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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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167話 逆転の発想

 常任理事が御所市に参集した翌々日。

 魔王支配地域の南に位置する静岡県の裾野市に、一樹の姿はあった。


『魔王の配下が各地に分散しているのを逆手にとって、魔王を強襲するわ』


 それこそが宇賀の提案した、大胆すぎる打開策だった。

 8月中旬に交戦した荒ラ獅子魔王は、9月下旬に利き腕を使えなくなっていた。

 月単位の時間を挟んで腕を使えないのだから、かなりの深手を負ったと考えられる。

 宇賀が右肩にフルオロアンチモン酸を掛け、良房が右手を噛み裂き、一樹が神気で追い打ちを掛けている。


 おそらく、単純な骨折などではないだろう。

 しかも魔王は、現代医学の治療を受けられない。

 そのため現時点でも、万全の状態には戻っていないと考えられる。

 だが時間を置くと、自然に回復したり、配下が呪力を集めて回復させたりするかもしれない。


『今なら弱っているけれど、あまり時間を置くと、魔王が回復するかもしれないわ』


 魔王が回復すれば、増えた配下と合わせて、協会の手に余る。

 今であれば、花咲家の犬神が強化されて、常任理事の呪力だけでも魔王が万全の状態に並んだ。さらに豊川の霊狐召喚、羽団扇を手に入れた五鬼童など、魔王を上回る力もある。

 また羅刹については、父親を羅刹に殺された堀河が、A級中位の赤牛を召喚して対抗できる。

 だから今、配下と分かれているタイミングで、強襲作戦を決行するに至ったのだ。


 一樹達は後続で、B級の堀河が運転する車で国道246号線を進み、御殿場市へ向かう最中だ。前衛の上級陰陽師達は、すでに先行している。

 車に同乗しているのは、一樹と小太郎、晴也と堀河、それに蒼依と沙羅だった。

 人間のほかも数えるならば、八咫烏達も乗っている。

 合流した際、八咫烏達が蒼依に懐いているのを見た晴也は、暫く考え込んでから呟いた。


「あの時の事務所員が、噂の女神さんやったとはな」


 あの時とは、氷柱女の救命で湯沢市の温泉旅館に赴いた時のことだろう。

 一樹が同行させたのは蒼依と沙羅で、蒼依は一樹の事務所員を名乗っていた。

 一瞬だけ誤魔化すことも考えたが、使役者の一樹に対するよりも懐いていることから、蒼依が八咫烏達を神使とする女神なのは一目瞭然だ。

 今回の蒼依は、一樹の護衛を兼ねていることもあって、情報共有が必要と考えた一樹は肯定した。


「今も事務所員だが、協会が認めた女神様でもある」

「「クワッ」」


 蒼依の傍に居た八咫烏達が、肯定するように鳴いた。


「どこで知り合ぉたんや」

「調伏の依頼だ」

「さよか、流石は賀茂家やな」


 A級に至った一樹の実力に相応しいと考えたのか、晴也は得心した様子だった。

 実態は異なるが、一樹は軽く受け流した。蒼依の祖母など色々と込み入った事情があるために、わざわざ否定して詳細に説明する話でもない。

 晴也と話をしていると、晴也が女神に注目したことに嫉妬したキヨが、姿を現した。

 晴也が口を噤んだのを見た一樹は、言葉を途切れて気まずい雰囲気を作らないよう、率先してキヨに挨拶した。


「キヨさん、ご無沙汰しています」

「はい。いつも夫が、お世話になっております」


 霊体のキヨは、車内で晴也の身体にしなだれながら、一樹に答えた。

 キヨが悪霊であるか否かはさておき、取り憑いた霊であることは疑いようもない。

 もっとも、最初にキヨをナンパしたのは晴也であるが。


「こちらこそ助かっています。今回も依頼を受けて頂き、ありがとうございました」

「協会の方々の依頼ですから」


 キヨはニコニコと、笑顔で応じた。

 晴也は常任理事ではないし、羅刹が親の仇というわけでもない。

 だが協会は、キヨとの結婚を段取りし、新居を与えて、次の京都府統括陰陽師の地位も用意した。また前回の強行偵察では、報酬に大金を用意し、晴也の社会的地位も確固たるものとしている。

