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オキナワ・ツアー//大井重工普天間航空機試験場

……………………


 ──オキナワ・ツアー//大井重工普天間航空機試験場



 東雲たちは深夜の横田空軍基地で呉とセイレムに合流した。


「災難だな、おふたりさん!」


「全くだ。こちとらゆっくりするつもりだったのに」


 東雲がにやにやしながら言うのに呉が本当にうんざりしたようにそう言う。呉はセイレムと一緒のホテルに泊まって、大人の付き合いとやらをしていたのだ。


「沖縄で南国リゾートとしゃれこもうぜ。まあ、海は汚染されてるし、大地は不発弾だらけらしいがな」


「青い海と白い砂浜が楽しめるのは金持ちのプライベート空間だけだ」


 皮肉気に東雲が言い、呉がそう言って横田空軍基地に入った。


 度重なる各地での混乱のためか横田空軍基地では軍用機が頻繁に離着陸しており、軍用機の高出力エンジンが出す轟音が響き続けている。


「また軍用輸送機に缶詰だぞ。乗る前から嫌になるな」


「文句言うな、東雲。沖縄ならそう遠くない」


「上海の時も同じこと言ってなかったか?」


 八重野が苦言を呈すると東雲が胡乱な目で八重野を見た。


「修学旅行じゃないんだ。しっかりしろ」


「あんた修学旅行行ったことあるのかよ? 俺は新幹線に乗ったぜ」


「あるわけないだろ。アニメで見た」


「アニメって。あんた、日本のアニメ見てるのか、セイレム?」


「コンテンツとしてはいいものだろ? エンタメも六大多国籍企業(ヘックス)が牛耳ってる世の中だからな」


「どんなアニメ見てるの? やっぱ人が死にまくる奴か? 戦争ものとか?」


「いや。普通に学生がバンドやる話。昔のだけど面白かったぞ」


「あんたがそういうアニメ見てるとこ、全然想像できねえ」


 セイレムが平然と言うのに東雲が困惑しきっていた。


「おい、東雲。沖縄に行くからって浮かれすぎだぞ」


「だけど、俺沖縄一回もいったことないしさ。ドラマとかバラエティでめっちゃいいところって宣伝されてたし。一度行ってみたかったんだよな」


「今はこの世の地獄だ。ジェーン・ドウから聞かされただろ?」


「そりゃそうだけど」


 八重野が呆れ、東雲が唸る。


「いいから輸送機に乗るぞ。文句は言うな。無駄話はするな」


「引率の先生かよ」


「うるさい」


 八重野が仕切るのに東雲たちが白けた様子でそう返した。


 そんなやり取りをしながらも東雲たちはジェーン・ドウに指定された太平洋保安公司の軍用輸送機に到着した。


「デカい」


「大井重工製の戦略級軍用輸送機だな。無人戦車2両ないし装甲兵員輸送車(APC)歩兵戦闘車(IFV)が3両詰める」


「マジかよ。すげえな」


 東雲たちの前に現れたのは見上げるような大きさに加えて6発の巨大なエンジンを備えた巨人のような輸送機であった。


「おい。あんたら、乗るのか? 乗るならID見せな」


 輸送機を運用している太平洋保安公司のコントラクターが東雲たちのところにやってきて、IDを承認した。


「オーケー。乗ってくれ。すぐに飛び立つから急いでくれよ」


 太平洋保安公司のコントラクターはそう言って後部ランプを開かせて、東雲たちに鯨のように巨大な輸送機の中に入るよう促す。


「デカい輸送機なのに座席は狭い」


「文句言うな」


 東雲がぶつぶつ言いつつ折り畳み式のシートを開き、大量の兵装を詰め込んだ輸送機の中で座ってベルトを締めた。


『コントロール、こちらフガク・ゼロ・ワン。離陸許可を求める』


 そして、輸送機のその巨体が強力なエンジンによってタキシングして滑走路に入り、一気に加速して飛びあがった。


「せめて窓があればな」


「軍用品だぞ? そんな脆弱になるものを付けるものかよ」


「夜景も楽しめねえ」


 呉が指摘するのに東雲が座り心地の悪いシートの上でそうぼやく。


 輸送機はフライトを続け、沖縄にある大井重工の施設を目指した。


