

もうここまでいくと嫉妬というよりも、羨望の眼差しの方が強かった。

「宗ちゃんすごいよね。でも、さっきの映画良かったでしょ?」

「はい。恋愛物の映画を見るのは久しぶりでしたけど、なんか泣けてきちゃいました。」

「私もっ。それにしても、宗ちゃんはなんでこの映画を薦めたのかなぁ。あんまり映画みないはずなのに。」

「誰か友達と見に行ったとかじゃないですか?」

「もし、他の女友達と見にいってたら宗ちゃんを問い詰めなきゃ!」

その子供らしい態度は、翔也の笑顔を誘った。


「次はどこに行きますか?」

「そうだね…まだ昼は早いからショッピングとかどうかな?」

「それいいですね。そうしましょうか。」

そんなことを話しながら、2人はエレベーターに乗る。そんなに大きくないエレベーターだからか乗ってるのは2人だけだ。

だが1階へのボタンを押そうとした時、あたりは急変した。

プツッという音が響く。周りは真っ暗だった。

「え?」

最初に声が出たのは佳音だった。ボタンを押そうとしたら急に暗闇に包まれたのだ。声は出たものの現状把握までは時間がかかっていた。

それは翔也も同じで、一体何が?という疑問が頭の中を駆け巡っていた。

先に、異変に気づいたからだろうか。現状を理解したのは佳音の方が早かった。けれども、それは正気とは程遠かった。

「え…なんで暗いの?暗いの嫌だよ!翔也くん、どこ!?ねぇ、どこなの!?」

声だけ聞いても半狂乱になっているとわかる。けれども、おかげで翔也の方は硬直から抜け出すことができていた。

「佳音さん、落ち着いて下さい!僕はここにいますから。」

暗闇の中駆け寄って佳音に近づく。そして、携帯の画面で周りを照らした。

「!?」

その時、翔也に電撃が走った。目の前に佳音の顔があったからだ。けれども、半狂乱の佳音はそんなことを気にしない。

「翔也くん!」

目の前に翔也がいることに気づいて、抱きつく。その勢いは反射的に顔をそむけなければキスをしてしまいそうなレベルであった。

「佳音さん。大丈夫ですから落ち着いて下さい。」

そう言いながら、翔也も手に力を込める。緊急事態とは何ともすごいものだ。

そうして、数十秒。やっと佳音も落ち着いたようだった。

「翔也くん…あ、ありがとう…。」

正気になってやっと自分が慌ててしまったことに気づいたのだろう。顔はよく見えないが真っ赤に染まっていそうであった。

「い…いえ。落ち着いてくれてよかったです。」

そんな佳音を見て、自分も照れる翔也。すごく初心うぶなカップルであった。

「これ、どうしましょうか。通報用のスイッチとかあるはずですよね?」

だから、翔也が現状について質問したのもただの照れ隠しだった。

その言葉を聞いて、翔也から離れて自分の携帯でボタンを確認する佳音。そして、ロゴを見つけてこんなことを言った。

「いや、大丈夫だよ。」

翔也がその言葉の意味を取りかねている間に佳音は自分の鞄からドライバーを取り出して何やらネジを開けだした。

「何をしてるんですか?」

自分の携帯で佳音の手元を照らしながら、翔也は尋ねる。

「分解してるんだよ。この先に管理用のパネルがあるはずだから。」

「管理用のパネル…ですか?」

「うん。こういった時に構造を知ってる人が直せるようにパネルが埋め込んであるの。」

そんな話をしながら佳音は分解を進める。

「そうなんですか。よく知ってますね、開発側じゃわからないようなことを。」

「そんなに自慢することじゃないよ。私がこれを設計したんだから。」

「え!?そうなんですか?」

あまりの驚きに携帯を落としそうになるのを必死に堪えて、翔也は言う。

「まあ、私も開発に携わったっていうだけの話だけどね。ほら、私が研究所に勤めてるのは知ってるでしょ?そこで受けた仕事の1つ。」

「全く知りませんでした。佳音さんの仕事の面って聞いたことなかったですから。」

「まあ、私も進んでは話さないもんね。」

そんな軽口を叩きながら、佳音は数字と表示部分だけがある小さな電卓みたいなパネルを触る。いくつかキーを操作して表示される数字から現状を把握していく。

「大体原因はわかったよ。電源関連のトラブルみたい。ってことは、予備電源をつなげればいけるかも。」

そんなことが出来るんですか?という翔也の言葉が音として現れる前に、佳音の成果は現れる。

電球が点灯し、エレベーターが動き始める。元々、移動前に止まったからかすぐに扉は空いた。