 協会はキヨの力に期待して、色々と手を尽くしてきた。

 それらが実を結んで、護衛依頼を受けてもらえた次第だ。


 ――安倍家は安泰かな。


 晴也とキヨの間に子が生まれた場合、安倍家で白蛇の半々妖でもある子は陰陽師に成るだろうし、キヨが憑いて守るだろう。

 すると晴也の次代以降も、安倍家は陰陽大家であり続ける。

 そのうちキヨは満足して成仏するかもしれないが、それまでの間に安倍家は、京都府の陰陽大家という立場を確立させる。

 めでたし、めでたしである。


 そんなキヨを加えた今回の作戦は、すでに開始されている。

 一樹達の車内に、協会長が出した式神の観測員からの報告が、流れてきた。


『召喚された霊狐隊、東西に分かれて北上を開始しました』


 先行していた豊川が召喚した1000体の霊狐が、御殿場市の南端から走り始めた。

 異界から護法神を喚び出す召喚は、呪力の代わりに捧げ物を用いても良い。豊川は呪力の消費を抑えながら、強力な霊狐達を大量に召喚できる術を持っている。

 呪力消費を抑えるためには対価が必要で、多用は出来ないが、三尾の良房を呼ぶだけでもA級上位が1人増える。残る999体の霊狐も手練れで、豊川だけで大戦力が揃う。

 宇賀が勝てると踏んだ所以の一つだ


『霊狐隊、進路上の煙鬼を掃討しながら、御殿場市の包囲網を形成していきます』


 霊狐達の強さは、煙鬼とは比ぶべくもない。

 何れも地狐ないし気狐で、生前に数百歳を数え、仙術を学び、戦ったこともある者達だという。

 千体の霊狐が使う武器や術は様々だが、何れも各々の武器を手足のように扱い、煙を斬るように進路上の煙鬼を薙ぎ払っていく。

 そして進路から外れる煙鬼は、相手にもしない。


「俺も犬神を出したほうが良いか」


 車に同乗する小太郎が、序列で後続の隊長を務める一樹に確認した。


 先代の花咲を羅刹に殺された協会は、前衛向きではない人員を最後方に配置している。

 小太郎と堀河は、親の仇である羅刹が出れば、犬神や赤牛を出して調伏する。

 堀河を優先的に向かわせるのは、羅刹を倒す願掛けを成就させて、今後にも期待したいからだ。そのためキヨは、犬神と赤牛を向かわせた、無防備な小太郎と堀河の護衛を担う。

 そして一樹が式神で先発と後続を同時にカバーし、蒼依が一樹を護衛して、沙羅が回復する。

 後続に期待されている役割は、早期に羅刹を撃破して、魔王の調伏に加勢することだ。


「不意打ち作戦に参加したのは、俺達のほかには、A級、五鬼童、春日だけだ。煙鬼程度は、身に纏う呪力で弾き飛ばせる。呪力の消費はしないでくれ」


 作戦には、五鬼童家と春日家も加わっている。

 A級下位の五鬼童義輔。

 B級上位の春日弥生、五鬼童義友、五鬼童凪紗、春日結月、五鬼童風花。

 一族の全滅を避けるために、五鬼童本家と分家、春日家から1人ずつが、作戦を外れている。

 だがB級上位5名はA級中位1名に匹敵するので、A級4位の五鬼童も、2人分が作戦に参加しているようなものだ。

 五鬼童と春日の加勢も、宇賀が勝てると踏んだ所以の一つである。

 そして今回の作戦には、煙鬼程度が障害になるような者は参加していない。


「一番弱いのが俺か」

「小太郎は強いだろう。A級中位の犬神を相手にして、無事で済む奴は居ない。それで羅刹を確実に倒してくれ」

「了解した」


 参加者を絞って強行したのは、情報が漏れることを心配したからだ。

