ミリシア//アルバカーキ・リボルト
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──ミリシア//アルバカーキ・リボルト
東雲たちは準六大多国籍企業のビジネスマンというIDでアルバカーキに入った。
「クソ。民間軍事会社がうようよ。市民より多いんじゃないか?」
「フラッグ・セキュリティ・サービスの連中だ。ここはアローの縄張りだぞ」
東雲がアルバカーキ国際航空宇宙港を出た時点で軍用装甲車と強化外骨格でガチガチに装備を固めたフラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターを見て呻くのに、呉がそう付け加えた。
「フラッグ・セキュリティ・サービスからの要請でニューメキシコ州政府が対テロ警報に基づく戒厳令を発令してる。ギリギリセーフだったね。既に航空便の離発着も制限されているよ」
「そいつは帰りに困るぜ。帰りもここから逃げるんだからな」
「既に申請してある航空便については審査の末に離発着が許可されるよ。大丈夫。私たちのチャーター機は審査に合格だって」
「オーケー。じゃあ、仕事だ」
東雲がタクシーを捕まえた。
治安が悪いところでは無人運転のタクシーは成り立たないため大都市などではタクシーには銃で武装した運転手がいる。
東雲たちが乗ったタクシーの運転手はヒスパニック系だった。
「間が悪い時に来たね、お客さん」
「仕事だから仕方ないよ」
「本当はいい街なんだけどさ。飯は美味し、家賃も物価も安い。治安が悪いってところに目をつぶれば十分暮らしていける場所だし、成長の余地もあるいい街なんだ」
タクシーの運転手がそう語る。
「軍の基地とか研究所とかもあってね。そこにいる金持ちが街に学校や病院を建てる寄付をしてくれるから、財政もそこまで悪くない。この街で育ったセレブやお偉いさんはいるんだよ」
「人種差別主義者はどうなんだ? やっぱり危ない連中か?」
「ああ。そいつらとは関わり合いにならない方がいい。あんた、中国人だろ?」
「日本人」
「すまん。だが、連中にとっちゃ一緒だ。中国人はアメリカ人から仕事を盗んだと連中は思ってる。それから俺たちヒスパニック系が一生懸命働くから迷惑してるって主張してる」
「頑張って働くことの何が悪いんだ? いいことだろ?」
勤勉な移民は歓迎すべきだと東雲は言う。
「雇ってる側にしてみればそうだろうがね。雇われる側としては俺たちが低い給料で頑張って働くから自分たちもそうしなきゃいけないのが腹立たしいらしい。偉大な白人様がどうしてヒスパニックと同じ給料でってさ」
「そいつはただの我がままだぜ」
「話が分かる人で良かったよ。日本人も勤勉なんだろ?」
「そこそこにはね」
東雲がそう返し、タクシーがアルバカーキの街を進んでいく。
「ああ。クソ。フラッグ・セキュリティ・サービスの連中だ。本当にうんざりだよ。何か起きるとあちこちに馬鹿みたいに検問を設置するから大渋滞。それに加えて連中のトリガーは羽根より軽い」
「災難だな」
「本当にそうだよ。電気代は無駄にできないのに渋滞のせいでみんなタクシーを降りてしまう。さっさと進んでくれないかな」
フラッグ・セキュリティー・サービスの検問が道路の先にあり、軍用装甲車と軍用四輪駆動車、そして強化外骨格と大口径自動小銃を装備したコントラクターたちが展開していた。
「探知用機械化生体もいるな。定番のチェックポイントだ」
「まだまだ目的地は先だぜ?」
「仕方ない」
東雲の隣に座る八重野が首をすくめた。
「おっと。進んだ、進んだ。お客さんたち、IDは大丈夫だろうね?」
「問題ないよ」
「そいつはいい──」
東雲たちを乗せたタクシーがチェックポイントに入ろうとしたとき、爆発が生じた。タクシーがひっくり返り、東雲が強烈な衝撃に襲われる。
「な、なんだ!?」
