上海遊戯//清算
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──上海遊戯//清算
天竜の運転する軍用六輪装甲車がASAの工作員が乗る白いバンの後部に突っ込み、車を弾き飛ばした。
弾き飛ばされた車がスピンし、タイヤが荒れた道路のせいでパンクし停車する。
「ガッチャ! 行け、非合法傭兵チーム!」
「オーケー!」
天竜がそう言い、東雲たちが軍用装甲車から降りてバンに向かって進む。
「クソッタレ! 六大多国籍企業の犬どもが! ナヴァロ博士、しっかりしろ! 逃げるぞ!」
停車したバンからASAの工作員であるダニエル・チャオが出てきて東雲たちに向けて腰だめで短機関銃を乱射し、もうひとりの工作員であるハドソン・ナヴァロ博士を逃がそうとする。
「“ネクストワールド”を使う! どうにかしなければ殺される!」
ハドソン・ナヴァロがワイヤレスサイバーデッキを首に装着し、東雲たちに向けてデータを送信するような動作をした。
「うおっ!?」
東雲が衝撃波によって吹き飛ばされ地面を転がる。骨が何本も折れてしまった。
「気を付けろ。奴も邪仙だ。だが、殺すな。奴は生かして捕まえる必要がある」
「作戦は?」
「ワイヤレスサイバーデッキさえ破壊できればどうにかなるだろう」
八重野が尋ねるのに呉がそう返す。
『東雲。そっちに暴徒の大群が向かってる。気を付けて。そこで目標を捕まえて仕事が終了って訳じゃない。TMCまで連れ帰らないと』
「分かってるよ。全く、トラブル続きじゃないか。連中をとっちめてやらねーと」
東雲は身体能力強化で折れた骨を回復させると既にASAの工作員と交戦している八重野たちの方に走る。
「クソ、クソ、クソ! 弾が切れた! 援護しろ、袁!」
「こんなことになるとは聞いてない!」
「黙って戦え! 死にたいのか!?」
ASAの現地協力者である袁が叫ぶのにダニエルが叫び返した。
「セイレム。援護してくれ。サイバーデッキをぶっ壊す」
「了解。仙術に注意しろよ」
呉がハドソンに向けて突撃するのをセイレムが銃を乱射するダニエルと袁の相手をしながら援護する。
「近寄るな! 私に近寄るんじゃない!」
「くっ。喰らっちまった。だが!」
ハドソンが仙術──あるいは魔術による攻撃を繰り広げるのに呉が被弾して左腕の人工骨格を粉砕されるも強引に動いてハドソンのワイヤレスサイバーデッキを“鮫斬り”で叩き切った。
「ひいっ! 止めてくれ! 殺さないでくれ!」
「あんたが大人しくしていれば殺さない。セイレム、そっちはどうだ?」
ハドソンがしりもちをついて命乞いするのに呉がセイレムの方を見る。
「無力化した。殺してはいない」
「上等。片付いたな」
セイレムはダニエルと袁を武装解除させていた。
『東雲。暴徒がすぐそこまで来てる。逃げられそう?』
「呉とセイレムが目標を押さえた。ずらかるところだ」
東雲がベリアにそう言った時、暴徒たちの姿が見えた。
「クソ、RPG!」
そこで林雨桐が叫ぶ。
暴徒が対戦車ロケットを使用し、ASAの工作員が使っていた白いバンを吹き飛ばした。衝撃波が東雲たちを襲い、全員が身を伏せる。
さらに東雲たちの付近に爆発が何度も生じた。
「迫撃砲だ。連中、迫撃砲で俺たちを狙ってやがる」
「また上海自治軍からパクったのか? パクられ過ぎだろ」
呉が言うのに東雲が呆れ果てた。
『非合法傭兵チーム。今、水上艦艇に支援を要請した。迫撃砲陣地をふっ飛ばしてくれるはずだ。砲撃が止んだら、目標を装甲車に積み込め』
天竜からそう連絡が来た数十秒後、巨大な爆発音が響いた。
「迫撃砲の砲撃が止まったぞ。目標を積んでずらかろう」
「了解。連中を連れていってくれ!」
東雲がそう言い、呉がダニエルと袁を押さえているセイレムに叫ぶ。
「暴徒がそこまで来てる。無茶苦茶撃ってくるぞ!」
「東雲! 援護してくれ! 目標を装甲車に乗せる!」
「あいよ!」
呉がハドソンの腕を掴んで言うのに東雲が暴徒たちの銃弾を“月光”を高速回転させて弾きながら援護する。
「邪仙だ。邪仙がいるぞ!」
東雲が暴徒の中にワイヤレスサイバーデッキを装備した人間を見つけて叫んだすぐ後、天竜たちが乗っていた装甲車が上から押しつぶされたように道路にめり込んだ。
