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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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165話 白黒無常

『戦力に余裕が無いから、工夫して頂戴』


 無常鬼の出現を報告した一樹に対して、宇賀は頼もしからざる返答をした。

 現在の協会は、魔王対策を行うと同時に、各地のA級妖怪にも対応している。

 魔王一体でも、A級全員を振り向けたい。

 そのため余裕など、最初から無い。


「山魈が、出ているのでしたか」

玃猿かくえんも、確認したわよ。りんの手は塞がっているし、会長には五鬼童のサポートが必要ね』


 山魈と玃猿は、いずれも山の妖怪だ。

 山の精ともされる山魈は、槐の邪神を厄介にしたような存在である。

 玃猿は無数の眷属を使い、霊狐を投じる豊川のような戦いをする。

 前者は、妖狸の血を引いた協会長の向井。後者は、妖狐の豊川が抑えている。そして戦力不足の協会長のところに、大天狗の子孫でもある五鬼童が加勢している。


 現人神の諏訪は、肉体に掛かる負担が大きいために、伝家の宝刀だ。

 呪力が少ない小太郎は、魔王領の煙鬼を犬神に喰わせて、回復させながら戦っている。

 宇賀は、小太郎が魔王領で活動する際の護衛である。そうしなければ、羅刹が飛んできた場合、小太郎が父親の二の舞になる。


「増援は、無しですか?」

『増援には、五鬼童の当主を送るわ。あとは復活できる式神を使って、遠方から安全に戦って頂戴』

「本当に余裕が無いのですね」

『対策は考えるけれど、差し当たって貴方は、無常鬼を追い払っておいて』


 宇賀が直接戦闘を避けさせたのは、A級中位2人同士で、戦力が競っているからだろう。

 もちろん一樹は、指示されたところで、A級中位の2対2で直接戦うような真似はしない。

 安全な場所から式神を投じるのは、最善手だ。

 一樹が使える呪力は、閻魔大王の神気がS級下位分と、龍神の龍気がS級下位の半分だ。A級中位が20万とすれば、呪力だけであれば7.5倍の150万を使える。

 それを以て牛太郎と信君、水仙と鎌鼬3柱を回復させながら突撃させれば、A級中位の無常鬼1体は抑え込める。

 増援の義一郎も、A級中位の面々では最強で、無常鬼1体とは相対できるだろう。

 またA級下位分の呪力を持つ沙羅が、薬師如来と虚空蔵菩薩の力を宿した羽団扇を使って、回復もさせられる。


 だから一樹は引き受けるつもりだが、これで無常鬼を倒せるかと問われれば、難しいと思わざるを得なかった。

 中国で『鬼』とは、死霊のことである。

 そして相手が出るのは、霊にとって力が増す夜だ。

 A級中位の霊が、有利な時間に本気で逃げに徹した場合、A級下位でしかない一樹の式神では追い切れない。義一郎に単独で追わせるのも危険である。


「痛め付けて追い返す程度になりそうです」

『それで良いわよ。安全に徹して頂戴』

「かしこまりました」


 蒼依や八咫烏達に回す呪力が殆ど無くなった一樹は、S級下位分ほど、呪力に余裕がある。

 新たな式神を増やそうかと考えて、かつて倒した天津鰐を思い出して頭を振った。どれほど強くても、術者との相性が悪ければ、良い結果にはならない。

 であれば八咫烏でも増やして、低コストで大軍団を揃えれば良いのか。

 日本中で小鬼を追い回す八咫烏達の群れを想像したところで、一樹は妄想を打ち切った。


 ◇◇◇◇◇◇


 土曜日の夜。

 休校日で体調を整えた一樹達と義一郎が合流して、天空の社から作戦が開始された。


「八咫烏が導き手なのは、神話のとおりだね」


 翼を広げた義一郎は、使役者の一樹と、八咫烏達を神使にする蒼依を交互に見渡した。

 八咫烏には、神武天皇を大和まで導いた神話がある。

 当時とは異なる個体で、使わす神も異なるが、八咫烏が目的地まで導くのは神話通りだ。


「ここから都内に、式神を顕現させられるという事で良いね」

「はい。現在の都内は、独占的では無いにしろ、蒼依の神域です。その範囲内で、視界に映れば、気が繋がる私の呪力も送れます」


 だから天空の社を拠点として、調伏を行うのだ。

 一樹と蒼依が頷き合うと、義一郎は了解した。


「結構。それでは調伏を開始する」


 一樹と義一郎が打ち合せを終えると、八咫烏達が天空櫓から飛び立った。

 その後を義一郎が追って飛び、回復の沙羅が、少し遅れて追いかける。

 蒼依は呪力の中継役で傍に居て、配置は完了だ。

 もっと圧倒的に有利な状況で戦いたいという思いを飲み込みつつ、一樹は目蓋を閉じて、意識を集中させた。


 蒼依姫命の神域は、蒼依にとっては自身の皮膚のようなものだ。

 神域には呪力を感知する受容器があって、受け取った感覚を社に報告する。

 天空の社から離れて、信仰が薄くなるほど感覚を掴み難くなるが、大きな不調であれば捉え易い。蒼依の気の流れを阻害しており、違和感があるといった場所が、敵対する妖怪の居場所だ。


