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11 印象・日の出。その刹那に、ようやく辿り着いた。

〈ようこそ、常磐祭(ときわまつり)へ!今日は来てくれてありがとっ!あなたのために、ナビゲーターの私『ときわん』が丸一日エスコートしちゃうよっ!〉


「うへぇ……」


 思わず正直な感想が口からこぼれる。レゾナンスのシンクロ機能をオンにしたことを、たったの数秒で後悔させられそうになっていた。だが、これも仕事だ……誰だよ、教師はシンクロを常にオンで学園祭の見回りしろとか言い出したヤツは。


 極力見ないようにしていても、視界の端でフヨフヨとピンク色の物体が浮いているのが気になって仕方ない。頭に響くし、頼むからキンキン声は出さないでくれよーと念じながら、そろそろと視線を向ける。


 それは、最近あまりにも見慣れていたツインテール……そこはかとなく八神に似ている容姿でありながら、小さな羽が生えたナビゲーターの妖精さんだった。八神と違うところは、ショッキングなピンクの髪で、甘ったるいフリフリの白とピンクのドレスを着ていて、ハートの宝石がついたステッキなんざを持って浮いていることくらいだろうか。ちなみにリアル八神の十分の一以下という、手の平サイズになっている。


(これモデリングしたヤツ、相当なオタクだろ。何のオタクとは言わないが……哀れ八神)


 きっと、八神本人が見たら憤死するに違いない。それくらいに良く似てるけど、どれだけ八神が童顔でツインテールだからといって、こんな幼児向けアニメにでも出てきそうな格好をさすがにしてたりは……それとも、意外とこういうのが趣味なのか?シンクロの時のアバター、かなり少女趣味のエプロンドレスだった気がするけど。怖いから、考えるのやめておこう。


(にしても、よく出来てるな……ムダに)


 なんでも、ウチの学園にはプログラミング部なるものが存在しているらしく、そこが身命(しんめい)()して創り上げたAIだのプログラムだのなんだのが搭載されているから、自然な表情とか受け答えとかがバッチリなんていうムダにハイテクな代物なんだとか。


 俺がまだ仕事が始まったばかりの朝であることも相まって、ボンヤリした頭で(大体いつもボンヤリしてるけど)なんとなくピンク八神もとい『ときわん』を眺めていたら、不意にそのチビ妖精が顔を赤くして挙動不審な素振(そぶ)りを見せた。


「ちょっと、あんまり見ないでよねっ。エッチ!」


 俺は思わず誰かに聞かれてないか周囲を確認してしまった。落ち着け、俺。これは八神本人じゃないし、そもそも人間じゃないし、んでもって個人のレゾナンスに対応してるナビゲーターAIだから他人からは見えないし聞こえない、はずだ。


 にしても、これ作ったヤツ……いったい八神を何者だと思ってるんだよ。八神に似すぎてるせいで、俺がリアルにイケナイことしてるみたいで反応に困るし、地味にウザい。いや、そこはかとなくウザい。だって、あのツインテールが羽生(はねは)やして四六時中視界をフヨフヨしてるんだぞ?


「先生?そんなところで何してるんですか?」


 そこでちょうど良いところに通りすがった青木クンが、俺には神の助けみたいに感じられた。神様、信じてないけど。


「青木、このフワフワしてるやつ、なんとかしてくれ」

「先生の要求がフワフワしすぎてて、なんのことだか分からないですよ……ついにおかしなものでも見えるようになったんですか?」


 俺に残念なものでも見るみたいな、哀れみの視線を向けるのマジでやめろ、傷付いちゃうだろ。


「八神を消してくれ」

「二人って、そんなに険悪な関係だったんですか……」


 そっちじゃない。リアル八神をリアルに消せなんて、それこそマフィアの親分みたいな命令してるわけじゃない。マフィアの親分よく知らないから、完全に来栖の受け売りだけど。


「この、視界をフヨフヨしてるピンクのツインテールの方だ」

「ああ、例のプログラミング部が作ったっていう。そんなの、AIなんですからナビゲーターに『今は引っ込んでてくれ』って頼めばいいじゃないですか」

「へ……?」


 俺はちょっと考えた後に、恐る恐るピンクのツインテールに向き直った。そいつはまだ俺を変質者でも見るみたいな視線で睨みつけながら、それでも空中をフヨフヨしていた……このAI、みんなこんな感じなのか?なんか俺に対してだけ当たりが強いとか、そういうのない?みんなこれだとしたら、情操教育とか公序良俗の問題的に大丈夫か?


 もしも俺に対してだけなんだとしたら、それはそれで複雑な気分だ。それって、AIが『穂高燿はこうした方が喜ぶ』って判断したってことだよな?まだ一言も交わしてないのに。断じて俺は、幼女に(ののし)られて睨まれて喜ぶような変態的な趣味は持ち合わせてないぞ。断じて。


 一先ず、青木の教えに従ってみよう。それで消えてくれなかったとしても、せいぜい俺が何もない空間に向かって話しかける、なんていう奇行を繰り広げるだけで誰も傷付かない。平和的な解決だ。


「今は引っ込んでてくれないか」


 すると『ときわん』はどこかホッとしたような表情を浮かべて、クルリと空中で一回転してみせた。



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