ディア・ヴァンパイア//魔女
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──ディア・ヴァンパイア//魔女
片腕を失ったカリグラを前にした東雲。
「年貢の納め時だぜ、サイバーサムライ?」
東雲が“月光”の刃を向けて口の端を歪める。
「らしいな。最後は華々しく散るとしよう」
カリグラが超高周波振動刀を片手で鞘に納め、身を低くする。
「最後の一撃ってか。いいだろう。付き合ってやる」
東雲も“月光”を構える。
「ラストダンスだ。サイバーサムライは自分の死は自分で演出する」
「そうかい」
ぐっと姿勢を低くするカリグラを東雲が警戒した。
そして、目にも留まらぬ速さでカリグラが突撃する。
「クソ──」
「貰った!」
東雲の反応は間に合わずカリグラが超電磁抜刀を繰り出す。
チャージされた電磁力で放たれた超高周波振動刀が東雲の脇腹を切り裂くが、東雲の身体能力強化によって強化された筋肉と骨によって斬撃は途中で食い止められた。
「クソ、クソ、クソ痛えっ! ぶっ殺してやる!」
「そうはいかんさ。道連れだ」
「なっ。てめえ!」
カリグラの機械化ボディが蒸気を発し始め、赤熱し始める。排熱機構を意図的に破壊したのだ。このままでは機械化ボディが暴走して爆発する。
東雲が“月光”をカリグラに突き立てるが、カリグラは超高周波振動刀を東雲の体に食い込ませたまま離れようとしない。
「離れろ! このクソ野郎! てめえの自殺に俺を巻き込むな!」
「ははっ! 共倒れってのも乙なものだろ! 一緒に地獄に落ちようぜ!」
「このクズが!」
東雲は必死に“月光”を振るう。そして、カリグラの超高周波振動刀を掴んだ腕を切り落とし、カリグラを蹴り飛ばした。
「爆発するぞ!」
東雲が警告を発した次の瞬間、カリグラが爆発した。
機械化したボディの破片が周囲に撒き散らされる。
「はあ。終わった、終わった!」
東雲は無事にカリグラを撃破した。
そして、呉とアウグストゥスも決着がつくところだった。
「そろそろ終わらせようぜ。ティベリウスがくたばっちまったよ」
「いいぞ。地獄に送ってやる」
「そうでなくっちゃ!」
呉が超電磁抜刀を繰り出すのにアウグストゥスがそれを迎撃し、カウンターを繰り出す。超高周波振動刀が呉の鼻先を掠めていった。
「さあ、くたばれ」
「やってみな!」
呉とアウグストゥスが激しい剣戟を繰り広げる。
なかなか決着はつかない。だが、次第にアウグストゥスが呉に押されて行くのが分かる。アウグストゥスはなかなか攻められず、守勢に立たされている。
「守ってばかりか? 負けるぞ」
「だな。じゃあ、ちょっと最後に花を咲かせるか!」
アウグストゥスが守るのを止めた。
彼は全ての防御を捨てて攻めに出た。
「マジかよ。やりやがる!」
「イェイ! くたばりなっ!」
呉の懐にアウグストゥスが飛び込み、それと同時に呉が“鮫斬り”を振るう。
アウグストゥスの刃が呉の胸を引き裂き、同時に呉の刃がアウグストゥスの腕を切り落とした。アウグストゥスの超高周波振動刀が呉に致命傷を負わせる前に、その刃が床に落ちていく。
「おっと。ゲームオーバーか。残念!」
「あばよ」
アウグストゥスが笑い、呉がアウグストゥスの首を刎ね飛ばした。
「楽しかったぜ、サイバーサムライ」
呉はそう言って“鮫斬り”を鞘に納める。
「終わったな? 敵は全滅。だよな?」
「ああ。敵は全滅した。終わりだ」
東雲が造血剤を口に放り込んで尋ねると呉が肩をすくめてそう返す。
「ルナ・ラーウィルを押さえるぞ。仕事を終わらせる」
東雲はそう言ってアトランティス・バイオメディカル・コンプレックスの廊下を進む。ALESSやハンター・インターナショナルの邪魔はない。
「後はらくちんかね」
「さてね。そう簡単にいくか」
東雲が嬉しそうにいうのにセイレムが疑問を呈する。