「対戦車ロケット弾だ、東雲! このチェックポイント、狙われているぞ! 急いで遮蔽物に逃げ込め!」
炎上するタクシーから八重野が東雲を引きずり出す。運転手は飛んできた破片で喉を裂かれて死んでいた。
機関銃のけたたましい銃声が響き、強化外骨格を装備したコントラクターたちの足音が聞こえ、また爆発音。
「クソ。例の人種差別主義者どもか?」
「恐らくは。他にこれだけの武装を持っている人間がいない」
東雲と八重野が建物の陰に隠れて銃撃戦が繰り広げられている通りを見る。
「東雲! 大丈夫だった?」
「なんとかな。八重野のおかげで助かったよ。マトリクスの方はどうだ?」
「大混乱。六大多国籍企業の電子猟兵が仕事を始めて、あちこちに仕掛けをやらかしてる」
東雲が尋ねるのに別のタクシーに乗っていたベリアが答える。
「全くもってクソッタレだ。この状況でPerseph-Oneを分捕れってか」
「フラッグ・セキュリティー・サービスの通信を傍受した。連中の構造物をハックしてやったよ。彼らが戦っているのは間違いなく“アメリカン・フロント”の民兵たちだ」
「これまでと同じ結果になりそうだぞ」
「どうにかする。とりあえずアルバカーキのマトリクスにワームをぶちまけて混乱を誘うよ。その間にハッカーの場所に。住所は分かってる。ここからは距離があるけど駆け抜けるよ、東雲!」
「あいよ! やってやりましょう!」
東雲はそう言って通りに飛び出ると同時に“月光”を展開した。
「連邦政府の犬を殺せ! 今こそ独立のときだ!」
「ぶちかませ!」
建物の屋上から“アメリカン・フロント”の民兵たちが銃を乱射し、それに装甲車などの陰に隠れたフラッグ・セキュリティー・サービスのコントラクターたちが応戦している。
「東雲! 無事か!?」
「ああ、呉! 大丈夫だ! セイレムは!?」
「先に行った! 追いかけるぞ!」
「おう!」
呉と東雲が八重野とベリアを連れて通りを駆ける。
『バイコーン・ゼロ・ワンより本部! 民兵から攻撃を受けている! 応援を寄越してくれ!』
『本部よりアルバカーキに展開中の全部隊へ。民兵の大規模な蜂起を確認している。警戒レベルをアップルジャックに変更。交戦規定は射撃自由、抵抗者ゼロだ』
展開しているフラッグ・セキュリティー・サービスの通信が傍受され、ベリアと東雲に伝わる。
「どうやら連中はここで暴れているだけじゃないらしい」
「セイレムの奴、進みすぎだ。テンションが上がっていたとはいえ」
東雲が伝え、呉がぼやく。
「──クソ、イエローが! 死ね!」
「遅い、遅い。殺し甲斐がないぞ」
しばらく進むとセイレムの姿が見えてきた。
銃火器で武装した“アメリカン・フロント”の民兵を30人ほど相手にしつつ、圧倒していた。次々に民兵が切り倒され、通りに鮮血が溜まっていくのが分かる。
「セイレム! 状況は!?」
「あまりにも相手のやる気がないのに退屈してきたところだ」
セイレムが“アメリカン・フロント”の民兵を余裕の様子で叩き切りながらそう返した。
「敵は雑魚か?」
「“アメリカン・フロント”の馬鹿な白人至上主義者に限って言えばな。フラッグ・セキュリティ・サービスとはまだ交戦していないが、いずれにせよこのまま仕事を進めれば交戦する結果になるだろう」
東雲が“月光”で民兵が叩き込んでくる銃弾を弾きながら尋ねるのにセイレムが残った民兵を皆殺しにしながらそう言う。
「そいつは避けたいところだ。さっさとPerseph-Oneを強奪してずらかろうぜ。素人に毛が生えた程度の民兵なら簡単に蹴散らせる」
「ここまで素人だと殺しても面白くないがな」
セイレムはそう言って先頭を進む。
『アクシス・ゼロ・ワンより本部。民兵の蜂起範囲がさらに拡大。アルバカーキ全体に広がっている。現有戦力では対処不可能と思われる』
『本部よりアクシス・ゼロ・ワン。現在増援が移動中。機動展開コマンドからも増援が来ている』
