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昔の親友、今彼女  作者: twilight
第3章「旅行編」
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第17話「1日目:昼間」

「宗ちゃん、見て見て!海だよ!」

電車の窓枠から半分身を乗り出して、僕に手を振る佳音。

その隣で一緒に外を見ているあかりと僕の近くで2人を見守っている翔也。

今は、旅行1日目の移動の電車の中だった。

「ああ、わかったから身を乗り出すのはやめなさい。」

僕は、小さな子に諭すような口調で佳音の傍へと移動した。


今回の旅行に関して、みんなが未成年であることから移動手段として車は使えない。(厳密には、原付の免許は持っているが4人で移動するには不適だ。)

よって、必然的に電車とバスでの移動となった。

今日の予定は、電車に3時間ほど乗った後、フェリーに乗り換えて小さな島へと移動する。

そこで、昼間はビーチで遊び、そのままペンションに泊まろうという予定だった。

そう、海だ。

僕にとって、それは予想外の予定でまさかビーチで遊ぶことになるとは思っていなかった。

何が問題かというと水着だ。

それは、決して女子の水着が見たいとか、逆に見るのが嫌だとかそういったよくある意味ではなく。

世間一般的には、特殊といわれるような事情を持っている佳音と翔也の事を考えてだった。

彼女(彼)にとって、水着というものは、未知のものであろう。

それは、実際に問題として突出してきた。



「宗ちゃん、1つお願いがあるんだけど…。」

「ん?何?」

「ちょっと買い物に付き合って欲しいの。」

「構わんけど、何の買い物だ?」

「…水着。」

「え?僕に佳音の水着を選んで欲しいってこと?」

「うん。ダメかな?」

佳音にしては珍しく弱気な態度だった。いつもの強気じゃない佳音を見て、反射的に頷きそうになるところを、寸でのところで思いとどまる。

「うーん、ダメってわけじゃないが。僕がついていくのは、おかしくないか?」

「だって、あかりに頼んだら用事があるから宗ちゃんと一緒に行ったらって言われたから。」

その言葉を聞いて、宗は心のなかで頭を抱えた。

(あいつめ…わかっててやってるな?それを素直に信じる佳音も佳音だが、あかりに断られたら僕に回ってくるのが当たり前…か。)

心のなかでいくつかの文句をしたためながら、それを表情に出さない。

「…わかったよ。ついてくから。」

「やった!じゃあ、いこうか。」

「って、今からかよ!」

急すぎる展開に驚きながらも、日付を変えようとしないところは、佳音の扱いに慣れていると言うべきか。


「これはどう?」

「んー、少し大人っぽすぎる気がするが。」

胸がないからと言外に付け足す。それは、佳音にも十分伝わったようだ。

「う…それは仕方がないじゃん。」

ちなみに、補足しておくと佳音は(一般的な言い方で言う)豊胸手術に当たるものを受けていない。受けれなかったのではなく、受けなかったのだ。

このあたりは、手術当時から宗に強く依存しており、親友という立場だからそばに居てくれる=外見が変わったら離れてしまうのではないかという不安から受けなかったという過去がある。

そのあたりの気持ちまで宗が理解しているかどうかは甚だしく謎だが、とりあえずそういうものだという認識ではいてくれるようだった。

(ちなみに、女性ホルモンの投与により、多少女性らしい体にはなっている。)

「まあ、そんなに派手なのはやめておいたほうがいいぞ。小さい子が大人びて不釣り合いな水着を着ているような風に見えるからな。といっても、あのビーチには僕達4人しかいないんだろ?」

「うん。実質的にプライベートビーチみたいなものだね。」

「じゃあ、僕達3人に見られてもいいって思う水着ならいいんじゃないか。それ以外では着ないだろうし。」

「なら、これにしようかな。」

佳音が出してきたのは、ワンピース型の水着でフリルのおかげであまり体のラインがわかりにくいもの。

身内みたいなものとはいえ、これなら妥協点かなと宗も納得した。

「いいんじゃないか?」

「じゃあ、買ってくる!」

そう言ってかけ出していく佳音はとてもじゃないが、高校2年生には見えなかった。



(思い出すだけで恥ずかしさがこみ上げてくる…。)

海という言葉から水着の出来事を思い出して、また頭が痛くなるような錯覚を感じた。

ちなみに、その後。別の日に翔也からも水着を買うのについてきて欲しいと頼まれていた。

佳音とは別の意味で買いづらいショッピングに出かけた宗は、かなりの精神的疲労感を感じていた。

そういった非難を込めて、あかりを見る。

あかりはこっちの視線に気づいたようで、残りの二人には気付かれないように口パクで言葉を発していた。

(『お疲れ様』って、絶対わかってやってるだろ…。)

実際には、あかりの意図したのは、佳音のことだけで翔也に関しては完全なるとばっちりであるのだが、(一応男子である翔也が宗に手伝いをお願いしても何の不思議もない。)精神的に余裕のない宗はそれに気づけなかった。