 人間に知らせると、魔王が潜り込ませた配下や使い魔から、情報が漏れる危険性がある。

 上級陰陽師は情報を漏らさないかもしれないが、事務所の事務員はどうだろうか。

 宇賀が魔王陣営の幹部であれば、上級陰陽師の事務所の事務員の家族を人質に取って、事務員を脅して情報を流させるくらいは思い付く。

 宇賀の「不意打ちは、不意に打つから効果的なのよ」という至極もっともな言い分により、常任理事、五鬼童と春日、晴也と堀河に参加者を絞って、強襲作戦を行ったのだ。

 五鬼童と春日は魔王戦に従事してきて、情報が漏れていない。

 晴也と堀河も、9月に強行偵察を行って、不意を突いた実績がある。

 今回の不意打ちは、それくらい情報の秘匿が徹底されていた。


『東西に分かれて北上した霊狐の一部が、北の小山町で合流。霧が発生している半径5キロメートルの包囲網、完成しました』


 半径5キロメートルの範囲内には、標高1212メートルの金時山の西側も含んでおり、平坦ではない包囲になっている。

 まるで疲れる素振りも見せず、斜面を駆け抜けた霊狐達は、御殿場市を覆う霧に相対した。

 その上空を、羽団扇を持った大天狗達が飛んでいく。

 A級の前衛達も、戦力が均等になるように移動した。


 北は、飛べて最速の義一郎。

 東は、水場があるので宇賀。

 西は、広いので足の速い豊川。

 南は、魔王と後続の間なので諏訪。

 予備兵力として、協会長の向井が自由行動する。


 天と地の包囲が完成すると、天空の大天狗達と、千の霊狐が身構えた。

 すると空からは羽団扇を起点に、6ヵ所で霊毒が生み出されて降り注ぎ、地上からは千の狐火が生み出されて、蜃が生み出す霧を焼き始めた。


『攻撃開始』


 術を放った天狗と霊狐の目的は、霧を発生させている蜃の術との相殺だ。

 蜃はA級と目されるが、その力はA級上位の良房だけでも相殺できる。さらに999体の霊狐と、羽団扇を持つ天狗6人が加われば、確実に術は解ける。

 もしも霧を維持したければ、使役者である魔王が、呪力を消費しなければならない。

 だが総呪力では、今回の作戦に投入された陰陽師側が、上回っている。

 このまま魔王が隠れ続け、陰陽師側が霧を消し続ければ、いずれ呪力を失った無力な魔王が現れるだろう。


 ――もちろん、そんなことは有り得ない。


 やがて協会の予想通り、蜃が生み出した霧が晴れて、その中心に巨大な獅子鬼が姿を現した。

 そして傍らには、醜悪な黒鬼と、黒鬼に匹敵する大きさの藍色の肌を持った鬼神が控えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり魔王強襲作戦でしたか。まぁ、このまま回復されたらジリジリ相手側が有利になるのは目に見えてますからねぇ。 一大決戦!果たして勝つのはどちらか!? そして勝てたとしても被害は出ないのか。…
[良い点] 魔王くんは、そこそこで見捨てられるだろうなあ。 [気になる点] 倒せば、使役してる強化されて A下→中 B上→A下にはなりそうですね。いまさらC上にしかならん八咫烏量産してもなあ。霊体で…
[一言] フラグが連呼されてて怪しすぎるw でもこれで痛打出来ずに敗北したら魔王二柱になって日本終了のお知らせになるから主人公が何とかして欲しいなあ。 まさしく日本の命運を賭けた闘い、楽しみにしていま…
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