上海遊戯//邪仙
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──上海遊戯//邪仙
東雲たちは合流した大井統合安全保障の情報部隊を指揮する天竜を先頭に、上海の暴動の起きているエリアを進んでいく。
『この先、暴徒どもがいるぞ。邪仙も確認している。突っ込むなら注意しろ』
第7世代の熱光学迷彩で姿を消した天竜から連絡が来る。
「だってさ。突っ込むか?」
「それ以外にあたしたちに何ができる?」
「それもそうだ」
セイレムが言うのに東雲がもっともだという顔をする。
「天竜。突っ込むから支援してくれ」
『了解。配置に着いた。いつ始めてもいいぞ』
「あいよ」
東雲のARに天竜からの映像が来た。
暴徒が群れを成している。銃火器を所持している暴徒もいるが、ほとんどは石やコンクリートの破片、そして火炎瓶を持っている。出稼ぎ労働者の集団であり、武装した集団として組織されたものではなかった。
「この先だ。3カウントで突っ込むぞ。八重野は俺の援護を。呉はセイレムと林雨桐を援護してやってくれ」
「了解」
東雲たちがそれぞれの得物を握って3カウントを行う。
3──2──1──。
「突っ込め!」
東雲が“月光”を展開して突撃し、八重野たちが続いた。
「殺せ! 企業の犬どもだ!」
「中華人民共和国万歳!」
暴徒たちが口々に叫びながら東雲たちに投石を行ったり、火炎瓶を投擲したりする。
「ぶった切る」
東雲が溢れる暴徒の群れに“月光”を叩き込んだ。
“月光”の刃が舞い、暴徒たちを斬殺していく。アーマードスーツでも、強化外骨格でもなく、もちろん生体機械化兵でもない暴徒は容易く切り倒され、死んでいった。
「なんだ。これなら楽勝──」
東雲が事態を楽観視しかけたところで東雲の腕の骨が音を立てて砕けた。
「おわっ!? な、何事!?」
『邪仙に攻撃されてるぞ。ワイヤレスサイバーデッキをつけた暴徒を最優先で排除しろ。こっちでも支援する』
「こいつが邪仙の使う仙術って奴か。これは確かに面倒くさそうだ!」
天竜の部隊が狙撃でワイヤレスサイバーデッキを首に付けた邪仙の頭を消し飛ばすのに、東雲たちも放っておいても問題ない暴徒を無視して邪仙を狙い始めた。
「八重野! 雑魚は任せた! 俺はワイヤレスサイバーデッキを装備した奴を狙う!」
「任された、東雲」
八重野が背後を守る中、東雲が暴徒の群れに突っ込み、“月光”でかき乱しながら邪仙までの道を切り開いていく。
「さあて、あたしたちも暴れるぞ、中国女」
「ふん。そう言っておいて後れを取るなよ、角女」
セイレムが加速して“竜斬り”を超電磁抜刀して暴徒たちを切り裂いていくのに、林雨桐が超高周波振動蛇腹剣を電磁発射して展開する。
超高周波振動蛇腹剣は林雨桐の意のままに舞い、暴徒たちがバターのように切り裂かれていっては地面に屍を晒した。
「よっと! 邪仙発見!」
前進する東雲の前にワイヤレスサイバーデッキを首のBCIポートに接続している暴徒が現れた。邪仙だ。
「くたばりなっ!」
東雲が邪仙に向けて“月光”を投射する。
「なっ……!」
だが、“月光”は見えない壁に阻まれて邪仙に到達しない。
そんな中、東雲の腹部に大穴が開いた。内臓が抉られた。東雲が狙っている邪仙の攻撃である。邪仙は東雲の方にARでデータを送信するような仕草をしている。
「こんにゃろ! やりやがったな!」
東雲は“月光”に血液を注ぎ、切れ味をどこまでも強化して“月光”を押し進める。
ついに“月光”が邪仙の防壁を破って突入し、邪仙の首を刎ね飛ばした。
「クソ。いちいちこんなことやってたら血がなくなっちまうぜ」
「東雲。ここは私が前に出る。お前は数が多い相手の方がやりやすいだろう」
「すまん。任せたぜ、八重野」
ここで東雲と八重野が前衛と後衛をバトンタッチ。
八重野が前に出て進み、東雲が有象無象の暴徒たちを八つ裂きにする。
「うひょー! “月光”がこんなに血を吸えたの久しぶりじゃん。血を流す連中は大好きだぜ、ベイベー!」
