カウンターアタック//崩壊

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　──カウンターアタック//崩壊

　東雲たちは逃げたサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちを大井統合安全保障の緊急即応部隊(QRF)とともに、ひたすら追跡していた。

「連中、高速に乗ったぞ」

「ふうむ？　高速に乗ったら逃げ場はないぜ？」

「どこかで降りるつもりか」

　サンドストーム・タクティカルは現在装甲化したバスに乗ってTMCに高速道路に入った。東雲たちも高速に入り、大井統合安全保障は空からアプローチする。

『チャリオット・ゼロ・ワンより本部(HQ)。高速道路の封鎖を要請』

『本部(HQ)よりチャリオット・ゼロ・ワン。申請を了解。封鎖を実行する』

　TMCの都市機能を運営する大井(O)都市(C)機能(F)事業(S)が大井統合安全保障からの連絡を受けて、全ての高速の出入り口を封鎖した。

「おっと。俺たちも退路がなくなっちまったぞ」

「この仕事(ビズ)の後に無事に逃げられるかね」

「どうにかして逃げようぜ」

　東雲たちはサンドストーム・タクティカルを高速で追う。

『チャリオット・ゼロ・ワンより本部(HQ)。目標(ターゲット)を視認。これより上空から強襲──』

　降下を始めた大井統合安全保障のティルトローター機が不意に爆発して、エンジンが落ち、スピンしながら高速道路に墜落し始める。

「おい。大井統合安全保障の輸送機が落ちたぞ！」

『東雲！　話していたステルスドローンが空対空戦闘を始めた！　大井統合安全保障は無人攻撃ヘリで応戦しようとしているけど』

「ダメそうか？」

『ダメかも』

　大井統合安全保障の緊急即応部隊(QRF)の上空援護についていた無人攻撃ヘリが戦闘機動をとって攻撃してきたステルスドローンに応戦しようとする。装備していた短距離空対空ミサイルが発射された。

　サンドストーム・タクティカルのステルスドローンは回避機動を取って回避するが、さらに無人攻撃ヘリがミサイルを放った。

　ステルスドローンが近接防衛用の高出力レーザーでミサイルを迎撃し、すぐにステルスドローンが空対空ミサイルで無人攻撃ヘリを攻撃。

　無人攻撃ヘリがチャフとフレアを撒き散らして回避するも逃げきれず1機が撃墜され、もう1機は不利と見て撤退を始めた。

「無人攻撃ヘリが逃げちまったぞ。お手上げかよ」

「俺たちも不味くないか？」

「不味いな。敵に上空を押さえられちまってる」

　敵に航空優勢を奪われた状態で暢気に遮蔽物もない高速道路を走っているのは危険を通り越して無謀ですらある。

「どうする？　このまま連中を追いかけるか？」

「どうしたもんか。仕事(ビズ)はやり遂げないとジェーン・ドウが怖い」

「もう失敗したようなもんだろ。テロは実行されたし、サンドストーム・タクティカルの奴らは逃げおおせようとしている」

「ううむ。でもな。まだASAの工作員(エージェント)を拉致(スナッチ)するチャンスはあるんじゃないか？」

　呉が諦観気味に述べるのに東雲が唸りながらそう返す。

「引き時を間違うと死ぬぞ、大井の」

「分かってますよ。だが、やれるだけやっとこうぜ。アリバイ、アリバイ」

　東雲はセイレムにそう言って前方を走るサンドストーム・タクティカルのバスを見る。装甲化されたバスは不意に停車すると、サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵《マシナリー・ソルジャー》たちが降車した。