エレベーターの入り口にいる業者の人。そして、その周りにいた一般客から歓声が上がった。

どうして開いたのかわからないといった表情で戸惑う業者の人々。その中で一人だけ名前を呼ぶ人がいた。

「天音さん!」

翔也にとって聞いたことのない名前。けれども、それに反応したのは佳音だった。

「鈴木さん、無事飽きましたよ。」

知り合いを発見した佳音は笑顔で報告した。


その後、佳音と翔也はこの映画館の事務所の一室にいた。管理会社から話があるということだった。

普通こういった場では謝罪や、補償といった面が話されるのだろうが…ここでは様相が違った。

「つまり、電源につながる回路にエラーが出たというわけですか。」

「そうなりますね。パネルで接続コードを送ったのですが、エラーが返されたので。」

「なるほど。そうなると、天音さんは予備電源につないで起動させたという感じかな?」

上から、管理会社の人、佳音、鈴木さんの順。他に何人か管理会社の人がいたが、明らかに翔也は蚊帳の外だった。

「そうです。自分が開発に携わった機種で助かりました。」

「本当ですな。開発者がいらっしゃったのは不幸中の幸い。これが一般人だったらと思いますと怖くて仕方がありません。

それで相談なのですが、補償などはどうしましょうか。いくら構造を知っていた身内に近いものとはいえ、私ども管理側に非がありますので。」

「そうですね…。お金はいいです。貸しという形でいかがですか?」

「貸し…ですか?」

「はい。私もまた仕事の関係でそちらと係ることがあるかもしれませんから、そういった縁として残していただければ結構です。」

「そちらがそれでいいのでしたら、私共としては構いませんが…。鈴木さんはよろしいですか?」

「あ、はい。構いません。」

「それでは、そういう形でよろしくお願いします。そちらのお連れの方もご迷惑をお掛けしました。」

急に蚊帳の外にいた翔也の方を向いて頭を下げる管理会社の人。本来謝罪としては正しいことなのだが何分、佳音が解決してしまったため翔也にとっては逆に謝られることに違和感を感じていたぐらいであった。



その後、昼を食べて予定通りショッピングをしているうちに日はもう落ちかけてしまっていた。

「翔也くん、今日はありがとう。そして、巻き込んじゃってごめんね。」

場所は佳音の家の前。最初は男らしさを見せることができなかった翔也だったが、最後で何とか面子を守ることができたようであった。

「いえ…佳音さんこそありがとうございました。それに、今日の昼のことに関しては佳音さんも被害者ですよ。」

「そうなのかな…。まあ、ハプニングは合ったけどすごく楽しかったよ。」

「僕もです。図々しいかもしれませんが…また次もお願いしていいですか?」

「もちろん!よろしくね。」

「ありがとうございます。それでは。」

「じゃあね~。」

こうして次のデートの約束まで取り付けるという好成績を残して翔也の初デートは幕を閉じた。

しかし、翔也の知らないところとはいえ、デートの後すぐに宗のもとに報告しにいく佳音の姿は傍から見て若干違和感が残るものであった。



SS4、いかがでしたでしょうか。

3章で翔也と佳音側の視点を書かなかったので、番外編で書いてみようという取り組みでした。

一応、伏線となる部分もいくつか置いていますが、それらは後々わかるということで。


舞い上がる翔也、それをどこかお姉さんぶった感じで応対する佳音。

そして、まさかのデートプランを提示した宗。それぞれ普段とは少し違う姿がかけて楽しかったです。…まあ、宗はあまり変わらないかもしれませんが。

恋愛映画という時点でピンときた方がいらっしゃればいいなと思ったのですが、実はあの映画は宗とあかりが見たものと一緒だったりします。微妙なところですが、つながっているよという意思表示です。


それにしても、佳音の行動は変わりませんね。ちょっと翔也がかわいそうになりそうです。

さて、3章と4章がシリアス続きなので、1つぐらい明るいものをというニュアンスもあったSSも終わってしまいましたので、4章の続きを書いていきたいと思います。そちらの方もよろしくお願いします。


…割り込みはどこまで見てもらえるのでしょうか。

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