『飛行中の輸送機に告ぐ。こちらナイト・ゼロ・ワン。そちらの護衛を仰せつかった。これより護衛に当たる。何を積んでるんだ?』


『腹いっぱいに武器弾薬を積んでるよ、ナイト・ゼロ・ワン。本社は沖縄で反撃に出るための準備を始めてるってことさ』


『オーケー。大切にエスコートしましょう』


 護衛戦闘機が合流し、輸送機はフライトを続けた。


『お客さん。間もなく着陸だ。この度は太平洋保安公司航空宇宙事業部をご利用いただきありがとうございましたっと』


 パイロットが冗談めかしてそう言い、輸送機は大井重工普天間航空機試験場の広大な滑走路に着陸する。


「クソみたいに広いな」


「元が在日米軍基地だ。そりゃ広いさ。大井重工があらゆる航空機の試験を行なっている場所でもあるしな」


「在日米軍基地って返還されたのにそのままなのか?」


「第三次世界大戦後に大井が買い取った。県に示された大金と知事への袖の下で当時の知事が大喜びして売り払った。そして、その金で沖縄からさようならってわけだ」


「ひでえ。けど、軍用機がこんなにあるんじゃ在日米軍基地時代と変わらなくないか? 反対する人間はいなかったの?」


「大井は施設周辺から立ち退き料を払って住民を追い払った。頭のいい人間はその金で本州に渡り、頭の悪い奴は大井から“特別手当”を受け取ってあの世に渡った」


 東雲が尋ねるのに呉がそう言って頭を拳銃で吹き飛ばす仕草をした。


「マジかよ。無法が過ぎるぜ。いつから日本は法治国家じゃなくなったんだ」


「大井がデカくなってから、ずっとだよ」


 呉はそう言って東雲たちに施設に進むように促した。


 大井重工普天間航空機試験場にはいくつもの試験機や量産初期の機体が駐機されているが、今は戦闘機や輸送機がわんさかしていた。


 そして、多数の観測機器があらゆるところにある。


「あれってレーダーか?」


「ああ。ステルス機を探知するためのものだな。馬鹿みたいに電気を食うと聞いたことがある。専用の原子炉か、核融合炉が設置されるそうだ」


「ほうほう」


 東雲が目についた観測機器のひとつを指さして尋ねると八重野がそう返す。


「止まれ。お前たちがジェーン・ドウの使い走りか?」


「そうだよ。認証してくれ」


 武装した太平洋保安公司のコントラクターが東雲たちが施設に入るときに呼び止めるのに東雲がトントンとこめかみを叩いた。


「認証完了。車は用意してある。さっさと出ていけ。部外者は歓迎されない」


「温かい歓迎だことで。涙が出ちゃいそう」


 太平洋保安公司のコントラクターが東雲たちを睨むのに東雲は肩をすくめて大井重工普天間航空機試験場の食堂などが集まった居住空間を抜けて、表にある道路に出た。


「あれか?」


「あれだ。だけど、先客がいるぞ。どうなってんだ?」


 八重野が止まっている車を見て尋ねるのに東雲も怪訝そうな顔をした。


 車の傍にはラテン系の大柄な男と沖縄の住民だろう色黒な肌をした女がいた。どちらも年齢は20代後半と言ったところだ。


「あんたら。そこで何してんだ? 俺たちの車を盗もうって腹じゃないだろうな?」


「勘違いするなよ、兄弟。お出迎えに来てやったんだぜ? VIP待遇だ」


 ラテン系の男が陽気な口調でそう言う。


「ジェーン・ドウの言っていた連中か?」


「俺たちには共通の友人がいるみたいだな。そういうことだ。生体認証してくれ」


「あいよ」


 東雲がふたりを生体認証した。


「確認した。だが、名前を教えてもらってないぞ」


「俺はヒナタ・アルバ。こっちの美人はエマ・アルバ。俺の奥さんだ」


「家族で犯罪組織か? 楽しそうで何よりだな」


「そうとも俺たち“ディザータ”は人種と宗教に関係なく誰であろうと受け入れる」


「“ディザータ”? 脱走兵か?」


「親がね。第三次世界大戦でクソッタレなアジア(A)太平洋(P)合同(J)(F)に参加していた連中と沖縄に上陸した後孤立無援になった人民解放軍の連中。そいつらが逃げて組織した」