東雲の“月光”が舞い踊り、次々に血を吸いながら暴徒を殺戮した。
『非合法傭兵チーム。暴徒の集団とさらに邪仙どもだ。複数できやがったぞ。友軍に支援を要請するか?』
「何が頼める?」
『この距離なら艦砲射撃だな』
「じゃあ、やってくれ」
『オーケー。デンジャークロース。警戒せよ』
天竜がそう告げると後方から飛翔音がし、暴徒の真っただ中に砲弾が着弾。多数の暴徒を巻き込んで炸裂した。
「すげー。よくあんなピンポイントに砲撃できるな」
『知性化砲弾だ。平均誤差半径は50センチ。ラクダだって針の穴を通れる。砲撃を続けるか?』
「やってくれ」
『5発叩き込む。デンジャークロース!』
上海沖に展開している大井統合安全保障海上保安事業部が運営する水上艦艇の127ミリ電磁速射砲が知性化砲弾を天竜が戦術リンクにアップロードした目標に向けて砲撃した。
知性化砲弾は東雲たちに迫っていた暴徒の軍勢に次々に着弾し、暴徒たちを壊れた玩具のようにふっ飛ばす。
『非合法傭兵チーム。悪いニュースだ。邪仙が砲撃を耐えやがった。前に空挺戦車の主砲を砲撃を弾いたのは見たが、艦砲射撃が弾かれたのは初めてだ』
「あーあ。じゃあ、こっちで始末するよ。いくぞ、八重野!」
東雲と八重野が増援として到着した邪仙たちに切り込む。
「一閃」
八重野が超電磁抜刀し、邪仙の防壁を貫いてその首を刎ね飛ばした。
「やっちまえ! 雑魚は任せろ! あんたは邪仙だけ狙え!」
「分かった。迅速に仕留める」
投擲される火炎瓶や石、飛んでくる銃弾を弾きつつ東雲が暴徒を薙ぎ倒すのに、八重野が東雲が作った道を通って邪仙に突撃する。
「────!」
「その首貰った」
邪仙がデータを送信するときのようなしぐさをするが、八重野には何の影響もなく彼女は邪仙の首に“鯱食い”を叩き込み、ワイヤレスサイバーデッキごと首を刎ね飛ばしてしまう。
「グッドジョブ、八重野!」
東雲が八重野の健闘にニッと笑いながら暴徒たちを八つ裂きにしていく。
そして、セイレムと林雨桐も大暴れしていた。
「邪仙とは言ったものだな。超電磁抜刀でもかなり斬りごたえがある。しかし、こいつらは何を使って防壁を構築しているんだ?」
「知るか。私は技術者でも研究者でもない。お前もそうだろう。考えても無駄なことは考えない方がマシだ」
「馬鹿の考え休むに似たり、か。まあ、いい。ただの暴徒を大井統合安全保障にお守りしてもらって殺すのは退屈だからなっ!」
林雨桐が超高周波振動蛇腹剣を振り回して辺りに血飛沫を撒き散らす中、セイレムが邪仙に機械化ボディを極限まで加速させ、超電磁抜刀で切りかかる。
「クソ! 我々を搾取する上海政権の使い走りが──」
「ナイストライだ。だが、死ね」
セイレムが攻撃を放った邪仙の懐に飛び込み、攻撃を回避すると同時に超高周波振動刀で邪仙を殺害した。
「まだまだいるな。片っ端から殺すか」
セイレムが肉食獣のような笑みを浮かべて、暴徒たちの中に混じる邪仙を見た。
『非合法傭兵チーム。新しい情報が入った。ASAの工作員の位置情報だ。連中と協力者がドローンで目撃された。ここから3キロ先の地点だ。今もドローンが追いかけてる。急いで突破して向かうぞ』
「あいよ。やってやりましょう!」
天竜からの連絡に東雲たちが暴徒の突破を目指す。
“月光”が舞い、“鯱食い”が切り裂き、“竜斬り”と“鮫斬り”が放たれ、超高周波振動蛇腹剣が踊る。
上海の通りに大量の血が溜まり、血生臭さが支配する。ピンク色の肉片が壁に張り付き、死体があちこちに転がっていた。
「クリアだ。進むぞ」
東雲が暴徒が壊滅したのを確認して天竜たちの先導の下、上海の街並みを進む。
『ついてこいよ、非合法傭兵チーム。お前たちの仕事だぜ』
天竜たち情報部隊は熱光学迷彩と静音装備で前進していき、時折建物に入って内部の確認と高所からの情報収集を行いながら、確実に目標に向かっていく。