「クソッタレ。やってくれやがったな。全員、応戦しろ!」
「了解」
天竜たちは走行不能になった装甲車から飛び降り、電磁ライフルで邪仙を狙う。
「本部! こちらイナバ・ゼロ・ワン! 脱出支援を要請する! 何でもいいから移動手段を寄越してくれ!」
『本部よりイナバ・ゼロ・ワン。了解。ティルトローター機を送る。コールサインはフラミンゴ・ゼロ・ファイブ。到着予定時刻は1642』
「了解、本部! 何とか持たせる!」
天竜が通信しながら邪仙の頭を電磁ライフルで消し飛ばしていく。
「非合法傭兵チーム! 7分後に迎えが来る! それまで持たせろ!」
「簡単に言ってくれるぜ。暴徒の数が半端じゃないってのに!」
天竜が東雲たちに呼びかけると東雲が愚痴りながら暴徒に向けて“月光”を投射し、暴徒を始末していく。
「おい、サイバーサムライ。援護しろ。私が暴徒を攪乱して時間を稼ぐ」
「オーケー。援護するよ、中国女」
林雨桐が言うのに東雲が“月光”を呼び寄せ、林雨桐を支援する態勢を取る。
「行くぞ」
林雨桐が瞬時に加速した。
中国北方工業公司製の高度軍用機械化ボディは西側の運用する六大多国籍企業製のそれに僅かに劣るが、瞬発力ではほぼ差がない。
「すげえ速度! 俺も負けてられないぜ!」
東雲も身体能力強化を駆使すれば高度軍用機械化ボディと同等かそれ以上の速度を発揮できる。異世界では敵も当たり前のように身体能力強化を使うので、東雲はそれで鍛えられていた。
「喰らえ、売国奴ども」
林雨桐が超高周波振動蛇腹剣を電磁射出し、刃が一瞬で大量の暴徒を仕留めた。さらに超高周波振動蛇腹剣は舞い続け、命を容赦なく狩り取っていく。
「いいぞ! やっちまえ!」
東雲の“月光”も林雨桐を援護するように暴徒を切り裂き、踊るように回転した。
『非合法傭兵チーム。こちらが確認した邪仙の位置情報を送る。仕留めろ』
「了解! やるぞ、中国女!」
東雲が林雨桐に向けて叫び、攻撃を加速させる。
「確実に仕留めていくぞ。油断するな」
林雨桐がそう言い、一度格納した高周波振動蛇腹剣を電磁射出で一直線に射出し、遠くにいた邪仙の顔面を貫いて殺害した。
超高周波振動蛇腹剣は伸縮自在で長いときには15メートル近く伸びていた。
「そういう使い方もできるのか。便利なもんだな」
「そっちの武器はどういうものだ? 西側が開発中のテレキネシスエネルギーウェポンという奴なのか?」
「こいつは魔剣“月光”だよ。非共産主義的なファンタジーの産物にして俺の最強の相棒だ」
林雨桐が再び超高周波振動蛇腹剣を射出して邪仙を仕留めるのに、東雲が林雨桐を暴徒の攻撃から守りつつ、林雨桐と同じように邪仙を仕留める。
「ふん。ファンタジーなどあるものか。常に世の理は科学で解明される理性的なものだ。その奇妙なサイバネウェポンも何かしらの科学で説明できるのだろう」
「だといいけどね」
林雨桐と東雲が暴れまくり、暴徒はみるみる数を減らし、怖気づいた暴徒が逃げていった。邪仙ももうほとんどいない。
そこでティルトローター機のローター音が響いてくる。
『非合法傭兵チーム。かぼちゃの馬車が到着した。目標はこっちで積み込むから先に乗り込め』
天竜からの連絡が来て、大井統合安全保障の中型ティルトローター機が上海の道路に着陸した。
「神経介入型鎮静装置を目標に使用しろ。機内で暴れられたら敵わん」
「了解、中佐」
天竜の情報部隊は目標であるASAの工作員にナノマシンの皮膚摂取と電気信号で対象の意識を失わせる特殊な拘束デバイスを使用した。
「俺たちを置いていかないでくれよ、天竜」
「ああ。待ってるから乗り込め。急げ、急げ。また暴徒が来たら不味い」
東雲と林雨桐が天竜たちに合流するのに天竜が急かす。
東雲たちが乗り込み、天竜たちが目標を積み込んでから乗り込む。
「イナバ・ゼロ・ワンよりフラミンゴ・ゼロ・ファイブ。乗り込んだ。出してくれ」
『フラミンゴ・ゼロ・ファイブよりイナバ・ゼロ・ワン。ちゃんとベルトを締めろよ。安全規程違反になるからな』
ティルトローター機が離陸し、東雲たちを乗せて大井統合安全保障の航空作戦の拠点である上海浦東国際航空宇宙港に向けて飛行していく。
