第19話「1日目:夜(2)」
前半の話は、第1章の話をまとめている感じになっています。
そういった面が苦痛な方は前半を読み飛ばしていただければと思います。
「僕と佳音が知り合ったのは小学校の頃だった。その頃は別に特に仲がいいというわけでもなく、同じバスケ部に所属しているだけだったな。
それが、中学生になって大きく変わったね。同じバスケ部でレギュラーとして活動しているうちに互いに息が会ってきて、いつの間にか黄金ペアって呼ばれるような活躍をしてたんだ。あ、自慢に聞こえたらごめんね。一応、誇張も謙遜も真実を歪めるから今回は使わないようにしてるんだ。
中学の部活を引退した頃かな、佳音が急に近づいてきたのは。その頃って、今までの部活三昧から解放されるから遊んでしまうんだよね。
僕も例に漏れず、同じ部活の仲間やクラスの友達と遊び呆けてたよ。ただ、その中でも佳音は頻度が高かったね。やっぱり、家が近いっていうのは1つの要因なのかな。
それからしばらくして、今の性転換についての話を聞いて、すごくびっくりしたよ。ただ、何でだろうね。それを否定する事ができず、僕は受け止めてしまったよ。
男子として僕のことが好きっていうことじゃなかったからかもしれないね。そして、佳音は高校から生活を一新するためにこの高校に入学した。
噂にはなってるかもしれないけど、僕と佳音は特殊な推薦入学で入ったきたんだよ。といっても、僕は佳音のおまけだけどね。
そして、高校に入っても佳音との距離は変わらず、むしろ女子として大義名分を得たからか、余計に絡んでくるようになったよ。お陰で何度否定しても恋人同士って言われてしまって…あの頃は困ったなぁ。」
「お二人って付き合ってるんですよね?」
「あ、そうか。おまえは知らないのか。僕達が付き合い始めたのは、3月になってからなんだよ。それまでは、あくまで親友の延長線上だったんだ。
そして、3月。あの頃、僕はクラス委員をやっててね。その時一緒にクラス委員として活動していた女子に僕は恋をした。
けれども、僕は彼女に振られてしまってね。結局僕の想いは届かなかったよ。けれども、話はそこで終わらなかった。自惚れに聞こえるかもしれないが、あの時彼女は僕のことが好きだったんだ。要は両思いだったわけだね。けれども、その想いを伝えることは叶わなかった。理由は何だと思う?信じられないかも知れないが、学校の先生が止めてたんだ。」
「そんなことがあるんですか!?」
「僕達の高校は私立だからね。そういった思惑も絡まってしまうんだ。
ここでの原因は佳音の立ち位置。佳音は学校にとって必要な人材だ。特に何もしなくても、佳音が有名になった時に出身高校として名前が出せる。それが欲しかったがために僕達の入学を許可したようなものだったからね。そして、僕は文字通り『枷』だった。そしてその『枷』が外れた時、佳音が学校をやめてしまうことを恐れた。だから、先生は単位をちらつかせて、想いを抑えるようにしたみたいだね。
その先生…町田先生というのだけれども、その先生も苦痛で仕方がなかったみたいだよ。1人の生徒も幸せにしてあげられないが、上の命令にも逆らえない。中間管理職の苦悩を垣間見た気分だったな。
そして、先生に想いを止められた少女は実力行使に出てしまった。要は佳音がいるから、こんな制約があるんだ…って。」
「もしかして…佳音さんは襲われたんですか?」
「ああ。計画性のない襲撃だったし、言い方が悪いが、一撃で仕留められなかった時点で顔がバレてるんだから最終的に捕まってしまう。
そして、佳音は先生に言うことも警察に通報することもしなかった。それどころか、僕にすら誰がやったのかを言わなかった。」
そこで一旦言葉を区切る。ここから先は軽々しく口にできることじゃない。けれども、避けられない言葉だった。
「佳音は、人を殺めた。その女子は、次の日の朝。校舎で死んでいたよ。」
翔也の顔が青ざめる。体に力が入らないようで危うく溺れ変えたところを宗が支えた。
