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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第3巻 逢魔時

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66話 服選び

「中間テストが終わったら、2人で水族館に行こう」


 一樹が蒼依を誘ったのは、協会長から話を聞いた翌日だった。

 正確には「仕事の打ち上げに行こう」なのだが、仕事の打ち上げと言えばガッカリ度合いが上がる。そのためデートと誤認される誘い方をした次第だ。

 俗に言う『陽キャ』ではない一樹は、誘って断わられると普通にへこむため、名目が無ければ誘い難い。

 豊川の労いは、丁度良い理由付けだった。


「はい、分かりました」


 動機も目的も問わず、蒼依はすんなりと承諾した。

 一樹にとっては、非常に有り難い対応だ。


「テスト後の土曜日かな。都合が悪ければ、日曜や翌週に変えても良い」


 蒼依の機嫌が良さそうだったので、誘い方の正しさを確信した一樹は、曜日を指定して自室に逃げ帰った。

 ちなみにデートは、男女が日時を決めて会う事である。

 一樹は自分を騙してみたが、結局のところデートに誘った次第であった。


(世の中の陽キャは、良く平然とデートに誘えるな)


 莫大なエネルギーコストを消費して、自室でベッドに倒れ込んだ一樹は、30分ほどゴロゴロと転がった。

 人には、得手不得手がある。一樹にとっては、女子をデートに誘うよりも、大鬼を1体倒す方がよほど楽なのだ。

 仕事の打ち上げであるため、別日には沙羅を労わないといけないが、沙羅は絶対に断わらないと分かっているので、多少は気が楽ではある。それでも誘うのは大変だが。


 なお水族館を選択したのは、高度な情報収集の結果だ。

 一樹が閲覧したインターネットのサイトによれば、女性が行きたいデートスポットは、1位がレストラン、2位が動物園や水族館、3位が映画館であった。

 どれくらいの女性を対象に集計を行ったのかは、全く書かれていなかった。そして閲覧者がコメントを載せる事も、一切出来ない仕様だった。

 それでも検索で1ページ目に表示されたため、一樹は正しいのだろうと信じた。


(多分、合っているのだろう)


 信じる者は救われる。

 ちなみに、同じく1ページ目に表示された別のサイトによれば、人気1位は遊園地であった。だが遊園地は人が多すぎて大変なため、一樹は自分にとって都合の良いサイトを選択した次第だ。

