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【8巻4/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第8巻 温羅伝説

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228話 桃太郎の原典

「同好会で打ち合せをするのですか」

「集まるのが楽だろう」


 鬼退治を依頼された翌日、一樹は同好会室で、鬼退治の打ち合せを行った。

 陰陽同好会が使用している多目的室Dは、二年生の専用室になっている。

 個人の席があって、パソコンが置かれており、ネット環境が整っている。

 香苗は困惑したが、必要なメンバーが揃っている上に、相川家に集まるよりも蒼依の機嫌が悪くならない。

 そして、もう1人も招きやすかった。


「凪紗も参加させるのですね」


 D室には、1年生である凪紗の姿もあった。


「凪紗は、高校から俺の事務所のアルバイトをしてくれることになっている。B級陰陽師で、五鬼童の術を使えて、見鬼にも優れている。今回も参加してもらう」


 凪紗の進学先とアルバイトは、五鬼王の捜索に協力を求めた対価だ。

 凪紗は先祖返りが強すぎて、人から突出してしまい、疎外感を持っていた。

 そんな凪紗にとって、A級陰陽師、凪紗の力を上回った姉、二尾の妖狐、龍神の娘、女神1柱が集うD室は、疎外感を持たずに済む環境ではないか。

 凪紗を招いた一樹は、そのように現状を認識していた。


「よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしく」


 凪紗は近接戦闘に優れるが、空を飛べて、鬼火による遠距離攻撃も可能だ。

 鬼神の強靱さと、大天狗の術を併せ持ち、苦手分野が無い。

 山魈のような特別な状況を除けば、連れて行っても足手纏いになることはない。


「戦力的には、むしろ柚葉のほうが厳しい。だけど強運だから、御守り代わりに連れて行く」

「連れて行くなら、最初から素直に言って下さい!」


 一樹と柚葉が言い合っている間、凪紗は上品に、沙羅の隣の席へと座った。


 ――流石、お嬢様学校の卿華女学院出身。


 感心した一樹は、卿華女学院に通っている妹を思い出した。

 全員が着席したことを確認した後、徐ろに口を開く。


「今回の依頼は、岡山県支部から『対応不能』と報告があった鬼の調伏だ。本部で検討した結果、俺の事務所に任されることになった」


 都道府県支部には、繰り上がりを含めたB級の統括陰陽師が配置されている。

 各地の統括は、C級までの妖怪であれば、本部に頼らずに様々な手段で解決を図る。実力的にはC級上位でも、肩書きはB級なのだから、C級妖怪で本部を頼るのは恥だと考える。

 そんな統括が、本部に頼っても恥にならない相手は、B級以上だけだ。

 そして本部にも体面があるので、B級妖怪が相手の場合は、同時に2人以上のA級は送らない。


「宇賀様は、俺と蒼依姫命を同時に出すように言った。本部が複数のA級を同時に派遣するのは、相手がA級以上に限る。過去には槐の邪神で、豊川様と俺が同時に派遣されている」