『東雲。ハンター・インターナショナルの特殊作戦部隊である強制介入部隊が動いた。アトランティス・バイオメディカル・コンプレックスに向かっている』
「あーあ。これだよ。絶対に楽させてくれないのな!」
『到着までにはまだ時間がある。頑張って』
「あいよ」
東雲たちが足早に研究施設の廊下を進む。
『トリガー・ゼロ・ワンより本部! 施設内の要人の移送についてはどうなっている! 脱出させるのか、させないのか。はっきりしてくれ!』
『本部よりトリガー・ゼロ・ワン。要人の輸送を開始する。研究施設ヘリポートにて輸送飛行隊リバティ・ゼロ・ワンが待機している』
『トリガー・ゼロ・ワンより本部。了解。直ちに移送を開始する』
ハンター・インターナショナルの無線通信が聞こえる。
「東雲。不味いぞ。ルナ・ラーウィルが逃げる」
「逃がすかよ。そう何度も逃げられてたまるかってんだ!」
東雲は一気に加速するとルナ・ラーウィルが確認された研究室に向けて突き進んだ。
「いたぞ。捕まえた!」
「トリガー・ゼロ・スリーよりトリガー・ゼロ・ワン! コンタクト!」
東雲の目にハンター・インターナショナルの警備部隊が映った。
「トリガー・ゼロ・ワンより全部隊。敵を牽制しつつ、要人を移送する。要人の生存が最優先だ。邪魔をさせるな!」
「了解!」
ハンター・インターナショナルの警備部隊はアーマードスーツ12体と強化外骨格を装備したコントラクター12名からなる部隊だった。
「敵は結構な規模だぞ! やれるか!?」
「やらなければ仕事は失敗だ」
「そうだな!」
八重野が答え、東雲が“月光”を高速回転させる。
「撃て、撃て。牽制しろ。敵を進ませるな」
ハンター・インターナショナルの警備部隊が銃撃を繰り広げる。
アーマードスーツの口径35ミリ電磁機関砲が全ての障害物を薙ぎ払うように掃射され、強化外骨格を装備したコントラクターたちは口径12.7ミリ電磁ライフルで東雲たちを正確に狙う。
「突っ込め、突っ込め! ルナ・ラーウィルを逃がすな!」
「クソ。電磁機関砲が面倒だ。あれに当たったらミンチだぞ」
「じゃあ、俺がぶっ壊してくるよ!」
セイレムがぼやくのに東雲がひとりでハンター・インターナショナルの警備部隊に向けて突貫した。
「突っ込んできただと!? サイバーサムライだとしても化け物だぞ!」
「撃ち殺せ! ミンチに変えてやれ!」
東雲に向けて銃撃が集中する。
「撃ってこいよ、クソ野郎ども! 相手になってやるぜ!」
東雲は“月光”を高速回転させつつ、アーマードスーツに向けて“月光”の刃を投射した。アーマードスーツに“月光”が突き刺さり、火花を散らして大破する。
「敵は不明のサイバネ兵器を使用している! 警戒せよ!」
「撃ちまくれ! 要人を脱出させるんだ!」
ハンター・インターナショナルの警備部隊は必死に廊下を走り回りながら肉薄してくる東雲を狙って撃ち続ける。
「東雲。援護する」
「おう、八重野。助かるぜ。連中は俺を狙うのに必死だ。アーマードスーツをぶった切ってやってくれ!」
「ああ」
東雲に続いて八重野がハンター・インターナショナルの警備部隊に突入し、“鯱食い”を振るって暴れ始めた。
「敵の脅威増大! 要人の避難は!?」
「要人は研究室を出た。屋上に向かっている!」
「時間を稼げ!」
ハンター・インターナショナルの警備部隊は要人──ルナ・ラーウィルを屋上まで護送する部隊と東雲たちを足止めする部隊に別れた。
「畜生。ルナ・ラーウィルが逃げる」
「逃がさん。絶対に逃がさない!」
東雲がぼやくのに八重野がそう言ってハンター・インターナショナルの警備部隊を無理やり突破していった。
「あの馬鹿! 呉、セイレム! 援護してくれ!」
「分かった!」
東雲がアーマードスーツを相手に“月光”を投射してアーマードスーツの火力を自分に引き付ける中で呉とセイレムが切り込む。
「トリガー・ゼロ・ワンより本部! 敵の攻撃が激しく対応不能! 援軍はまだなのか!?」
『本部よりトリガー・ゼロ・ワン。現在増援が向かっている。到着予定時刻は1642。持ちこたえろ』
