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13 パラソルをさす女 ②

「同じ学校に通っているお友達か何か知らないが、お前を庇わせれば八神奏まで巻き込むことになるぞ、神代梓……さっきから黙ってないで、何とか言えよっ」


 神代に詰め寄る青年が、荒っぽく神代の肩を突き飛ばそうとした瞬間、俺の中で何かがキレた。


「汚い手で、俺の弟子に触るな」


 気付けば、青年の手を払いのけていた。



 視界の端で、八神が信じられないものでも見ているかのような表情を浮かべていた。俺自身、自分のものでなくなってしまったみたいに……口が、身体が、勝手に動く。いま俺は、俺の大事なものを傷付けようとしている青年への怒りに突き動かされていた。


 俺が動くと思っていなかったのか、目を見開いていた青年が、我に返ったかのように引きつった笑みを浮かべる。


「……盗作者の弟子は、やっぱり盗作者か。今さらノコノコ出てきて、恥を知れ!」

「根拠は」


 キンキンと頭に響く声に、早くこの茶番を終わらせたくて一言尋ねる。


「は……?」

「神代が盗作したと言う、根拠を示せ」


 俺の冷ややかな声に対して、名前も知らない青年は鬼の首を取ったかのように笑った。


「これだよ」


 ピンッと弾かれて来たURL共有の申請に、眉をしかめて承諾すると、どこか前時代的で簡素なブログページが表示された。そこには作品の詳細な製作過程が画像つきで綴られていた。製作が始まった日付は、確かに神代が本格的な製作に乗り出すよりも、ずっと前の日付になっている。


 俺は思わず溜め息を吐いた。成す(すべ)がない……お粗末すぎる仕掛けに。


「お前か……学内ネットに、不正アクセス履歴を残していったヤツ」

「っ、それこそ何の根拠で!」


 ウチの学内ネットは、学校関係者ではない人間が校内に侵入していることを確認すると、即座に追跡を開始して教師や守衛に連絡が届くようになっている。近頃ウチの制服を着ているのに顔認証が一致しない人間が、時折校内に入り込んでいることが問題になっていたが、いつも美術室に入り込む他の悪事を働いていないために様子見されていた。


 大方、俺の弱みか何かを握るために入り込んだんだろうが、弱みも何も弱さしかない俺に断念したのか……そうだとしたら悲しすぎる結末だが。とにかく、そこで見つけてしまったんだろう。八神と神代の、描きかけの作品を。八神の作品は人物がメインの作品で、神代は植物メインの風景画。人物画はモデルが存在する場合、モデルを見ずに原作を越えることは難しいと判断しての作品チョイス……妥当なところだな。


 まあ、普通は桜花賞に提出する作品を学校の美術室なんぞで仕上げたり、それどころか乾燥棚に放置しとくなんてアホなことをやらかしたりはしないもんだが、八神も神代も今回の作品はあくまで『芸術部として』提出することにこだわっていた。まあ、顧問として教師としてしか手助けしない、とか宣言してた俺の所為でもある……ただ、今回はそれもあるから二人を守ってやれる。別に俺が有能だとか、そういうのが理由じゃない……これだ。



「ほれ」



 ぴっ、とおざなりに俺が投げた一時的な閲覧・アクセス権限に、未だに名乗ってくれないため名無しの権兵衛(ごんべえ)青年が、驚愕の表情を浮かべた。テレビ()えしそうな、いいリアクションだ。


「なっ……なんだこれは」

「いや、見りゃ分かるだろ……伝家(でんか)の宝刀『部活動日誌』だよ」


 どのあたりが伝家の宝刀なのかは分からないが、権兵衛青年はそこに書かれた内容に釘付けになっていて、ツッコむヒマもないらしい。俺が二度と同じ過去をくり返さないため、芸術部のメンバーに唯一(ただひと)つの義務として課してきた部活動日誌の記録。そこには、どんな議論をしてどんなアイデアが出されたのかという詳細な文字記録、それに加えて個々人の作品の制作過程からその日の到達度までが写真付きで残されていた。


 つまり、あくまで部活動の一環として描かれた八神と神代の作品も、そのアイデア出しから制作過程までが詳細に綴られていることになる。


「こっ、こんなもの、認められるかっ。そもそも、デジタルで一般に公開されていない個人蔵の記録なんて信用できない。そもそも、日付だって僕のものより後だろう!」


 俺を睨みつけてあくまで退かないつもりらしい青年に、俺は溜め息を吐いた。


「はぁ……あのな、部活動日誌って言ったはずなんだけど。そちらさんが部活に入ってたことあるのかどうか知らないけど、基本的に部活動ってのは生徒会の管轄なんだよ。んで、活動実績の証明とかも踏まえて、毎日生徒会のデータベースに蓄積させてる。ちなみに、一部ならアナログデータも保管してもらってるから、出るトコ出て戦うってんなら喜んで証拠として提示するぞ?」

「なっ……」


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