「早速泳ぎに行きますかっ!」

今日泊まるホテルに着いて、荷物を置いた僕と翔也がいる部屋に乱入してきたあかりの第1声がこれだった。

「…もう少し後にしないか?」

「宗ちゃん、そんな事言ってたら日が暮れちゃうよ。」

宗のあまりの乗り気じゃない顔に対して、佳音はかなり乗り気のようだった。

「翔也。おまえはどうだ?」

「そうですね…僕もビーチに行きたいです。」

「そうか。じゃあ、行くか。」

4人中3人が行きたいといっているのに、精神的な疲れだけで休んでると言えるわけがない。

そういった判断で宗は海に行くことを覚悟した。

「それじゃあ、着替えてくるね。ビーチで集合だよ!」

その後ろ姿を見て、嵐のように来て嵐のように過ぎていくなと宗は思ったが、それが誰を指しているかは本人にもわからなかった。



やはり思うところは、この4人でも個性はあるなということか。

一番目を引くのはやはりあかり。

彼女は、あまり泳ぐ事を重視していないとおもわれるビキニを着ていた。

さらにこの中では(当たり前といえば当たり前だが)一番スタイルがいい。大きすぎるとはいえないが、相対的に大きく見える胸にそれに見合うくびれ。

それらが、彼女の大人の女性に近い姿を見事に表していた。

一方、佳音。彼女はあの時にかったワンピース型を着ていた。

いま見て思う。あかりみたいな水着を買わせなくてよかったな…と。

もちろん、あかりは元々そんなことは気にしないだろうし、翔也もスタイルの良さで佳音を選んでいるわけではないのだから、あまり影響がない話なのかもしれない。だが、これを見ていると…。

(女らしさとしての格が違いすぎる。)

佳音の体つきはかろうじて胸の膨らみがわかるかどうかといったところ。それも、できるだけわかりにくいようにワンピースに付いているフリルで隠しているデザイン。元々、佳音のような小柄で成長したスタイルとは言いづらい人を対象にしているのだろう。

背も加わって、大人のお姉さんと一緒に来た妹という表現が一番近いだろう。(それでも、宗から見たらどちらも妹みたいな風に見えるが。)

ちなみに男性2人も受ける印象がかなり違うだろう。

翔也の方は、サーフパンツに上からTシャツを着ている形だ。本人曰く、わかっていても上半身を露出することに抵抗があるという。

それを聞いて、宗は納得といった顔をしたが、そのことに翔也はかなり安堵していた。

(まあ、男性用の水着を着れるだけましか。)

あれだけ長く女性として過ごしてきたのだ。男性として半年しか過ごしてきていない(更に加えて男性用水着は初めてのはずだ)のでは、抵抗があっても仕方がない。

ちなみに、僕はというと特に変哲もない(佳音曰くかなり派手な)トランクスタイプの水着だ。

元々の体格もあって結構たくましく見えるらしく、着替えた後に翔也に羨望の眼差して見られてしまった。

といっても、宗については描写する意味があまりないだろう。それよりも問題は…。

「ふたりとも楽しそうだね。」

当たり前といった表情で宗の隣に座っている佳音。その腕は宗にひっつくように組まれているが、本来当たるはずのものがないおかげかそれに気を取られることはないという宗の本音は、結局言葉に表されることがなかった。

それは、目の前で繰り広げられているビーチバレーが原因だった。

今ゲームをやっているのは、翔也とあかり。ゲーム結果的にはあかりのほうが有利。それもそのはず。

(わざとやってるんじゃ、翔也に勝ち目は無いだろうなぁ。)

あかりは自分の体型がわかっているからか、わざときわどいような格好をしたり、わざと急に動いたりするのだ。

それに男性の性として、釣られてしまう翔也。これをみっともないと取って悲しむべきか、問題なく男性としての心を得てると判断して喜ぶか。かなり悩むところだった。

けれども、誰も不幸な人がいないのだから、余計なお世話というやつか。

意外にも宗があかりの方を見ていても、佳音は起こったりしなかった。むしろ、その光景を楽しそうに見ていた。

(あかりと翔也の存在がこんなにも強かったとは…。)

一度、暴走している姿を見ている宗にとっては、存外の好成長だった。

(これなら……のあとでも大丈夫かもしれないな。)

あえて何をやるのかは、心のなかでも言わない。宗にとっての一つのけじめだった。

「宗ちゃん、私達も一緒に参加しようよ。」

その佳音の言葉で現実に戻ってきた宗。前を見るとあかりと翔也がこちらに手を振っていた。

「ああ、行こうか。」

今、そんなことを考えても仕方がないと自分に言い聞かせながら、立ち上がる。そうして、走ってかけていく佳音を追いかけた。


ちなみに、ビーチバレーの結果は、宗&翔也チームと佳音&あかりチームでは、ほとんど互角だった。

問題はチーム変更以降。

せっかくならと提案した宗&佳音チームと、翔也&あかりチームは、危うくゲームにならないところだった。…実力差がありすぎて。

なんとか、途中から宗が手を抜くことによって(佳音に手を抜くような思慮はない)いい試合になったが、その宗の姿を見て、負けず嫌いなあかりは少し不満だったようだった。


今回は、今までより少し長めに書けました。

…といっても、たった4000字なのですが。

書き溜めしてあった1章と違って、それ以降は短めになってしまいすいません。

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