第15話「予定決め」
夏休み…の少し前。
いつものように、授業後4人で話していた時、ふとこんな話題が出た。
「そういえばそろそろ夏休みですが、この部活って活動あるんですか?」
「多分、開いてると思うぞ。」
「ウチから見ると部活といえるかどうかは怪しいところですけどね。」
「楽しければいいんだよ!」
以上翔也、宗、あかり、佳音の順。
だが、ここから話が膨らんでいくうちに、話は思いがけない方面へと進んでいった。
ここで会話内容を示してもいいのだが、端的に言おう。
『この4人で合宿(というなの旅行)に行かないか。』
言ってしまえば、そういったところだった。
先に言っておくが、宗は決してこの3人と旅行に行きたくないわけじゃない。むしろ、楽しいと思っている。だが、
(荒れるだろうなぁ…。)
その話題が出て、みんなが否定しなかった時点で宗はここまで悟った。
今日中にそのレベルの話題までたどり着かなければいいのだが…という、宗の願いは予想通り通らなかった。
「それで、部屋割りどうします?」
あかりの容赦無い一言。というより、わかってやっているのだろう。
「はぁ…。」
できるだけ、3人に聞こえないように宗はため息をつく。傍観者で要られるならこの手の光景は面白いのだが、恋愛事情とはいえ個人個人の思惑のぶつけあいの間に立つのはあまり好ましくなかった。
さらに3人ともその気持ちを隠すつもりはさらさらないらしい。
すべての事情を知ってるはずのあかりに目で軽い非難の色を送ってみるが、華麗に無視された。
(仕方がないか。)
と、心のなかでため息をつく宗。もともと、ダメ元だったのだからそこまで傷ついてもいないのだが。
なかなか話が進まない3人に対して状況回復の意味も込めて、宗はこう提案した。
「それじゃあ、4人いるのだから3組のペアを作ればいいんじゃないか?
1日目の夜、2日目の夜、あとは3日間のうちに自由時間で1回ぐらいか。」
「それいいね。さすが宗ちゃんだよ。」
まともな返事が帰ってきたのは、佳音だけだったが表情を見るだけで残りの2人もその提案を受け入れていることが手にわかる。
宗の提案に対して、僅かな迷いを見せているのは翔也。だが、宗にとってその程度は予測済みだった。
「あ、今日僕先生に呼ばれてるから3人で決めておいて。それに従うから。」
「えっ?宗ちゃん行っちゃうの?」
「ああ。まあ、おまえらが決めたことなら問題は無いから大丈夫だよ。」
その言葉と共に、宗は部室を出ていった。
(やられちゃったな…。)
宗が外に出ていった後、翔也は心のなかでそうつぶやいた。
宗に用事が無いのは明らかで、それに気づいてないのは佳音ぐらいのものだ。(もっとも、それすらも演技かもしれないが。)
要は、翔也に気を利かせたのだ。そのまま宗がいたのでは宗と佳音が一緒に行動する確率がかなり高くなる。
けれども、宗1人が抜けると、それぞれ1人ずつとなって平等になる。そこまで、読んだ上での行動だった。
(ありがとうございます。)
翔也は宗の後ろ姿を見ながら、感謝の意をつぶやいた。
ここまで、お膳立てしてもらったのだ、それを無にする意味は無い。
「それじゃあ、どうやって決めますか?」
このチャンス逃さまいと翔也は話を進めた。
同じ時。具体的には翔也が話を始める少し前。
あかりも翔也と同じようなことを考えていた。
(宗さん…それでいいんですか?)
だが、それは翔也と感謝でもなく、またチャンスを潰されたことに対する恨みでもなく。
ただ単に「心配」。
彼女は、この3人の中で最もそういった話題について詳しい。
(そんな風に放っておいていいんですか?)
聞き方を変えた質問を彼女はもう一度心の中で投げかける。
自分の心、具体的には翔也に向ける気持ちはかなり大事なものだ。けれども、この空気、この4人の関係も同じように崩したくないもの。そういった思いが彼女に警告を与えていた。この決定が何かを変えてしまうと。
ただ、そのわからない「何か」のために、この決定を変えることもできなかった。
結局、3人による白熱した(?)論争によって、ペアは決定した。
まず、1日目の夜は宗と翔也、佳音とあかりでそれぞれ1部屋。性別で分けるこのやり方は無意識上で宗が想定したパターンだった。
次に、2日目の自由行動は、宗とあかり、翔也と佳音のペア。この組み合わせに多少の驚きはあったものの、概ね想定通り。
最後に、2日目の夜は、予想に違わず、宗と佳音、翔也とあかりのペア。考えられる組み合わせだったとはいえ、既成事実が欲しいのか?と思える積極的な2人の行動に驚くばかりだった。
まあ、所詮は先の話が決まっただけ。まずは、当面の話だ。つまり何が言いたいかと言うと…。
「さて、一緒に帰ろうか。宗ちゃん!」
用事(に見せかけた暇つぶし)を終わらせて、決まっただろう時間を見計らって、戻ってきた宗に対して、佳音は不満だった。
さすがに、翔也やあかりの前でその不満を見せたりはしないものの(最低限のプライドであろう)2人きりになると、帰りとはいえ不満が抑えきれられないらしい。
「佳音。そんなに怒るなって。平等に行くべきだろ?」
「それはそうだけど…1人だけ逃げるなんて酷いよ!」
半分涙ぐみながら訴える佳音。これが演技が混じっている可能性が合ったとしても、あまり宗は強気な態度が取れそうにもなかった。…尤も、宗は佳音に対してもともとかなり甘いのだが。
「わかったわかった。こんなところで泣き出すなよ。
で、どこがいいんだ?」
軽くなだめながら、言外にお詫びの場所を聞く。それに、お詫びのニュアンスが含まれていることに気付けない間柄ではない。
「んー、じゃあ、あそこっ!」
急に元気になって、指さした先には駅前にあるレストラン。もう少し具体的な言い方をするならば、ケーキバイキングと呼ばれるようなお店だったはずだ。
「わかったよ。今からか?」
宗に否定権はない。元々、そういったお詫びの面まで考えてあの場を退室したのだから手持ちが足りないなんて恥ずかしい真似をするはずがなかった。
「うん!」
そう行って、満面の笑みで宗の手を引っ張る佳音。それに仕方がないなという顔をしながらついていく2人は、傍から見て迷うことなき、ラブラブカップルだった。
遅くなってしまいすいません。3章開幕です。
自分の中で、3章で1つの区切りと考えているので、読んでいただける方よろしくお願いします。
今回、描写方法を少し変えてみました。具体的には、心理描写を増やしてみた感じです。
賛否両論あるかと思いますが、自分でもどちらのほうが良いのかわからないので、アドバイスくれるとありがたいです。