「おい、天竜。まだか? かなり進んだぞ。暴徒はいないからいいものの、ここまで妙に静かだと気味が悪い」
『待ってろ。今、ドローンを展開して情報を集める』
東雲が急かすと天竜たちが小型の手投げ式のドローンを展開した。ドローンは飛び立つと周辺を限定AIによる操縦で探査し、情報をリアルタイムで天竜たちに送信してくる。
『オーケー。掴んだ。奴らがいるぞ。ASAの工作員とサンドストーム・タクティカルの作戦要員、それから連中の現地協力者。ついでに重武装の暴徒どもだ。上海自治軍から装備を鹵獲してやがる』
「こっちにも映像を送ってくれ」
『了解。大井統合安全保障の回線を使って送る。送信した』
「受け取った。こいつはまた。機関銃に装甲車と来たか。そんでもってサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵どもが6名にクソアーマードスーツが4体ってか」
『楽しくなりそうだな?』
「全然」
天竜がからかうように言うのに東雲が盛大にため息を吐いた。
『目標はASAの工作員2名と現地協力者。それだけだな?』
「ああ。そうだ。そいつらは連れて帰る必要がある」
『他の連中はこっちで始末してやろう。陽動もやってやる。特別サービスだぜ?』
「ありがとよ、中佐。頼むぜ」
『コピー。“静寂こそが力”だ』
天竜がそう返し、彼の部隊がモットーの通り静かに動き出す。
熱光学迷彩で完全に姿を消した天竜ともうひとりのコントラクターが超高周波振動ナイフを手にして暴徒の背後に近づき、一瞬で喉を裂き、心臓を貫き、腎臓を滅多刺しにした。暴徒はほぼ即死で死亡してしまった。
『イナバ・ゼロ・ツー。静かに仕留めろ』
『了解』
天竜たちは暴徒たちを物陰に引きずり込み、すぐさま超高周波振動ナイフで急所を的確に攻撃して悲鳴すら上げさせずに片付ける。
『前方に邪仙。気づかれなければ大丈夫だ』
天竜はもうひとりのコントラクターと息を合わせて同時に2名の邪仙を仕留めた。
『この辺りで終わりにしよう。陽動を実施するぞ。ドローンを自爆モードで突っ込ませろ。誘導はこちらで行う』
『了解。ドローンを突っ込ませます』
上空を飛行中の小型ドローンが天竜の誘導で暴徒が鹵獲した上海自治軍の装甲車に向けて急降下し、内蔵していた爆弾が炸裂した。装甲車が炎上し、生き残っている暴徒たちの注意が逸れる。
『非合法傭兵チーム。突っ込んでいいぞ』
「サンキュー。じゃあ、行くぜ!」
天竜からの合図を受けて東雲たちが目標がいる建物に向かう。
建物は古い倉庫であり、その敷地内に通信設備が設置されていた。かなりの出力の遠隔通信機器だ。アンテナが聳え立ち、サンドストーム・タクティカルのコントラクターが警備する中、ASAの工作員が作業を行なっている。
東雲たちは暴徒たちがざわついている正面を迂回して裏口から敷地に突入した。
「八重野。間違って目標を殺すなよ。ジェーン・ドウは殺しじゃなくて情報に金を払うんだ」
「分かってる」
東雲が言うのに八重野が心外だという顔をした。
「おら! 突入だ!」
東雲たちは裏口のゲートを蹴り破り、敷地に入った。
「警戒、敵襲! 戦闘配置に着け!」
「サイバーサムライが4名。いや、5名か?」
「確実に排除しろ。アーマードスーツを前に出せ!」
サンドストーム・タクティカルのコントラクターがすぐさま応戦を開始し、アーマードスーツが前方に出る。
「アーマードスーツは俺に任せておけ! 他の連中は生体機械化兵の排除と目標の確保だ!」
「了解!」
東雲はアーマードスーツと交戦状態に突入。
『ガゼル・ゼロ・ワンより全部隊。電磁機関砲を掃射しろ。サイバーサムライを近づけるな。弾幕を展開せよ』
『了解』
アーマードスーツが口径35ミリの電磁機関砲を東雲たちに向けて掃射する。
「スクラップにしてやるぜ」
東雲は“月光”を高速回転させてアーマードスーツに迫った。
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