『あれだな』


 小さな呪力という、無数の砂粒で埋め尽くされた東京の砂漠に、ポツンと底なし沼があった。

 黒い沼の中心には、眩い輝きを放つ白いネオンも並立している。

 まったく隠す気が無い二つの光に向かって、八咫烏達が飛んでいった。


 場所は、東京に隣接する千葉県松戸市の霊園だった。

 距離は16キロメートルほどで、蒼依の神域の範囲内だが、都内に比べて及ぼす効果は薄くなる。さらに霊園には無数の墓があって、死神にとっては、ホームで戦うようなものだ。


 ――嫌な場所で待ち構えているな。


 想定できるのは、成仏していない霊を手駒や回復手段に使われることだ。

 武器や盾に使われる人魂を薙ぎ払うのは、あまり気分の良いことでは無い。

 だからといって攻撃を躊躇うべきではないので、そのまま操られるよりは、成仏させたほうがマシだろうと思うしかないが。


『お前達は、突撃するなよ……牛太郎、信君、水仙、神転、神斬、神治』


 八咫烏達を制止した一樹は、義一郎の到着前に、式神を霊園に顕現させた。

 すると巨大な牛鬼、戦国時代の侍、絡新婦、鎌鼬が、次々と霊園に姿を現していく。

 顕現した式神達は、前方に浮かび上がった白黒の霊に向かい合った。


 無常鬼の正装は、二尺ほどの幘巾さくきんという頭巾を被り、白や黒の喪服を着て、草履を履き、手には破れた芭蕉扇を持つという。

 また肩には、霊を供養する際に焼いて冥府に送る『紙銭』を掛けているという。

 現れた白黒無常は、芭蕉扇と紙銭こそ見当たらなかったものの、幘巾や喪服は一致していた。

 白爺のほうは、白い顔で舌を伸ばしている。

 黒爺のほうは、青黒い顔をしている。

 そして両爺は水仙に注目した後、白いほうが破顔し、黒いほうが額に皺を寄せた。


「おやおや、おや。これは、これは、どうしたものでしょう」

「ちっ、確認せねば、分かるまい」


 おかしな反応を示した両爺の様子に、一樹は攻撃命令を躊躇った。

 その間に義一郎が合流したが、白爺は構わずに問う。


「絡新婦のお嬢さん。祖父か曾祖父辺りに、悪魔が居ませんかな」

「ボクのことかな。祖父が悪魔と聞いているけれど?」

「ほうほうほう。すると母親や姉妹は、青森県の近くに居て、白や黒ではありませんかな」

「母が黒で、伯母が白だけど。つまり黒い死神のほうは、ボクのお爺さんなのかな」

「ほっほっほっ」


 白爺が笑い、黒爺が口をへの字に曲げた。

 両爺の様子からは、水仙が尋ねたことが事実であると推察できた。

 式神達と呪力で繋がる一樹は、得た情報から、魔王陣営の企図に思考を巡らせる。


 阿弥陀如来に倒された魔王陣営は、かつてに比べて戦力不足だ。

 だから悪魔を増やして、将来的に手駒を回復する目的があったのだとすれば、一樹の理解が及ぶ。蜘蛛で子沢山、子孫を残すことを優先する絡新婦など、絶好の相手だろう。

 あるいは人間の戦力を分散させる目的でも、絡新婦が増えれば協会は対応せざるを得ないので、効果はある。


「それでお嬢さん、ご家族は?」

「もう調伏されたよ。ボクは式神としてA級になって、受肉する予定」

「それは上手く行きませんでしたね。さて、どうしましょうかねぇ」


 悩む素振りを見せた白爺を、黒爺が切り捨てる。


「どうも、こうも、無い。100年も経てば、一つくらい力が上がって、式神からも外れておろう。その時に来たければ、勝手に来れば良い」

「人間陣営が負けちゃったらね。でも日本全土を支配するのは、無理じゃないかなぁ」

「ほっほっほ。流石は割り切りの良い絡新婦ですね。それでは、そのように」


 示し合わせた白黒の霊は、スッと溶けるように、姿を消していく。


「あれ、行っちゃうの?」


 自分が聞けば答えが貰えるかもしれないと考えた水仙が、すかさず虚空に向かって尋ねた。

 すると案の定、優しいと伝えられる白爺が、黒爺の孫娘に返答した。


『呪力を集めるのが目的でしたからねぇ。戦力を削れるのであれば別ですが、そうではないのなら、ここで削り合っても無駄遣い。それでは、またどこかで……』


 そう言い残した白黒無常は、今度こそ闇夜に溶けて、消えていった。

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前作も、よろしくお願いします!
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― 新着の感想 ―
[一言] 新たな式神かぁ。雑魚狩り系の八咫烏増やすよりかは、魔王戦とかの事考えると一個体で強い存在を式に迎えたいところだが。 まさかの水仙のお爺ちゃん!そして利が無いと見るや逃げるとは、厄介なタイプ…
[一言] 伯母さんが白でママが黒 絡新婦もシェアしたのか、仲良すぎで変態だわこの白黒
[一言] おじいちゃん!
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