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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第3章「旅行編」
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第18話「1日目:夜(1)」

最終的に夕方まで4人でビーチバレーをした後、僕たちは二手に分かれた。

その意図としては…佳音の気持ちを読んで、あかりが気を利かせたのだと思う。

「宗ちゃん、夕日。綺麗だね。」

「そうだな。」

その結果、僕と佳音はビーチから少し離れたところに2人で座っていた。

「こんな綺麗な夕日を一緒に見られるとは思わなかったね。」

確かにこの景色は、綺麗と称しても何の問題もないほど幻想的な風景だった。

佳音が肩を寄せてくる。それを拒んだりせず、宗は佳音の肩を抱いた。

「歯がゆい言葉が思いついたが、口に出す勇気はないな。」

「どんなの?」

「口に出す勇気は無いっていってるだろ。行ったら意味が無いじゃないか。」

「うー。私へのご褒美だと思って言ってよー。」

もともと、口にだす勇気はないと言ったがそれは最終的に言わないというニュアンスとは異なる。

だから、まだ言わないという選択肢は宗にはなかった。

「この景色と佳音だったら、どっちが綺麗かなって。まあ、佳音の場合、綺麗というより可愛いという印象だけどな。」

「可愛いでも…十分嬉しいかな。」

「それはよかった。喜んでもらえたなら何よりだ。」

これを恥ずかしがりながら言えばもうちょっと宗も可愛げがあるというものだったが、内心はともかく外見は冷静さを保っていた。

それとは対照的に夕日のように顔を真っ赤に染めている佳音。すごく対照的な光景だった。

だから、佳音が話題を変えたのもそんな照れ隠しだったのだろう。

「そういえば、あかりと翔也くん。いい雰囲気じゃなかった?今も、2人きりでいるはずだし。」

この質問は宗にとってすごく答えにくかった。だが、そんなことは匂わせずに返事を返す。

「そうだったな。ビーチバレーの時もすごく楽しそうだったし。とはいっても、今2組に別れたのは佳音の希望によるものだろう?」

「まあそうだけど…結果的にはいいんじゃない?」

小動物のように首をかしげる佳音の姿に反論する言葉は思いつかなかった。

そして、佳音の肩を抱きながら思う。今日ぐらいは甘えさせてもいいかなと。

海は、紅い世界から幻想的な青の世界へと変化していた。


この日の晩ご飯はバイキングだった。(余談だが1日目の宿泊先はホテルだ。)

特記するべき事項はないが、4人とも(迷惑をかけない範囲で)騒いでいたあたり高校生らしいと言うべきか。

その後、一旦それぞれの部屋に戻った4人だったが、「4人で話してるほうが面白いんじゃない?」というあかりの提案によって、佳音とあかりが宗と翔也の部屋に来ていた。

「うーん、そろそろ帰ろうかな。」

時刻はもう10時。いくら普段はもっと遅くまで一緒にいる2人とはいえ、健全な高校生ならそろそろ自分たちの部屋に戻るべき時間だった。(もっとも、間違いが起こり得ない4人ではあったのだが。)

「そうだな。温泉にも入っていないことだし、そろそろ解散とするか。」

まだ残りたいような表情をしている佳音をなだめながら、部屋を出ていくあかり。

「これじゃ、どっちが先輩かわかりませんね。」

「全くだ。」

翔也と宗はだれともなくため息をついた。

「じゃあ、温泉行くか。」

「はい、行きましょう。」

妙に緊張している翔也を少々不審に思いながら、翔也は部屋の鍵を閉めた。


その緊張の原因は温泉に近づいていくうちに段々と顕著になってきた。

「もしかして…男風呂に入るのは初めてか?」

「恥ずかしながら、そうなんです…。大丈夫とわかってても緊張しちゃって。」

「まあ、それは仕方がないだろ。」

それまで女子として過ごしてきていきなり男子として過ごすというのはやはり辛いものだ。

今でこそ慣れたものの、佳音の最初もそんな感じだった。

「そう言ってくれるとすごく楽になりそうです。あ…でも、先に入ってもらっていいですか?いくらわかってても、心の準備が…。」

「もちろんいいよ。じゃあ、先言ってる。」

そう言って、宗は一足先に温泉へと足を進めた。


(それにしても、初々しいなぁ…。)