 1位のレストランと、2位の水族館を兼ねれば、完璧であろう。

 動物園を選択しなかったのは、猫島に誘った事があるためだ。その時は、猫カフェが良いというサイトを見た記憶もある。

 無意味にゴロゴロと転がり続けた一樹は、やがて気力を回復させて、自室のパソコンでインターネットを閲覧した。

 同時にアドバイザーとして、水仙も喚び出す。


『水仙、ちょっと手伝ってくれ』


 式神の水仙は、蒼依の家に自室を持っている。『ダーリンと同室で良いのかな』と呟いた結果として、蒼依から部屋をもぎ取ったのだ。

 その代わり、一樹に呼ばれた時しか2階に上がれない事になっている。


『えー、スマホでゲームしていたのに』


 一樹に呼ばれた水仙は、渋々と応じて2階に上がってきた。


「何のゲームをしているんだ……いや、それは良いから手伝え。服選びだ」


 水族館へ赴くに際して、まさか学校のブレザーや、妖怪退治に着ていく陰陽師の正装を着ていくわけにも行かない。

 何かしら探さなければならないが、生憎と一樹にはセンスが無いのだ。

 一樹はYouTubeのチャンネル登録者数が多いので、彼らに相談すれば、二股や三股の猛者も居るかも知れない。

 だがデートで着ていく服を教えて下さいと書いたなら、爆速で世界へ拡散されるに決まっている。

 おそらく『友達の話なのですが……』と、前置きして相談したところで、ネットの有識者からは10秒でバレるだろう。

 そのため、やむを得ず水仙に相談する事にした。


 そもそもイケメンや美女は、何を着てもイケメンや美女である。

 筋肉マッスルなイケメンのアメリカ人は、無地のインナーシャツを着ていても、やはりイケメンのアメリカ人だ。

 よほど服装が酷くて、『働いたら負け』という文字が入った白いTシャツでも着ていれば、いかに容姿が優れていても誤魔化せないかもしれない。

 あるいは女性で、二十余年前に、渋谷などでコギャル文化から発展して流行った伝説の「ガングロ」や「ヤマンバ」の姿であれば、可愛い以前の問題だろう。

 ガングロやヤマンバとは、当時のファッションの1つだ。

 肌を黒人のように黒くして、口紅やアイシャドウは明るくして、髪はオレンジやシルバー、ブロンドなど派手な色合いにする。

 服装は、ミニスカートに薄いヒラヒラの上着。沢山の指輪やネックレス、ブレスレットを付けて派手に見せる。

 そしてガングロのヤマンバは集団で、大都会を闊歩したのだ。

 まさに異世界ファンタジーの世界である。


 当時のヤマンバ達は、何を目指していたのだろうか。

 現代を生きる一樹には、全く見当も付かない。そして蒼依の祖母の山姥に聞いても、分からないと答えるだろう。

 一樹が容易に思い付く理由としては、周りに合わせる日本人が、友達がやったから自分も合わせて……と、ウイルスに感染するように広がっていった可能性がある。

 あるいは、男避けでやっていた可能性も拭えない。

 基本的に普通の男性は、ガングロやヤマンバを見ると、警戒感や忌避感を抱き、性欲が減退する。

 それは自然界において、蛍光色や派手な色合いのカエルを見て、有毒性を想像するのに近い。本能が『コレを食べると腹を下す』と、危険性を訴えるのだ。

 ヤマンバと普通の娘が居れば、注目を浴びるのはヤマンバで間違いないが、モテるのは普通の娘である。


(完全武装したヤマンバだと、本当の容姿が分からない。化粧を落としたら、もしかしたら美人かもしれないと期待させる、ガチャシステムか?)


 現代のソーシャルゲーム、通称ソシャゲで、ランダムにアイテムが出てくる課金システムの『ガチャ』を先取りしたのが、当時の女子高生のヤマンバなのだろうか。

 水仙がゲームをしていると聞いた一樹が、おかしな妄想に進んでいたところ、ゲームを終えた水仙が2階にやってきた。

 現実に帰ってきた一樹は、水仙に質した。


「蒼依と水族館に行く。服装や如何に」

「はぁ、ダーリン、そんな事で呼んだの」


 水仙は、使役者に対する尊敬の念が皆無な瞳で一樹を見詰めた後、自説を唱えた。


「TPOって分かるかな。カレーに福神漬けは合うけれど、きんぴらゴボウは合わないでしょう。奇抜な格好はしないで、水族館に合った清潔で、高くない服を1着買えば良いだけじゃない」

「なんで高くない服なんだ」

「デートで服は、女性側が主役でしょう。男性が勝ってどうするの」


 水仙の指摘は、至極尤もだった。

 服選びで蒼依に勝ったところで、誰にとっても意味など無い。一樹の役割は、蒼依を褒める事である。


「逆に相手を振りたければ、奇抜な格好で行くと良いよ。貴女とデートする気は有りませんって意味になるから。女性が初デートでズボンを穿く時も、意図的か否かは別として、脈無しって意思表示だからね」

「なるほど、それはテレビで見た気もする」


 水仙の説明に対して、一樹は大いに納得した。


「ちゃんと若い男性用の専門店もあるし、忙しくない時間帯に行けば相談できると思うけれど、一見さんだと、売れ残りを処分しようとする事もあるからなぁ」


 そう言いながら、水仙はパソコンのキーボードとマウスを操り、服の販売サイトを探し始めた。

 検索ワードは『格好良い服 10代 メンズ』である。

 すると検索に出たページには、お洒落のシルエットが乗っていた。


 Iラインは、上下ともに細身で、万人受けの印象を与える。

 Yラインは、上がボリュームで下が細身で、大人らしく見える。

 Aラインは、上が細身で下がボリュームで、男らしく見える。


 崩してラフすぎても、キッチリしたスーツのような形でも良くなくて、バランスが大事とされている。

 上下の色の組み合わせは、白黒グレーの無彩色のみか、それに1つないし2つを合わせるのがお勧めであるようだ。


「ズボンは黒がお勧めかな。足が長くて格好良く見えるよ」

「そんなものなのか」

「そうだよ。下が黒い代わりに、上は明るめにして。靴は、お洒落なキャンバスシューズ、大人用のシンプルなスニーカー、クールなレザーシューズを服に合わせて」

「靴まで必要なのか」


 一樹が驚愕したところ、水仙は呆れた表情を浮かべた。


「女子は、10倍くらい考えているからね」

「マジか」


 水仙に恐れ入った一樹は、言われるが儘、お勧めの服をネットで発注した。

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― 新着の感想 ―
ウィルス感染と警戒色の話、面白かったです
[一言] 化粧は元々戦場に措いて敵を威嚇したり自身や味方を鼓舞する為のものだったなんて話もあるし、きっとマンバ達もナニカと戦ってたんだよ。 カレーにきんぴらごぼうは有り
[良い点] 水仙は救い主。こういう時に相談出来る有り難みよ。 [一言] ヤマンバは今だと考えられんな。やっぱり周囲に対する威圧とかだったのかね。男の特攻服みたいな。
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