「了解! 新型のサイバネ兵器を装備しているサイバーサムライを先に片付けろ! 火力を集中! 撃て!」
ハンター・インターナショナルの警備部隊は東雲に火力を集中する。
東雲の脇腹が消し飛び、左腕が吹っ飛ぶ。
「人を標的みたいにバカスカ撃ちやがって。くたばれ!」
アーマードスーツに向けて一斉に“月光”が投射される。
「アーマードスーツ、全滅です!」
「退避、退避! 一時撤退する!」
ハンター・インターナショナルの警備部隊が研究室に逃げ込もうとする。
「逃がすか」
だが、セイレムが回り込み、逃げようとするハンター・インターナショナルのコントラクターたちを引き裂いていった。
「オーケー。ここにいた連中は全滅。残りは八重野が追いかけてる。俺たちも」
「ああ。急ごう」
東雲が言うのに呉たちが続く。
その頃、八重野はルナ・ラーウィルを追い詰めていた。
「トリガー・ゼロ・ファイブより本部! 指揮官死亡、指揮官死亡! 指揮を引き継ぐ!」
「弾が当たらない! どうなってるんだ!?」
ハンター・インターナショナルの護送部隊は屋上に着陸しているティルトローター機にルナ・ラーウィルを乗り込ませ、離陸までの時間を稼いでいた。
「邪魔をするなっ!」
八重野はハンター・インターナショナルの護送部隊を殺しながらティルトローター機に向けて突撃する。
呪いの効果のためにいくら銃弾を叩き込もうと八重野は死なない。
「要人を脱出させろ! リバティ・ゼロ・ワン、離陸せよ!」
『リバティ・ゼロ・ワン、了解』
ティルトローター機がローターを回転させて離陸し始めた。
「逃がすものか!」
八重野はハンター・インターナショナルの護送部隊を皆殺しにして、離陸しようとしたティルトローター機に飛び乗った。
「クソ! 乗り込んできやがった!」
「振り落とせ!」
ティルトローター機内のハンター・インターナショナルのコントラクターが八重野を叩き落とそうと電磁ライフルを叩き込む。
「死ね」
八重野がハンター・インターナショナルのコントラクターたちの首を刎ね飛ばし、ティルトローター機内を進んでいく。
「ルナ・ラーウィル。捕まえたぞ」
八重野がティルトローター機内にいた女性に“鯱食い”を向ける。
「やれやれ。また面倒な人間に絡まれたな」
女性は両手を上げる。
女性の人種はユダヤ系で、六大多国籍企業の重役らしく、黒い髪を短くショートボブにして纏めていた。体にはブランド物、かつオーダーメイドのパンツスーツを纏っている。
「ティルトローター機に着陸するように言え」
「断る。お前は私に命令できる立場にはない。呪いを解いてほしいのだろう?」
「お前が死ねば呪いが解けることは分かっている」
「じゃあ、どうして殺さない?」
ルナ・ラーウィルが意地の悪い笑みを浮かべて八重野を見る。
「物事には手順というものがある」
「私が自分の研究している事象改変的現象について把握していないとでも思っていたのか? お前は反動を恐れているのだろう。これまで無理やり捻じ曲げて来た因果が牙を剥くことを恐れている」
「五月蠅い。ティルトローター機に着陸するように言え」
「お前に私は殺せない」
ルナ・ラーウィルが八重野を見て嘲るようにそう言った。
「パイロット! 着陸しないとこの女を殺す!」
「クソッタレ! 本部、本部! 輸送機がハイジャックされた!」
八重野がルナ・ラーウィルではなくティルトローター機のパイロットに向けて叫ぶのにパイロットは悪態をついてホバリングを続けた。
「いいから出せ。こいつに私は殺せない。はったりだ」
「黙れ。殺せないとしても手足を斬り落とすぐらいのことはできるんだぞ」
「ほう? やれるか? お前は医者ではない。器用なことができるかな?」
「このクソ野郎……」
八重野はルナ・ラーウィルを睨みつけた。
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