 前置きした一樹が、各自に資料を配付した。

 書かれているのは、岡山県支部が報告してきた鬼の情報だ。

 蒼依が特に目を引かれたのは、『桃太郎伝説について』という項目だった。


「相手は、桃太郎の鬼なのですか」

「正確には、桃太郎伝説の原型になった鬼神だ。現代の桃太郎は、元の話とは大きく異なる」

「どのように異なるのでしょう」

「そうだな。まず桃太郎は、桃からは生まれてこない」

「えーっ」


 一樹の説明を聞いた柚葉が、抗議の声を上げた。


 現代の桃太郎は、お爺さんが山へ芝刈りに、お婆さんが川へ洗濯に行った時に、川から桃が流れてくることで始まる物語だ。

 お婆さんが桃を割ると、桃から赤子が出てきた。桃から生まれたので『桃太郎』と名付けられた桃太郎は、子供がいなかったお爺さんとお婆さんに育てられる。

 やがて成長した桃太郎は、人々を困らせる鬼を退治しに行くことを決意する。

 そしてお婆さんが拵えてくれたきびだんごで、犬、猿、雉をお供に加える。鬼ヶ島に辿り着いた桃太郎は、鬼退治を行って、鬼の宝を持ち帰って幸せになった。


「桃から生まれなかったら、桃太郎じゃないですよね」


 柚葉の指摘は、至極もっともだ。

 桃から生まれてこなければ、それは桃太郎ではない。

 それでは一体、何太郎になってしまうのか。


「そもそも最初の物語を記した本は、桃太郎というタイトルではなかった」

「桃太郎のほうが有名ですよね。元の話も、桃太郎に変えたほうが良いんじゃないですか」

「確かに元の話よりも、桃太郎のほうが有名かもしれないな」


 何かを元にした話が、原典よりも有名になることは、往々にしてある。

 現代の桃太郎は、1887年に国定教科書へ採用された『標準型』といわれる内容だ。

 明治時代に教科書へ採用されて、歌にもなり、絵本で読み聞かせられるようになった。

 標準型の桃太郎を知らない日本人は、皆無に近い。

 その反面、原典の内容を知る者は、あまり居ない。


「ちなみに、元の物語が書かれた本は、奈良時代の『日本書紀』だ」

「え゛っ」


 日本書紀(720年)は、古事記(712年)と共に、日本最古の歴史書と知られる。

 古事記には、神話時代や天皇家の歴史が記される。

 日本書紀には、国家の歴史が紀される。

 その名の通り、古事記には古事が記され、日本書紀には日本が書紀されている。


「柚葉は、『日本書紀』のタイトルを『原典・桃太郎』に変えたいか?」

「ええとぉ、原作って大切ですよね」


 柚葉は目を逸らして、不遜すぎる提案を取り下げた。

 そんな国家の歴史が記された日本書紀には、次の記載がある。


 第10代・崇神天皇の時代、百済(朝鮮半島西部)から来た温羅うらという鬼が、吉備国(岡山県全域など)の新山(吉備郡阿曽村)に鬼の城を造り、暴虐の限りを尽くしていた。

 四道将軍の一人にして、北陸、東海、西道、丹波のうち山陽道の西道に派遣された吉備津彦は、吉備の中山に宮を建て、片岡山に石楯を築き決戦に備えた。

 そしてある時、吉備津彦の家来である楽々森彦(ささもりひこ)が、温羅の配下を殺した。それが切っ掛けで、両陣営の戦いが始まった。

 鬼が襲い掛かり、吉備津彦の軍勢が弓で応戦する。

 互いに陣地を持っており、決着は容易には着かなかった。

 やがて住吉明神(イザナギが黄泉国の汚穢を洗い清める禊を行った時に生まれた神々)の牧童が現れて、「鬼を滅ぼすには、二筋の矢を一度に放つべし」と助言を与えた。

 助言に従った吉備津彦が二本の大矢を射ると、一本は敵方の矢と食い合い、もう一本が温羅の胸に命中した。負傷した温羅は、鯉に変じて川に逃げたが、鵜に変じた吉備津彦に咥え上げられて、トドメを刺された。

 だが温羅の猛威は、死してなお残り、鳴釜神事の由来となった。


「それって、桃太郎と同じ鬼なのですか?」


 香苗が問うのも当然と思えるほど、桃太郎の物語との違いは大きい。

 同じ鬼退治で、場所も吉備国であるが、それだけでは同じ話とは思えない。

 だが犬、猿、雉のモデルになった家来は実在する。


「吉備津彦には、犬、猿、雉のモデルになった家来が居る。犬飼健いぬかいたける、楽々森彦、留玉臣とめたまおみといって、犬飼健は、第29代内閣総理大臣だった犬養毅の祖先だ」

「子孫が、総理大臣なのですか」

「そうだ。犬養毅は、五・一五事件で、陸海軍の青年将校に殺害された総理だ」


 意外な話に香苗が驚いた。

 総理大臣の祖先と伝えられたのであれば、日本中の専門家が、様々に確認したはずだ。

 それで粗が出なかったのだから、桃太郎の原典とされる話には、根拠の一つが加わる。

 なお総理大臣ほどに高名ではないが、猿と雉の子孫も居る。


「吉備津彦が片岡山に石楯を築き決戦に備えたという『楯築遺跡』は、片岡山古墳が存在する。鬼の城も『鬼ノ城(きのじょう)』が実在して、両地点は10キロメートルほど離れている」

「徒歩が移動手段なら、妥当な距離ですね」


 当時の道は、現代とは比べものにならないくらいの悪路だ。

 直線で行けるはずもなく、大勢が武器を持って移動する場合、日帰りでの往復は難しい。また、丘の上に構築したのであれば、大軍が接近してくれば発見できる。

 陣地を構築するには、絶妙な距離だった。


「鬼ノ城は、古代朝鮮式の山城で、朝鮮半島から伝わった製鉄場所もある。温羅が百済から来た話は、それが根拠なのだろう。吉備津彦命が鬼退治で持ち帰れた宝は、略奪品と製鉄技術だな」


 朝鮮半島から製鉄技術が入ってきたことは、考古学で確認されている。

 四道将軍の派遣も、ヤマト王権が地方を平定していった史実だ。派遣された将軍達は、従わない地方の敵を戦って打ち倒し、帰順させて、凱旋した。


「……きびだんごは?」

「モデルになった家来達は重用されて、現代にも沢山の子孫が居る。それが報酬だ」


 それらが、桃太郎伝説の原典である。

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>そんな凪紗にとって、A級陰陽師、凪紗の力を上回った姉、二尾の妖狐、龍神の娘、女神1柱が集うD室は、疎外感を持たずに済む環境ではないか。 逆に埋もれそうな面子だもんな。 原典は現実的過ぎて面白くない…
鬼の捕虜の中に五鬼童家のご先祖様もいたりして
桃太郎の鬼退治伝説も島、酒呑童子を退治する源頼光の伝説での舞台になる大江山も舞鶴の北で海に突き出た半島みたいなところ。 鬼とは大陸から渡ってきた技術力があり武力に優れる中国人のことで、それが日本国内に…
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