『ジャッカル・ゼロ・ワンより全部隊。スコーピオン・ゼロ・ツーと合流するまで時間を稼げ。死ぬな。任務(タスク)を達成せよ』

　そして、生体機械化兵《マシナリー・ソルジャー》たちが電磁ライフルを東雲たちに向けて銃撃を始めた。

「またかよ、畜生！　こっちは装甲も何もないんだぞ！？」

「飛ばすぞ！　突っ込む！」

「じゃあ、俺は連中の攻撃を迎撃する！」

　今度は呉がアクセルを全開にしてサンドストーム・タクティカルの部隊に向かって突撃し、東雲は“月光”を高速回転させて電磁ライフルの銃撃を弾く。

「突っ込め、呉！　突撃、突撃！」

「やってやるよ！」

　電磁ライフルの銃撃が東雲たちの乗った車に襲い掛かる中を走り抜け、もう少しでサンドストーム・タクティカルの部隊に突っ込めそうな位置についた時だ。

『運動(K)エネルギー(E)ミサイル(M)発射準備完了』

『撃て！』

　そこで運動エネルギーミサイルが東雲たちに向かってきた。

「やべえのが来た！　呉、躱せ！」

「無茶言うな！　躱せるわけないだろ！」

「じゃあ、全員飛び降りろ！」

　東雲がそう言って呉たちが一気に走行中の車両から飛び降りる。

　運動エネルギーミサイルは車に直撃し、車の構造物をスクラップに変え、車はバッテリーが破損して炎上を始めた。

「野郎ども、やるぞ！」

「野郎はお前と呉だけだ」

　東雲が起き上がって叫ぶのに八重野が突っ込んだ。

「追いつくには追いついた。どうにかしてひとり、ふたり捕虜を」

「ああ。やろう。どうにかしてな」

　サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵《マシナリー・ソルジャー》を相手に東雲たちが武器を握る。サンドストーム・タクティカルは電磁ライフルで正確に東雲たちを狙ってくる。

「その程度」

　八重野は電磁ライフルの射撃を“鯱食い”で弾き飛ばし、その勢いでサンドストーム・タクティカルの部隊に向けて突撃した。

「八重野に続け！」

　東雲たちも突撃する。

『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。スコーピオン・ゼロ・ツーの到着予定時刻(ETA)は1425』

『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解しました』

　サンドストーム・タクティカルの部隊が電磁ライフルで射撃を続け、東雲たちの接近を阻止しようとする。

　電磁ライフルに装着されたアドオン式のグレネードランチャーからもサーモバリック弾頭のグレネード弾が叩き込まれ、東雲たちの周囲で激しい爆発が生じた。

「逃がすなよ。ここまで暴れられてのこのこと逃がすもんか」

　東雲がそう言ってサンドストーム・タクティカルの部隊に向けて進む。

『東雲。聞こえてる？　今、そっちに民間航空企業のIDで飛行しているティルトローター機が向かってる。IDは民間機だけど、偵察衛星で見た限り軍用機だよ。対戦車ミサイル、空対空ミサイル、電磁機関砲を装備』

「大井統合安全保障の連中、寝てるの？　仕事(ビズ)する気ないの？」

『大井統合安全保障は混乱している。大井海運本社ビルがやられたからね。空港と港は全て封鎖されたけど、まだ飛行禁止命令は出てない』

「じゃあ、こっちでどうにかするしかないな」

　東雲がため息を吐き、サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵《マシナリー・ソルジャー》に向けて“月光”を投射する。

　“月光”の刃がサンドストーム・タクティカルのコントラクターを引き裂き、死に至らしめる。東雲は既に“ネクストワールド”による防御を無力化していた。

「よし。いいぞ。連中に逃げ場はない。今のところは」

「いや。そうはいかないようだ。ティルトローター機のエンジン音だぞ」

「来やがったか」

　ティルトローター機のエンジン音が聞こえてきた時、同時にロケット弾が連続して発射される音が響いた。口径70ミリの誘導ロケット弾が地上に降り注ぎ、東雲たちの周りが炎に包まれていく。

「畜生。滅茶苦茶やりやがる！　連中が逃げるぞ！」

「航空優勢を奪われている。このままじゃ戦えない」

「やれるだけやろーぜ！」

　八重野が言うが、東雲はそう叫んで突撃。

　だが、やはりティルトローター機からロケット弾と電磁機関砲の猛烈な射撃を浴びて、進撃が停止してしまう。ティルトローター機の攻撃によって東雲が進めない中、サンドストーム・タクティカルの部隊は撤退していく。

「連中が逃げる！　クソが！　こうなったらティルトローター機を撃墜する！」

　東雲がそう叫び、サンドストーム・タクティカルのティルトローター機に向けて“月光”を投射した。

　しかし、“月光”の刃は電磁機関砲の正確な射撃によって退けられ、一瞬のうちにティルトローター機は上空に舞い上がると飛び去っていった。

「逃げられた。あーあ。仕事(ビズ)は大失敗。ジェーン・ドウがキレるぞ」

「仕方ないだろう。奇襲だよ、これは。ジェーン・ドウですらギリギリになってようやく気づいたってレベルだ。相手の目的も分からなければ、攻撃がいつ行われるかも分からなかった」