温泉に浸かりながら、宗は思う。

こんなところで何をいってると思われるかもしれないが、翔也を見ていると同性という感じがしなかった。

決して男性的なところがないわけではなく、むしろ佳音やあかりの前ではできるだけ男らしく振舞おうと努力しているみたいだ。

けれども、僕と2人で話すときは気を抜いているのか、中性的な少女のような振る舞いにみえてくるのだ。

(それが、本人にとって一番楽なら僕としては否定する意味はないけどな。)

そんなことを考えていたからだろうか、翔也の言葉に反応するのが遅れた。

「宗さん、横入りますよ。」

もっと前から声をかけてきてくれたんだろうが、僕が返事しなかったためそのまま入ってきたという感じだ。

もちろんその体にはタオルはない。当たり前といえば当たり前だが、宗はそこに若干の違和感を感じていた。

できるだけ、翔也の体を見ないようにと無意識下で考えながら、宗は翔也に話しかけた。

「もう、踏ん切りはついたのか?」

「はい、上半身裸になるのが一番悩みましたけどよく考えてみたら女子の頃も隠してなんていませんでした。

それに宗さん以外にはお客もいないようですし、宗さんだけなら大丈夫かなって…。」

その評価は、取りようによっては何通りにも解釈できるのだが、あくまで信頼の現れだろうと考えることにした。

今まで見ないようにしていた、翔也の方を見てみる。

当たり前だが、その上半身には凹凸がない。それが治療の成果なのかもともとなのかは判断に迷うところだが、出来れば前者であって欲しい。

ここまで考えたところで自分のやっていることが宗は恥ずかしく思えてきた。それを隠すために宗は話題を変えた。

「それにしても、今日は楽しかったな。」

「ええ。朝出発してから、電車の中、ビーチバレー、食事、会話。どれも、かけがえのない思い出です。こんな風に楽しく4人で遊びに来るなんておもってませんでしたから。」

「それは僕も同感だ。こればかりは佳音の思いつきに感謝だな。」

2人しかいない湯船の中で苦笑を漏らす宗と翔也。ひと通り今日の話題を話すと話題は段々恋愛の話になってきた。

「そういえば、翔也。あかりのことはどうするんだ?」

「…まだ、決められてません。」

「そっか。僕が関わってるわけでもないし、おまえらにしか解決できないことかもしれない。ただ、何らかの勇気は出すべきだと思うよ。」

「ありがとうございます。実は…。」

そこで、言いにくそうに黙る翔也。だが、勇気を振り絞って言葉を続けた。

「今回の旅行中に、佳音さんに想いを伝えるつもりです。」

想いを伝えること、すなわち告白。翔也は佳音に告白すると言い切ったのだ。だが、それに対して宗が慌てるなんてことはなかった。

「そうか。遂に伝えるんだな。頑張れよ。」

それどころか、人の背中を押したぐらいであった。その対応に逆に翔也の方が焦ってしまう。

「…宗さんはいいんですか?どうしてそんなに割り切れるんですか?」

「いいってわけじゃないが、お前が告白することに関しては賛成だよ。そうじゃなくても、僕はそろそろ告白を促そうと思っていたからね。」

その答えがあまりにも予想外だったからであろう。翔也は言ってはいけない言葉を言ってしまった。

「宗さんは、佳音さんと付き合うのが嫌なんですか?宗さんは佳音さんが嫌いなんですか?」

宗の心に刃が突き刺さる。それが悪意ある刃だったら、相手を返り討ちにしていたであろう。けれども、今回の刃は、事故で刺さってしまったもの。だから、宗の対応は信じられないほど穏やかだった。

「そんなことないよ。僕は佳音のことが大好きだ。負担になんておもってないさ。」

「じゃあ、何で!?」

「…翔也。人生ってのはね、自分が好きだからで通らないこともあるんだよ。」

その言葉に何か重い物を感じてしまい、黙ってしまう翔也。

「そういえば、翔也は佳音の過去。特におまえらが入ってくる直前の3月の出来事について話してないよな?」

「え…は、はい。知りません。」

「そっか。そろそろ話しておくべきかな。もしかしたら、これで翔也が諦めるかもしれないし。」

諦めるかもしれない、なんて心にもないことをさらっと宗は言った。

「まずは、中学の頃の話からしておくべきかな。」

こうして、宗は話し始めた。中学の出会いの話を。



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