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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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162話 未来の後輩

「東京23区が、八咫烏達の縄張りになったことは理解したよ」


 長官の表現はさておき、八咫烏達の行動と活動範囲の認識は、概ね共有された。


「東京都で陰陽師の仕事が減ってしまうのは、申し訳ないと思いますが」

「そちらに関しては、魔王の占領地域の封鎖や、護符を作成する仕事が、継続して入ってきます」


 東京都の統括である道直は、陰陽師の収入については問題ないと保証した。

 占領地域の封鎖は、遠方から式神を放つだけでも、助力が出来る。

 煙鬼はF級陰陽師でも倒せるので、割り当てられたエリアで煙鬼を倒す包囲網に参加すれば、相応の収入を得られる。

 また世間では、煙鬼を防ぐ護符の需要が高まっている。

 護符は、時間経過で、籠めた気が抜けていく。

 そのため一定の期間で新しい護符が必要になるが、需要が高まったので、普段から作成している引退者だけでは手が足りていない。

 護符の作成と支部への納品依頼は、現役陰陽師にも発生していた。


「確かに本部は、予算と手間を惜しんでいませんね」


 このために何十年も貯めてきたのだと言わんばかりの支出で、本部は魔王対策を行っている。

 普段よりも大きく稼ぐことは難しいが、仕事に困って食いっぱぐれることもない。


「問題は、手頃な相手が減って、等級や実力を上げることが難しくなる部分でしょうか」


 問題点を挙げられた一樹は、同席する茉莉花に視線を向けた。

 九条茉莉花は、今年の国家試験で4位だった。

 4位や5位であれば、呪力や技術的に、C級の力は有ると見なされる。

 C級への昇格は、D級上位の妖怪を単独撃破した実績と、支部や上級陰陽師の推薦があれば良い。父親が統括であれば、昇格できそうな妖怪を回してもらい、それを倒して推薦を受けて昇格だ。


 だが幼少期から修行を積んできて、修行で上げられる分は、充分に上がっている。

 もはや現場に出なければ、実力は上がらない。

 過去の五鬼童家であれば、国家試験の合格後に現場に出て、20歳までにB級へ上がっていた。

 九条本家の後継者レベルあれば、五鬼童の分家と比べて能力的に大きくは劣らないはずなので、同じことをすれば良い。

 両家に違いがあるとすれば、A級陰陽師を抱える五鬼童家が全国規模の霊障を引き受けられて、東京の統括である九条家が東京都を中心とした霊障を担う点だ。

 今回の場合、東京に発生するC級妖怪が、軒並み八咫烏達に潰されてしまっている。

 東京の空模様は、『晴れ、時々、投げ落とされる妖怪』である。


「周囲の県で上げるのも、縄張り的に難しそうですね」

「家や娘の将来に鑑みても、隣県の統括に借りを作るのは、避けたいところです」


 統括の道直は、口では困っていると訴えつつも、態度ではまったく困っていなさそうだった。

 何かしらアテがあり、そのために余裕を保っていそうな雰囲気を一樹は察した。

 一樹が予想したのは、この状況を作り出した一樹や、承認した常任理事の1人である小太郎らが住む花咲市に進学して、他家には借りを作らずに、茉莉花をB級に上げる方法だった。