「そいつを家業にしてるのがあんたら?」


「そう。ここで食っていくには犯罪組織に入るしかない。ここに産業という名のものは大井重工以外に存在しないんだ」


 ヒナタがそう言って悲しそうな顔をした。


「そうかい。じゃあ、あんたらを頼っていいんだな。ついでに聞くがあんたらを戦力としてカウントしていいのか?」


「俺は一応香港で機械化しているが、エマは生身だ。俺はある程度は戦えるからいいが、エマは運転技術の方で信頼してくれ」


「了解。じゃあ、まずは作戦拠点まで行こう。ジェーン・ドウから聞いてるか知らんが、4日後には大井統合安全保障が大規模な行動に出る。それまでに片付けるぞ」


「乗ってくれ」


 東雲たちが大井が準備した黒い装甲バンに乗り込む。


「いいかい、お客さんたち。まず大井重工の施設付近はIDさえしっかりしてればセーフエリアだ。不発弾は根こそぎ撤去されたし、警備の民間軍事会社(PMSC)もいる」


「大井の施設は元在日米軍の基地だから相当爆弾を叩き込まれたんじゃないのか?」


「そうさ。それを大井は無人機を使って全て撤去した。だが、施設から離れると事情が大きく変わってくる」


 東雲が尋ねるのにヒナタが答える。


「外は爆弾が今も大量に眠ってる。ただの爆弾から生物化学兵器までバリエーション豊富だ。貧乏人たちは基本的にそこで暮らしている」


「聞いてるよ。そいつらが暴動を?」


「ああ。貧乏人が自棄になってる。扇動してるのは第三次世界大戦前に中国情報機関の工作を受けて沖縄独立だのなんだの吹かした連中で、それに加えて北京から工作員(エージェント)が派遣されてきてる」


「ASAの連中は?」


「さあ。俺たちの耳には入ってないが」


「そいつは妙だな」


 ジェーン・ドウは沖縄にASAの工作員(エージェント)がいるから東雲たちを派遣したはずなのだ。


「危険地域に入るぞ。安心してくれ。エマは危ない道は知り尽くしてる。俺たち“ディザータ”は暴動に関係していないから俺たちの縄張りを通って拠点に向かう」


 ヒナタばかりが喋ってエマは一言も喋っていない。


「暴動はどの程度広がってるんだ?」


「かなりの規模だが普天間には近づけていない。大井統合安全保障は無人地帯(ノーマンズランド)を作ってて、猛烈な砲爆撃と地雷の散布で暴徒の進軍を阻止してる。滅茶苦茶だぜ」


 そんな話をしているとヒナタの話を裏付けるように砲声が響き始めた。距離はあるがかなり大口径の砲による砲撃と思われた。


「暴徒は武装してるのかね」


「中国製の武器を所持している。カラシニコフのデッドコピーとRPGのデッドコピー。それから火炎瓶だ」


「スタンダードな暴徒だな」


 ヒナタが説明すると呉がさもありなんという顔をした。


「拠点は昔ホテルだった場所だ。“ディザータ”のアジトでもある。この件に関して“ディザータ”は全面的に大井の味方だから安心してくれ」


「そいつは助かる」


 東雲たちを乗せた車は道らしい道でもない荒れた地面を駆け抜け、大井重工普天間航空機試験場から離れた場所に向かう。


 そこで上空をジェットエンジンを響かせた航空機が高速移動していく音が響く。それから大きな爆発音が連続して響いた。


「爆撃だな。大井統合安全保障も学習した。暴徒たちは無人兵器をジャックする能力がある。だから、高空から高速で飛翔し火力を纏めて叩き込んで即座に離脱するんだ。ヒット&アウェイ戦法って奴だな」


「暴徒に航空爆弾を食らわせてんの?」


「この前なんてデイジーカッターを叩き込みやがったよ。大井は容赦しない」


 デイジーカッターと呼ばれる大規模な爆発を起こす兵器は特に規制されることもなく使われ続けている。


「そろそろ到着だ」


 ヒナタがそう言うと車はようやく道路らしい場所を走り、そのまま荒れ果てた市街地の中に聳えるホテルに向けて走った。


「到着っと。改めて歓迎するよ、兄弟。ようこそ沖縄へ! この世の地獄みたいな場所だけど住めば都さ」


 車が止まり、ホテルの前で東雲たちが車を降りる。


 ホテルのエントランスには統一ロシア製の自動小銃や機関銃で武装した“ディザータ”の警備要員がおり、油断なく周囲に視線を向けている。服装に統一感はなく、ラフなスーツだったり、アロハシャツに七分丈ズボンだったりした。


「こっちだ」


「さてさて、作戦会議だな」


 東雲たちはヒナタの案内でホテルに入った。


……………………

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