フラッグ・セキュリティ・サービスの通信が傍受される。
「東雲。フラッグ・セキュリティ・サービスの特殊作戦部隊も向かってきてる。元アメリカ軍の生体機械化兵で構成される連中」
「厄介ごとは続くってか。連中より先にPerseph-Oneを押さえるぞ」
ベリアが報告すると東雲がセイレムの後を追う。
「前方に重機関銃陣地。民兵どもだ」
「ぶち殺して進もうぜ」
通りにピックアップトラックと土嚢を積んで民兵が重機関銃陣地を設置していた。陣地の前方には既に何体もの射殺された死体が転がっている。ほとんどが民間人で、非白人だ。
「来たぞ! 中国人どもだ!」
「この街は俺たちのものだ! 殺せ!」
民兵たちが操る重機関銃が東雲たちに浴びせかけられ、東雲は“月光”を高速回転させて昔ながらの口径12.7ミリの大口径ライフル弾を弾く。
「中国人じゃねーっての。日本人はそんなに知名度ないのか?」
「さあな。少なくとも私は日本人としてのアイデンティティは持ってない」
東雲が愚痴るのにセイレムが陣地に突撃した。
「畜生! こいつ、サイバーサムライ──」
「とろいな、兵隊気取り」
セイレムが超電磁抜刀し、重機関銃の射手の首を刎ね飛ばした。
「くたばれ、中国人!」
「あんたがくたばりな」
他の民兵たちが銃口を向けるのにセイレムは目にも留まらぬ速度で斬撃を繰り出し、10名ほどの民兵がいた重機関銃陣地を制圧した。
「おーおー。セイレム、あんた絶好調だな?」
「給料分の仕事はするってだけだ。フラッグ・セキュリティ・サービスと揉めたらあんたにも働いてもらうぞ?」
「あいよ。この調子でいきましょう」
再びセイレムを先頭に東雲たちがアルバカーキの街を進む。
重機関銃をマウントしたテクニカルが銃を乱射しながら進んでいたと思えば、上空のドローンから対戦車ミサイルを叩き込まれて爆発炎上。火だるまになった民兵が通りに転がる。
「フラッグ・セキュリティ・サービスもかなり抵抗してる。けど、民兵は数が多い。増援が到着するまでは決着はつかなそう」
「あちこちで銃撃戦だ。アメリカ人ってのは本当に銃を馬鹿みたいに持ってるんだな」
「銃規制の試みは完全に放棄されたからね」
東雲が通りで繰り広げられる民兵とフラッグ・セキュリティ・サービスの銃撃戦を見て言うのにベリアがそう言ってきた。
『今ここにアメリカ連合国の成立を宣言する! 腐った連邦政府に死を! 神は我らにこの約束された地を与えられた! 神に祝福されないクソカラードやクソリベラル、クソホモ野郎どもに死を!』
道路を外れて店舗に突っ込んだ車のラジオからラジオ局を占拠した民兵の頭のおかしな声明が流れてくる。
「憎悪そのものって感じだな。理屈もなにもあったもんじゃねえ」
「自分たちの貧困の原因を他人に押し付けてるんだよ。彼らにはもう保守派の白人であるということしかアイデンティティがない。そのプライドばかりが肥大して、技術や資産は増えやしなかった」
「金がなくて腹が減るとどいつもこいつもおかしくなるのかね」
ベリアが肩をすくめるのに東雲がオホーツク義勇旅団や“人民戦線”のようなテロリストたちを思い出しながらそう呟いた。
「クソ。また機関銃陣地だ。無反動砲も準備してやがる。大井の、手を貸せ」
「任せとけ。ぶち抜こうぜ」
セイレムが東雲に援護を要請するのに東雲が前方に出る。
「南軍の旗まで掲げちゃって。全く、時代錯誤な連中だ!」
東雲が身体能力強化を駆使して陣地に突撃した。
「おい! 中国人どもが来たぞ!」
「クソッタレの有色人種どもめ! ミンチにしてやるよ!」
民兵たちが機関銃を乱射し、口径106ミリ無反動砲からフレシェット弾を東雲に叩き込む。
「バカスカいい気になって撃ってるんじゃねーぞ、ディキシー!」
東雲が攻撃を弾き、陣地に飛び込んだ。
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