「やれやれ。大変な仕事だったぜ。後はおうちに帰ってお終い」
「そうだな。帰ったらバーガーを食べに行こう。私もバーガーが食べたくなってきた」
「いいぜ。チェーン店に行こうな。デカいバーガーを腹いっぱい食べるぞ。チキンナゲットとポテトもセットだ」
八重野がそう言うのに東雲がにやりと笑った。
「呉、セイレム。あんたたちはこの仕事が終わったら何か予定あるのか?」
「俺たちは大人の付き合いって奴をする予定だ。セクター一桁台の洒落た場所でな。ホテルの予約も取ってある」
「そうですかい。いいもんね。俺も予定が空いたら王蘭玲先生とデートするもん」
「僻むなよ」
東雲が見るからに不機嫌になるのに呉が苦笑した。
『そろそろ到着だ。ベルトは着陸するまで締めておけ。それから改めて言うが機内は禁煙だぞ』
ティルトローター機のパイロットがそう言い、ティルトローター機が上海浦東国際航空宇宙港に設けられたヘリの離着陸場に降下していく。
「さあて。仕事を片づける前にひとつ確認する。“ネクストワールド”ってのはどこにある?」
ティルトローター機を降りて、目標であるASAの工作員であるダニエル・チャンとハドソン・ナヴァロ、そして現地協力者である袁子豪に東雲が尋ねる。
既に神経介入型鎮静装置は外されており、3名は意識のある状態で東雲の問いに晒された。
「わ、私の脳埋め込み式デバイスの中だ」
「ナヴァロ博士!」
「喋らないと拷問されるに決まってる!」
ダニエル・チャンが叫び、ハドソン・ナヴァロが泣きながらそう言った。
「オーケー。八重野、こいつのBCIポートから“ネクストワールド”を取り出してくれ。ベリアたちに見せておきたい」
「分かった」
八重野がワイヤレスサイバーデッキからハドソン・ナヴァロのBCIポートに直接接続して脳埋め込み式デバイスの中にあるプログラムを自分の記憶領域にダウンロードした。
「終わったぞ、東雲」
「よし。これでいい。後は帰るだけ」
東雲が安堵の息を吐いた時だ。
「そのふたりは我々中国政府が取り調べる。引き渡してもらおう」
林雨桐がそう言いだした。
「おいおい。そりゃないぜ。俺たちはジェーン・ドウからこいつらをTMCに連れ帰れって言われてるんだ。こいつの持っていたデータなら共有していいから、それでこの場は手を打たないか?」
「ふむ。それならば──」
林雨桐が自分のワイヤレスサイバーデッキを操作しようとした瞬間、拳銃に初弾が装填させる音がした。
「ダメだ。お前にデータは渡せない」
「天竜! 何やってんだ!」
天竜が45口径の大口径自動拳銃の銃口を林雨桐の頭部に向け、彼の部下たちは電磁ライフルの銃口を彼女に向けていた。
「貴様! まさか最初から」
「上から指示を受けてるんだよ。お前は元人民解放軍の将校を受け取って、北京に報告する。ASAの連中は大井が押さえる。データもな」
林雨桐が天竜を睨むのに天竜が淡々とそう言う。
「現地協力者を引き渡すのは俺たちが北京に敬意を払っているということとして可能な限り好意的に受け止めてほしい。大井が斡旋している西側の中国への経済制裁解除の交渉を頓挫させたくはないだろ?」
「クソ。日本鬼子め」
「馬鹿なことは考えるな。お前が玩具を抜くより俺と部下がお前の頭をぶっ飛ばす方が早い。大井の高度軍用機械化ボディの技術は中国より遥かに上だ」
天竜がそう言い、彼の部下が袁を林雨桐の前に連れてくる。
「そいつを連れてあそこに止まってるティルトローター機に乗って北京に帰れ。非合法傭兵チームは向こうの輸送機でTMCに戻れ。これで会計は終了。それぞれ買い物かごの荷物を持ってさようならだ」
「……分かった。同意しよう」
林雨桐が落胆した声色でそう言うと袁を拘束して天竜が指定したティルトローター機に向かった。
「非合法傭兵チーム。よくやったな。ジェーン・ドウによろしくと言っておいてくれ」
「全く。大井はやり口が汚ねーぞ」
「これも仕事だよ」
東雲が呆れるのに天竜がそう言って肩をすくめた。
「じゃあ、帰りますか」
東雲たちはお土産を連れて、エプロンに止まっている太平洋保安公司の軍用輸送機に向かっていく。
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