「それでジェーン・ドウが納得してくれるかね……」

「さあな」

　東雲がぼやくのに呉が肩をすくめる。

『東雲。ティルトローター機が統一ロシアの方角に向かった。統一ロシア空軍は緊急発進(スクランブル)してない。話がついてるのかも』

「統一ロシアもグルかよ。とんでもねえな」

　ベリアからの連絡に東雲が愚痴った。

「東雲。逃げなければならないぞ。大井統合安全保障は緊急即応部隊(QRF)が撃退されたのを既に知っているはずだ。増援を派遣してくるだろう。私たちがここに残っていれば連中に殺されかねない」

「次から次に。車はミサイルで吹っ飛ばされちまったし、高速は封鎖されて車は走ってないし、走って逃げるか？」

「そうするしかないな」

　東雲が高速を見渡して言うのに八重野がそう返した。

「出入口は封鎖されている。ここから飛び降りるか？」

「いけるかね」

「俺たちは機械化しているから大丈夫だ」

「羨ましいことで」

　東雲たちは高速道路の高架から下の一般道を見下ろす。

『ベヒモス・ゼロ・ワンより本部(HQ)。間もなく予定地点に到達。交戦規定(ROE)を確認したい』

『本部(HQ)よりベヒモス・ゼロ・ワン。交戦規定(ROE)は射撃自由、全ての目標を制圧せよ』

『ベヒモス・ゼロ・ワンより本部(HQ)。了解』

　そして、案の定大井統合安全保障は増援を派遣してきた。

『東雲。大井統合安全保障の空中機動部隊がそっちに向かってる。急いで逃げた方がいいよ。彼らは現場にいる人間を皆殺しにするつもりだ』

「全く。ろくなことしやがらねえな、連中。逃げるぞ！　こうなったら飛び降りる！」

　東雲はそう言って高速の柵を乗り越えて、下の一般道に飛び降りた。

　呉たちも続き、全員が高速道路から離脱した。

　そのすぐ後に上空をティルトローター機が押さえ、ファストロープ降下で大井統合安全保障のコントラクターたちが降下して高速道路を制圧した。

「危機一髪」

「マジでな。で、次はどうする？」

　セイレムが短く言うのに、東雲が尋ねた。

「知るか。ジェーン・ドウから呼び出しがあるだろ。大井海運本社ビルがやられたんだ。大井は必ず動く。それで何をさせられるか知ってるのはジェーン・ドウだけだ」

「今からジェーン・ドウに会うのが憂鬱だぜ。絶対嫌味言われる。それで済めば御の字で、最悪使い捨て(ディスポーザブル)だ」

「さっさと逃げるか。大人しくTMCに残るかだな」

「今は逃げられないだろ」

　セイレムの言葉に東雲がそう返す。

「とにかくこの場から離れよう。まずはそれからだ。大井統合安全保障の無人攻撃ヘリも飛んでいるし、私たちの姿は高速の生体認証スキャナーに捉えられている。留まっていれば面倒なことになるぞ」

「あいよ。ベリア、足を準備してくれ。ここから逃げる」

　東雲がベリアに要請し、ベリアがハックした車を東雲たちのいる場所に送ってきた。

「目的地はセクター13/6でいいか？」

「いいぞ。逃げ込むには悪くない場所だ」

　東雲が車を運転し、セクター13/6に向かって逃走。

　大井統合安全保障は周囲を制圧し、サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちの死体を回収するとティルトローター機で撤退した。

　東雲たちは駅に向かって、自動車を乗り捨てると電車でセクター13/6を目指す。TMCでは自動車で移動することが推奨されるのはセクター一桁台ぐらいでそれ以外では電車で移動した方が早いのだ。

「俺たちは家に帰るけどあんたらはどうする？　ホテルにでも泊まるか？」

「そうだな。棺桶(コフィン)ホテルは遠慮したいが、どこか泊まれる場所を探しておくよ。ったく、休暇が欲しいな」

「同意する」

　呉が愚痴るのに東雲も同調した。

「当面は休暇などないぞ。ASAとサンドストーム・タクティカルはTMCへのテロを成功させた。それでいて六大多国籍企業(ヘックス)は未だ“ネクストワールド”を解析できていない」

「はあ。憂鬱だ。どうなるんだ、この問題」

　一連の騒動の出口が見えないままに東雲たちは帰宅した。

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