 花咲高校の陰陽同好会には、A級陰陽師が居て、同じC級で2位の香苗と3位の柚葉が、指導を受けている。

 何をしているのか見れば参考になるし、同好会の後輩であれば教えて貰える。

 祖父や父にしてみれば、これほど進学させたい学校は、ほかに無い。


「今年、陰陽師の国家試験を受けた茉莉花さんは、中学三年生ですか」

「そうですわ。受験先の候補には、花咲高校も含めておりますの」

「……そうでしょうね。まあ、分かります」


 東京23区の妖怪を殲滅しておいて、来るなとも言えない。

 悟りを開いたように泰然自若としながら、一樹は事態を受け入れた。


「花咲高校の学校説明会は、今年は大盛況で、ネットに動画を載せたと聞いています。受験倍率は、高いかもしれません」

「ええ、存じておりますわ」


 増えた受験生のうち、茉莉花のような理由は少数派だ。

 予想される受験者の多くは、今年の陰陽師国家試験で一次試験を通り、二次試験で落ちた者達だ。7000人以上は居て、その中では中学三年生が最も多い。

 偏差値不足、遠方の場合に1人暮らしする諸問題、協会から斡旋された師匠を変更する問題など、受験自体を断念する理由もある。

 だが巷では、陰陽同好会を目当てに、受験生が2000人は増えると噂されている。

 なにしろ一樹は、呪力がE級だった素人の香苗を、4ヵ月で国家試験の2位にした。

 また一樹の父である和則も、息子をA級に育てた。呪力が高くても、技術が伴わなければA級に成れないので、世間からは優れた指導者だと評価されている。

 同好会は、協会が斡旋した師匠よりもハイレベルだと、素人目にも思われている。


 ――入会するだけでも、アドバンテージがあるからな。


 陰陽師に成る場合、一樹達の一学年後輩として知己を得ることは、強みになる。

 学生時代に得た連絡先を使って、「先輩、実は困っていまして」と相談すれば、何らかの助けを借りられるかもしれない。

 その先輩が、賀茂家、花咲家、五鬼童家などだ。

 ほかにも香苗とA級3位の豊川との繋がりが、知られている。

 国家試験の一次に通り、将来は陰陽師になろうと思った中学生の場合、花咲高校は進学先の選択肢に入るだろう。


 ――沢山来たら、どうしよう。


 花咲高校の1学年は、300人だ。

 A級の花咲家を脅してコネで入学できる者は居ないだろうが、普通に受験して上から300人以内に入れば、それはもう合格にするしかない。

 一学年300人のうち半分ほどが、同好会に入会希望を出す可能性を想像した一樹は、茫然自失とした。


「茉莉花が花咲高校に合格したら、同好会への入会はよろしく頼むよ」

「……分かりました」


 茉莉花ほど陰陽師として有望な人間は、流石に断れない。

 そのように考えた一樹は、長官からの念押しに対して、機械的に応じた。

 一樹の同意を確認した長官は、気を緩めてコーヒーカップに口を付け、場の空気を弛緩させた。

 それに合せて一樹も、コーヒーを啜る。それは上等なホテルで出されるような高級なコーヒーで、砂糖とミルクを入れなくても、旨みが感じられた。

 一樹がカップを降ろしたところで、長官が口を開く。


「茉莉花の考えとは無関係の話だが、九条家当主の私個人としては、賀茂家との縁を結びたいと考えていてね」


 たまに聞く話だろうかと身構えた一樹に対して、長官は即座に否定する。


「当代で出遅れたのは知っている。君の子供や、孫の世代の話だよ」

「それは、どういうことでしょうか」

「五鬼童の修験道、協会長の一子相伝であろう何らかの血筋、花咲の犬神などは、引き継げまい。だが君の場合は、先祖返りとされていて、呪力が莫大だ。子供の呪力は、親の影響を受ける」


 一樹の呪力は、A級だと知られている。

 A級中位とされる幽霊巡視船を使役しており、蜃や魔王への砲撃を行って、力を示した。


「両親の呪力を足して2で割る話ではなく、掛け合わせ次第だが、君であれば子供もA級だろう。我が家は、数百年単位で物事を見る。君の子供や孫の世代でも、両家で縁を結べればと思っている」

「なるほど」

「陰陽大家同士では、よくある話だがね。九条家は、賀茂家と縁を結びたいと考えている。我が家は君自身が言ったとおり、陰陽大家でも上位の家柄だ。一考しておいてくれたまえ」

「本人が望めば、良いのではありませんか」


 自分のことではないのならば、自分が可能性を狭める理由もない。

 そのように一樹は判断して、玉虫色の回答を返した。


「今のところ、否定されないだけでも充分だよ。君が妖狐を好むのであれば、我が家にも可能性が乏しいわけではないからね」

「……はぁ?」


 長官が宣った言葉を理解しかねた一樹は、戸惑って聞き返した。

 鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる一樹の様子を見て、長官は孫娘に目配せした。

 すると長官に促された茉莉花が、根拠を説明した。


「愛人に関するアンケート、取っておられましたわよね」

「茉莉花は、祈理陰陽師のファンでね。4位になったときは悔しがっていたが、エキシビションマッチを見て、納得していたよ」

「わたくしが戦っても勝てませんわ。ですから順位には、納得しましたの。お姉様の歌唱奉納や、歌動画も見ていますわ。だからA級の殿方がお相手でしたら、納得だったのですけれど」


 そこまで言い募った茉莉花は、一樹が否定的な表情を浮かべていることに戸惑い、沈黙して一樹の説明を求めた。

 香苗が行ったアンケートとは、「子供が上級陰陽師になりそうな人が、愛人を持つことについて、『清き一票』をお願いします」と意見を求めたことだろうと、一樹は思い至った。

 投票先は2種類で、「愛人は持つべきではない」と、「愛人を持っても良い」だった。

 投票開始から24時間後、1対99くらいの差が出て、決着している。

 なお一樹は、投票には参加していないにもかかわらず、なぜか冷たい目を向けられた。


「確かに香苗はアンケートを取ったが、あれは式神とのジェネレーションギャップについて、外部に見解を求めたものだ。俺とは関係ない」

「まあっ、そうでしたのね!」


 歓喜した茉莉花は、嬉しそうに語る。


「わたくしはもちろん、持つべきではないに、投票しましたわ。だってお姉様が悲しむなんて、いけないことでしょう」

「孫娘は、祈理陰陽師の信者でね。我が家の見解というわけではないよ」


 話を聞いていた長官が、すかさず補足した。

 子供の呪力を高く保つために、複数の女性と子を為すことは、現代でも行われている。

 一樹が知る限りでは、秋田県の陰陽大家で一時的に当主を務めていた春日結月は、肯定派だった。借りを返すための提案として一樹に持ち掛けて、沙羅に却下されている。

 その一方で、沙羅自身が刑法に定められておらず、社会的にも支持されると訴えている。要するに、自家や自分に都合が良ければ利用する方便だ。

 九条家としては、選択肢を狭めたくないのだろう。

 一樹は九条家の方針を理解したが、祖父の補足を聞いた茉莉花は、祖父の意見を否定する。


「わたくしは反対ですわよ」


 まったく言う事を聞かなそうな茉莉花の様子に、一樹は「大変ですね」と視線で訴えかけた。

 すると長官と統括は、無言のまま、揃って頷き返した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 都内のめぼしい妖が全滅なせいで経験が積めないのは、一樹と理事会のせい。 それは都内の術師に対処が出来なかったからであり、東京の統括である九条家も無関係ではないはず。 しかしここで押すのが長官…
[一言] 「確かに本部は、予算と手間を惜しんでいませんね」 このために何十年も貯めてきたのだと言わんばかりの支出で、本部は魔王対策を行っている。 介入出来ない政府w 花咲高校の倍率はエグいだろうな。…
[気になる点] 歴史を重んじる割には、日本史上、まだまだ実行期間の短い西側の倫理観押し付けによる一夫一婦制を当たり前に掲げるとは、価値観ごっちゃ煮になっとるな…。
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