「あ、す…すいません…。」
「仕方がない。むしろ、気絶しなかった事のほうがびっくりだ。」
「それは…本当なんですよね?」
「そうだ。逃げたいが逃げられない悲しい過去だ。」
「…続きをお願いします。」
翔也は決して逃げなかった。自分の好きな人が人を殺めているという事実。それは目をつぶりたいこと。けれども、彼女の真意を確かめずに逃げること。それだけはしたくなかった。その意思を受け止めて宗は続きを話し始める。
「佳音は、身の危険と同時にその女子と同じような意見だったんだろうね。佳音は襲撃のことで話があるといって、その女子を呼び出した。どうも、番号は僕の携帯から抜き出したみたいでね。信頼していたとはいえ予想外だったよ。
最終的に佳音の目的は達成できたみたいで、自殺に見せかけた他殺が出来上がった。ここまでは、佳音にとって予想の範囲内だった。けれども、まだ終わらない。誰もが幸せにならなかった事件がもう1つある。
町田先生が自殺してしまったんだ。
遺書を見たところ、町田先生はその女子の自殺が自分のせいだと思ってしまったらしくて、それに責任を感じてしまったみたいだった。
すぐに僕は駆けつけたが…間に合わなかった。あれは今でも悔いが残るよ。目の前で1人の人を救えなかったのだから。
そうして、ここまで来て僕は自分のするべきことに気づいたんだ。それは、最後に謎解きをすること。それが僕の役目だった。
佳音は僕に解いてもらうことが目的だったみたいで、僕にしかわからないヒントをたくさんおいていってくれたよ。
佳音は暴いて欲しかったんだ。その所業を僕に。そして、佳音を救うために僕が佳音と付き合うことも。
そういった歪な関係で始まった恋愛模様だったけれども、あの頃みたいに責任感とかそういったものはないよ。
今は単純に佳音のことが好きだ。彼女を守りたいと、幸せにしたいと、楽しみたいとここにいる。それは紛れもない事実だよ。」
「…すいません。混乱してよくわからないんです。少し一人で考えてもいいですか?」
「もちろん構わないよ。むしろ、受け止めてくれてありがとう。翔也には知っておいて欲しかったからさ。じゃあ、先に上がってるね。」
こうして、宗は湯船を出る。そこに残された1人の少年はもう一度自分の想いを確認する。そうして、1つの答えを導き出した。
宗に遅れること30分。翔也は湯船を出た。
「遅くなってすいませんでした。」
「おかえり。翔也。考えはまとまったかな?」
「…はい。聞いていただけますか?」
「もちろんだ。」
自分のベットに座って宗の方を向く翔也。それを正面から見据えるように宗は自分のベットに座った。
「先程の話はすごくびっくりしました。正直信じられないっていうのが本音です。けれども、それが佳音さんを諦める理由にはなりません。
彼氏を目の前にして話すことではないとは思いますが、佳音さんがそのような罪を背負っているというのなら、それは僕が一緒に償います。
関係ないのはわかっていますが、好きな人が苦しんでいるのにそれを受け止められないような男にはなりたくないです。」
それは、きっぱりとした断言。その意思は誰にも崩せない。そんな風に受け止められる力強い言葉だった。
「それを聞いて安心した。やっぱり、おまえに話してよかった。」
「…先程もそうだったんですが、この宣戦布告に対して怒りは感じないんですか?」
出鼻をくじかれたような気持ちで翔也は言うが、
「怒りなんて感じるわけがないじゃないか。」
それは、当たり前だという風に受け流された。
「…よくわかりませんけど、宗さんの中で何か考えがあるんですかね。
宗さん。僕は明日、佳音さんに気持ちを伝えます。」
それは2度目の宣戦布告。それを今度はいなさずに宗は受け止めた。
「わかった。頑張れよ。」
ただし、敵としてではなく応援者として。
その姿勢は一度も崩さなかった。
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